Vol.244-2 山梨県におけるふるさと納税の状況と今後について


公益財団法人 山梨総合研究所
研究員 小澤 陽介 

1.はじめに

 ふるさと納税の拡大には目ざましいものがある。総務省によると、平成29年度のふるさと納税の状況は、寄附総額3,653億円、件数1,730万件で寄附総額、件数ともに過去最高を更新している。
 簡単に制度について説明すると、ふるさと納税とは、ふるさとや応援したい自治体に寄附ができる制度である。手続きを行うと、寄附額から2,000円を控除した金額が所得税や住民税より控除され、寄附した自治体から魅力的な返礼品がもらえるという仕組みとなっている。また寄附者は応援したい自治体を選ぶことができ、寄付金の使い道も指定可能である。
 制度策定の背景として、まず地方から都市部に上京した多くの人々が、ふるさとを応援したいという希望を持っていたということが挙げられる。一方、地方自治体は税収が減少しており、財政が厳しくなっていたため、税収を確保する施策を検討していた。こうした状況下、この両者の希望をマッチできるようにと、この制度が作られたわけである。

図1 全国のふるさと納税額の推移

(出典)総務省・ふるさと納税に関する現況調査結果より作成

 

 政府は地方分権を進めるなかで、この制度を有効活用し、地方自治体の自立を後押ししてきた。一見すると極めて有効な制度のようであるが、制度がスタートして約10年、自治体による税収確保のための返礼品競争の過激化や、都市部の大幅な税収減少といった様々な弊害が散見されるようになってきた。そこで本稿では、山梨県のふるさと納税の状況等を整理しつつ、本制度の課題や今後について考察を行う。

 

 2.山梨県内のふるさと納税の現状

 総務省の発表によると、平成29年度山梨県と県内自治体へのふるさと納税の状況は以下のようになっている。

図2 山梨県内自治体へのふるさと納税の状況(平成29年度)

※寄附額と返礼品調達にかかる費用額の単位は千円
(出典)総務省・ふるさと納税に関する現況調査結果より作成

 

 山梨県と県内市町村に対するふるさと納税の平成29年度寄附総額は前年度の約1.6倍に当たる444,042万5千円となり、過去最高を更新した。トップは富士吉田市の176,2679千円で前年度の2.3倍であった。南アルプス市が64404千円で続き、前年度の2.4倍だった。寄附額が前年度を上回ったのは20市町村で、返礼品調達にかかる費用額(送料や広報費などは含まない)の県内自治体の総額は133,3645千円となっている。総務省は寄附総額に占める返礼品調達額の割合は30%以下に抑えるよう求めていて、県全体では30.0%であった。市町村別では30%を超える市町村が11あり、このうち3市村は40%を超えていた。最も比率が高い市町村は山中湖村で48.6%であった。
 このように、山梨県内の自治体においても、ふるさと納税は伸びているが、自治体ではどんな動きがみられるのだろうか。ここでは、昨年度大きく納税額が増加した富士吉田市と、体験型ふるさと納税に注力している中央市、ふるさと納税により財政に負担が発生している昭和町の状況について取り上げてみる。

 

 富士吉田市のふるさと納税

 富士吉田市は前述の通り、前年度から納税額が2.3倍と大幅な増加となっている。市長は平成301月の定例会見で「納税者へのアフターケアやバラエティに富んだ返礼品の商品開発が増加の要因」との考え方を示した。
 富士吉田市のふるさと納税で、特に私が注目したのは、ふるさと納税の使い道である。富士吉田市ふるさと納税特設サイトによると、ふるさと納税の使い道において平成28年度最も金額が集まった事業は、指定なしを除くと、世界文化遺産富士山支援事業であった。また総務省の資料によると、金額は不明であるが、富士吉田市において、ふるさと納税を財源とした使い道で一番充当が多かった事業も、世界文化遺産富士山支援事業であった。
 この世界文化遺産富士山支援事業は富士山の環境整備を主に行っており、トイレや山小屋の整備等に税金が充当されている。これは富士山によく登る方にとっては、かなりお得に感じるかもしれない。①税金控除、②返礼品がもらえる、③自分が好きな富士山の環境が良くなる、といった3点セットになるからだ。こういった日本有数の観光地がある市町村は、観光地の支援を使い道に加えることで、納税額を増加させることができる可能性がある。

 

 中央市のふるさと納税

 中央市のふるさと納税は、図2にもあるように、他市町村に比べ金額も小さく、前年度比で減少しており、あまりふるさと納税を確保できていない状況となっている。しかし中央市では体験型のふるさと納税に力を入れており、野菜の収穫体験やみそ、人形の製作体験などをふるさと納税の返礼品に加えている。単に返礼品のやりとりだけで終わってしまうことが多いふるさと納税から、定住や交流人口の増加につなげられるよう工夫している。実際、総務省の資料によると、中央市ではふるさと納税による効果として、「ふるさと納税の体験型を通じ、リピーターが多く市に来てくれる。近い将来、交流人口から定住人口につなげて行きたい」という点を挙げており、他市町村とは違った効果を狙っている様子が見受けられる。

 

