工業標準化から産業標準化へ
毎日新聞No.525 【平成30年10月12日発行】
このところ、日本企業の品質に対する信頼が揺らぐような事案が発生している。その中には、品質保証の仕組みにおいて技術的な進歩により不要となったと考えられる手続きを規則を変更せずに実施しなかったケースもある。一方でデータを改ざんして規格を満たしているように偽装するという犯罪的な行為も報道されている。これらは、現場とトップマネジメントが乖離(かいり)していることを物語っているといっても過言ではない。
かつて、1980年代にTQC(全社的品質管理)で大きな実績をあげてきた日本の誇るべき活動はTQM(総合質経営)と称されるようになった。グローバリズムの流れの中で次第に変容してきているように思われる。例えば現場の小規模な集団行動を示すQCサークルは1962年に始まったが、現在は非正規社員が現場に入ってきたために従来のような社員同士の活動が容易でなくなってきているという声も聞く。一方、QCサークル活動は、4年ごとに国際QCサークル大会が開催されるほど世界に普及してきている。
9月26、27日に中国浙江大学で開催された、第3回アジアQFD(品質機能展開)シンポジウムに参加した。そこでは人民解放軍の総合病院や南京総合病院の活動が制服姿で発表され、驚かされた。このように、一世を風靡(ふうび)した日本のTQMが少しずつ変容する中で、世界ではそれを更に発展させるべく取り組みが行われていることは謙虚に受け止めなければならない。
さて、日本の品質管理において日本工業規格(JIS)の果たしてきた役割は重要である。品質に係る不祥事や最近の国際動向に鑑み、2018年に入り工業標準化法が産業標準化法に変わり、日本工業規格は日本産業規格(JIS)になった。その目的は第4次産業革命が進行する中でわが国の優位性を確保するために、鉱工業品等を対象とする従来のJISから、データ、サービス等への対象拡大→JISの制定・改正の迅速化→JISマークによる企業間取引の信頼性確保→官民の国際標準化活動の推進―を図ることとされている。
この法改正に基づいて、一般財団法人日本規格協会(JSA)は、JSA規格(JSAS)「JSAS1001ヒューマンリソースマネジメント―従業員満足―組織における行動規範のための指針」などを作成中である。また、組織も来年4月には新たに日本規格協会グループとしてスタートすることになっている。
(山梨総合研究所 理事長 新藤久和)