「訪日」の付加価値として


毎日新聞No.522 【平成30年8月31日発行】

 727日、国内にカジノを含む複合施設の建設を推進する法律「特定複合観光施設区域整備法」(通称、IR実施法)が公布された。これは「経済社会の活力の向上及び持続的発展を図るため」に「我が国において国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現する」ことを目的に掲げ、カジノ施設と会議場や公演ホール、宿泊施設などの整備を進めようとするものである。
 このカジノ施設に関しては、増加傾向にある訪日外国人観光客に遊興の場を提供する必要性だけでなく、アジア圏に複数のカジノが既に存在していることやギャンブル依存症を誘発することなど、大いに議論されていたことは記憶に新しい。
 ただ、これらの議論と同時期に国際的に公表され、同じ様に訪日外国人や国民生活に関係するにも関わらず、国内ではあまり議論されていない問題として「ゲーム依存症」がある。

 6月に世界保健機関が公表した「国際疾病分類」の最終案に、ゲームがやめられずに日常生活に支障をきたす状況として「ゲーム障害」がリストアップされ、来年の総会で採択されれば国際疾病として位置付けられることとなった。
 日本のゲームが、アニメと並んで日本のポップカルチャーとして世界に認知されていることは、2016年に開催されたリオ五輪の閉会式において首相がゲームキャラクターに扮して登場したことや、テレビ番組で日本に興味を持つきっかけとしてアニメやゲームを挙げる訪日外国人の多さなどからも異論は少なかろう。
 一方で、国内に約5千万人いると言われるゲームユーザーの中には、夢中になりすぎて日常生活に支障をきたしたり、課金が止められずに負債を抱えてしまう人が多くなっており、これが世界保健機関の動きにつながったことは否定できない。

 観光立国を掲げる中で、旅行先に日本を選択してもらう理由付けとして、カジノ施設やゲームは大きな可能性を秘めていると思う。
 しかしその一方で、依存症に悩む人が多い地域を訪れる観光客の心情を察すると、苦しむ人たちを積極的にケアし、誰もが楽しめる環境とすることが、カジノやゲームをより魅力的な「訪日」の付加価値として位置付けることにつながるのではなかろうか。

(山梨総合研究所 主任研究員 森屋 直樹