昭和町のふるさと納税

 昭和町のふるさと納税は、前述の中央市に比べ、寄附額は大きい。しかし内情は厳しい状況が窺える。総務省の資料によると、昭和町では平成29年度、町への寄附額が1,900万円だったのに対し、町民が他市町村に寄附したことに伴い控除された住民税は約2,300万円となっており、赤字が発生している。昭和町には特産品が少なく、現在は友好関係にある牧之原市のミカン等を返礼品として扱っている状態であり、今後こういった地場産品以外の返礼品が規制されてしまうと、さらに厳しい状況となることが予想される。地方交付税の不交付団体であり、他市町村に比べ比較的税収が豊かとはいえ、今後毎年このような状況が続くようでは、自治体の財政に大きな影響を与えかねない。

 

3.制度の課題

 現状山梨県全体でみたふるさと納税は、増加傾向にある。得られた金額約44億円に対し、山梨県在住者による他県へのふるさと納税による税金控除の額は約9億円という状況であり、一部の市町村を除き、順調に推移しているものと考えられる。しかし、この制度にはいくつかの課題がある。
 1つ目は自治体の貧富の差の拡大である。東京都では、得られた金額14億円に対し、税金の控除額が646億円という状況から大幅な税収の減少となっている。埼玉県や神奈川県も同様な状況であり、大型の公共工事(学校の建て替え等)が予算の関係で進められなくなってきている。山梨県は控除額と比べて、寄附額が多く、税収の増加につながっているが、市町村段階では寄附額に大きな差がある。また一部では赤字となっている市町村も見受けられる状況である。これが今後10年単位で続くとすると、自治体の財政状況に大きな影響がでてくることは容易に想像できる。平成309月にこういった状況に終止符を打とうと、政府は平成31年度以降返礼品の調達額割合を30%以下にしない自治体のふるさと納税は制度から除外する方針で動き出した。しかし調達額割合を一律にしたとしても、魅力的な返礼品を用意できる自治体とそうでない自治体の差は埋まることはなく、自治体間の格差は進んでいく可能性が高い。
 2つ目は、個人の貧困の格差の拡大である。この制度は高額な納税を行っている納税者ほど、控除額が大きくなる仕組みになっているため、個人の貧富の格差を大きくする一面も持っている。返礼品の中心は食材であるが、高所得者は制度を有効に活用すれば、大幅な税金の控除を受け、大量の食材を調達できることになる。食費なんて大した金額ではないと考えるかもしれないが、これが積み重なれば、大きな貧富の差につながることになるだろう。
 3つ目は競争による自治体の疲弊である。多くの自治体で返礼品に力をいれており、都市部同様に税金の流出が起こる可能性がある。よって自治体は返礼品およびふるさと納税制度に対し、注力し続けなければならない。小さい自治体では、このふるさと納税への対応が大きな業務負担になっていると聞く。
 4つ目はふるさと納税の活用である。単純に高価な返礼品を用意するだけでは、ただのばら撒き事業になってしまう。事業の趣旨に立ち返り、預かった税金を納税者が納得する使い道に活用することに加え、使い道を十分に公表し、結果を報告することが必要だと考える。また納税者との接点も強化し、今後もふるさと納税を継続し、続けてくれるリピーターを確保することが安定した税収の確保にもつながっていくのではないだろうか。

 

4.今後の可能性

 ふるさと納税がある限り自治体間の競争は続いていく。最後に前述の自治体の取り組み等を踏まえ、ふるさと納税の競争で生き残っていくための活用方法を提案したい。
 まず考えられるのが、寄附金の使い道に付加価値を見出す方法である。多くの利用者は金額メリット(税控除等)や返礼品の魅力を理由にふるさと納税を利用していると思われる。もともと金額メリットは全国どの自治体も同様であるが、今後返礼品割合に一定の基準が設けられれば、返礼品の魅力も大きな違いが出にくくなる可能性がある。そこで新たな付加価値として、納税資金の使い道の魅力を高めるのはどうだろうか。前述のように富士吉田市では世界文化遺産富士山支援事業といった特徴的な使い道で多くのふるさと納税を集めている。他の自治体と同じような使い道を設定するだけでなく、地域の特徴的な使い道を設定することが、今後の競争を生き残るための鍵である。
 もうひとつの提案は、消費者が手軽に利用できる返礼品の活用である。現在の返礼品はその地域特産のやや高級感のあるものが多い。そこで消費者が手軽に利用できる安価な返礼品を導入することにより、他の自治体と差別化できるのではないかと考えている。ふるさと納税は年収が高い人の利用が多く、節税効果も大きくなるが、一定の年収さえあれば、節税の恩恵は受けることができる。今まではグルメの高所得者がターゲットという自治体が多かったかもしれないが、今後は中間層をターゲットとし、消費者が手軽に利用できる返礼品に注力することも、新たな市場開拓につながるのではないだろうか。
 制度がスタートして約10年が経過し、さまざまな問題が発生してきているふるさと納税であるが、自治体の財政状況が厳しく、納税者の節税意識が強い限り、この制度の人気が低迷することはないだろう。国と自治体が連携し、制度と自治体が共存していける制度設計に努めてほしいと思う。 


【主な参考資料】

・総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(平成29年度実績)」
・総務省「平成30年度ふるさと納税に関する現況調査について」
・総務省「平成30年度ふるさと納税に関する現地調査(住民税控除額の実績等)について」
・高松俊和著「ふるさと納税と地域経営」(事業構想大学院大学出版部)
・富士吉田市ふるさと納税特設サイト https://furusato-fujiyoshida.jp/work/result.php