人は城、人は石垣、人は堀
毎日新聞No.523 【平成30年9月14日発行】
先月末、来年度予算の各省庁からの概算要求が出そろった。一般会計の要求総額は、社会保障費の増加などにより、100兆円を上回る見通しとなった。
各省庁の要求内容を見ていて、いくつかの省庁で共通している項目があった。
「リカレント教育」である。
「リカレント教育」とは、就職後も生涯にわたって教育と労働などの他の諸活動を交互に行なうといった概念である。1973年に経済協力開発機構(OECD)が公表した報告書「リカレント教育-生涯学習のための戦略-」で国際的に広く認知されていった。報告書には、人生の初期(青少年期)に集中していた教育政策を、一生涯にわたって行うことの有用性などが述べられている。
また、リカレント教育は、安倍政権の経済政策の柱である「人づくり革命」を推進するうえでも鍵となる施策として位置づけられている。
我が国においては、これまで、仕事に必要な知識・技術の習得は、長期雇用を前提とする企業内教育に依存してきた。しかし近年、従来の雇用形態が揺らぎ始め、さらにAI・IoTなどの社会実装が進み人の役割が変化する中、いつでも誰でも主体的に学び直せるリカレント教育の必要性が増してきている。
一方で、文部科学省が2015年度に実施した調査では、リカレント教育について、勤務時間が長くて十分な時間がない、職場の理解を得られないといった課題もあがっている。
これまで、様々な形でリカレント教育は進められてきたが、さらなる環境整備が今後の課題であり、関連施策や各職場での取り組みなどが求められている。
人生100年時代と言われる中、1人ひとりが生きがいを持って生活を送るためにも、生涯を通して学び続けるリカレント教育を社会全体で確立していくことが重要ではないだろうか。
本県が誇る戦国大名、武田信玄公は、「人は城、人は石垣、人は堀」という言葉を残した。人こそが大切な財産であるという、現代社会にも通じる教訓ではないだろうか。
(山梨総合研究所 主任研究員 小林 雄樹)