VOL.99 「12.4倍」
イギリスに1946年に創設されたメンサという組織がある。
この組織には、人口の上位2%の知能指数の持ち主であれば誰でも入ることができる。
メンサは、以下の3つを目的としている。
1.知性才能を、認知、育成し、人類の向上に役立てること。
2.知性の原理、性質、そしてその適用などを研究することを激励すること。
3.メンバーのための知的、かつ社会的活動を促進させること。
著名な会員では、アルベルト・アインシュタイン。日本では、脳科学者の茂木健一郎(東京大学)、お笑い芸人の宇治原史規(京都大学)。
メンサの会員は、全世界100か国以上で約134,000人。世界全大陸の40か国に支部があり、日本には2018年9月現在で約3,500人の会員がいる。
メンサの本部が置かれているイギリスの会員数は約22,700人、アメリカは約50,000人である。10万人当たりで比較すると、イギリスは、34.10人、アメリカは、15.30人、日本は2.77人である。イギリスのメンサ会員数は日本の12.4倍、アメリカは5.5倍である。
メンサの会員になるような子供は、ギフテッドチルドレンと呼ばれるが、日本にはこのギフテッドチルドレンを発掘する仕組みがない。ギフテッドチルドレンは貧困層や障がい者の中にも存在する。日本では子どもの貧困が問題視されており一般的な教育が満足に受けられない状況がクローズアップされている。一方アメリカではギフテッド教育が行われており、貧困層や障がい者の中からもギフテッドチルドレンが発掘されている。
ギフテッド教育では従来からSTEM教育(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マスマティクス)に力を入れている。つまり、プログラミングやデータサイエンスなど、今後急速に需要が拡大するAIやIoTの分野に強い人材の育成に重点を置いた教育が行われてきた。日本では2020年から小学校でプログラミング教育が始まる。新学習指導要領ではプログラミング自体を学ぶことではなく論理的思考力を育てることが目的であるとされているが、政府の成長戦略に鑑みるとICT人材の育成を念頭に置いていることは明らかである。現在、Amazon、Google、FacebookなどICTの分野ではアメリカの一人勝ちの状況となっており日本はまったく主導権を握れていない。このような状況を生み出した根底に両国とのギフテッドチルドレンに対する発掘・育成環境の相違が影響していることは想像に難くない。Society5.0に代表される政府の成長戦略を実現するためには、小学校のプログラミング教育だけではこころもとない。今こそ、日本はギフテッドチルドレンの発掘に力を注ぐべきである。
山梨総合研究所 主任研究員 小池 映之