「ゆるキャン△ですか?」からはじまる交流
毎日新聞No.526 【平成30年10月26日発行】
「ゆるキャン△」をご存知だろうか。身延町に住む個性豊かな5人の女子高生が、ゆるくキャンプを楽しむ物語である。原作はコミックであるが、2018年1月から放送されたアニメが好評を博し、アニメの続編製作と映画化が決定するほどの人気作品である。
主人公達が通う高校のモデルとなったのが、身延町(旧下部町)常葉に所在し、現在は廃校となってしまった旧下部小学校と中学校である。「ゆるキャン△」の聖地とされ、巡礼者と呼ばれるファンが数多く訪れている。
2018年5月、常葉地区の住民や旧下部小・中学校の卒業生を中心に10人の有志が集まり「五条ヶ丘活性化推進協議会」(以下、協議会)を立ち上げた。
巡礼者へのもてなしや交流、地域のみどころの紹介、巡礼マップや案内看板の作成、イベントの企画と運営など精力的に活動している。特筆すべきは、地域住民に向けて「ゆるキャン△」の魅力を紹介し、地域全体で作品への理解を深め、ファンと交流し、もてなしている点である。
「ゆるキャン△」というコンテンツが、地域住民がそれぞれの心にしまい込んでいた「地域をなんとかしたい」という想いを引き出し、行動に結びつけた。さらに、男女や年齢を問わず地域内共通の話題となり、地域の一体感と、もてなしの心を醸成した。また、自治体合併以前の旧身延町や旧中富町エリアの住民からも賛同者や協力者が現れ、合併自治体の多くが抱えている旧町村意識という心の壁も乗り越えつつあるという。
京都から来た男性は、「地域の人が『ゆるキャン△』を知っていて、気さくに話しかけてくれる。作品の話題だけでなく、いろいろな話ができた。」と顔を綻ばせながら話してくれた。
ファンにとっては聖地の住民が作品を理解し受け入れてくれて嬉しい、住民にとっては地域に興味を持ち訪れてもらえて嬉しい。このように、観光地ではないからこそできる、損得勘定抜きの心からの笑顔を交わすことで、心温まる交流が生まれている。
そして、協議会の深山光信会長は「いつか『ゆるキャン△』の物語が終わってしまったとしても、作品をきっかけに地域のファンとなってくれた人や、住民同士の心のつながりは、地域の財産として残したい。」と言い、しっかりと将来を見据えていた。
身延の山はもうすぐ紅葉を迎える。地域住民のおもてなしの心と、郷土への想いに触れに、足を運んでみてはいかがだろうか。
(山梨総合研究所 研究員 大多和健人)