シェアエコが開く新市場
毎日新聞No.524 【平成30年9月28日発行】
その昔、「名犬ジョリィ」というアニメ番組があった。主人公の少年・セバスチャンと大型犬のジョリーが助け合いながら母を探して旅をする物語だ。そのエンディング曲は、寒くなれば毛布を少年と犬で「半分こ」し、お腹が空いたら食べ物を「半分こ」し、と全てを共有する内容だった。山梨総合研究所が先日開いたセミナーの会場で、シェアリング・エコノミー(シェアエコ)に関する講演を聞きながら「名犬ジョリィ」の歌を思い出していた。
シェアエコは場所・乗り物・モノ・人・スキル・お金をインターネット上のプラットフォームを介して個人間で貸借や売買、交換し、シェア(共有)していく新しい経済の動きだ。日本語ではそのまま「共有経済」と表現される。2008年のシリコンバレーを起点に世界各国で展開され、近年、日本でも急速に市場規模が拡大している。7月に内閣府が発表した「シェアリング・エコノミー等新分野の経済活動の計測に関する調査研究」の報告書によれば、2016年の国内総生産(GDP)にシェアエコを計上すると950億~1,350億円の押し上げ効果があると推計されている。
なぜ急速に広がっているのか。講演では、ソーシャルメディアとスマートフォンの普及が大きく関わり、1対多、多対多などの関係を次々と生み出したことが挙げられる、との分析があった。
シェアエコを考えてみると、対極にある課題への解決策として利用されることが多いのに気づく。例えばライドシェアは、交通が過密の都心と過疎の地方、民泊はインバウンド頼みの共通項はあるが、2年後に東京五輪を控え宿泊や滞在場所を確保したい都心と空き家対策に頭を悩ます地方。洋服の定額制レンタルサービスは、これ以上、洋服の所持数を増やしたくないファッション好きと、着まわしはしたいがそれほど手持ちのない人。シェアエコがすべてに通じる処方せんや特効薬となるわけではないが、逆の課題、異なる環境に対して1つのコンテンツを併用できることも、市場が急成長した一因になっているのではないだろうか。シェアエコが急成長していくことで、メーカーや従来型のサービス事業者が戦略の見直しを迫られる側面もあるだろう。
さて、「名犬ジョリィ」のエンディング曲の最後には「希望も半分こ」という歌詞がある。シェアエコの発展によって課題解決への希望が半分こ、どころか2倍、3倍に膨らむ世界が、もうそこまで来ているのかもしれない。
(山梨総合研究所 主任研究員 渡辺 たま緒)