効率的なサービスにも弱者の視点を


毎日新聞No.528 【平成30年12月7日発行】

 来春からJR中央線の特急列車に新たな着席サービスが導入される。具体的には、自由席と指定席の区別がなくなり、事前に座席指定を受けた場合は現状と変わらないが、指定を受けない客は、空いている席があればどこでも座ることができるようになる。ちなみに空席か否かは、座席上方のランプの「指定席発売済」(緑ランプ)、「空席」(赤ランプ)、「まもなく指定席販売済区間」(黄ランプ)の表示で判断する。

 既に常磐線の特急には導入されており、新たな利用方法は定着しているのであろう。ただ、常磐線は短距離利用のビジネスマンが多く利用方法の理解・浸透が早いだろうが、中央線は沿線の高齢化率が高いうえ、乗車頻度が低い観光客や高齢者などが多く、利用方法の変更にとまどうケースが発生する懸念はないだろうか。外国人観光客も増えており、ランプの意味を理解できない利用者が車内を右往左往する恐れもある。また、様々な理由で予約を取ることができなかった者は、たとえ赤ランプの空席があっても、途中でランプが黄に変わり、席を予約した人が来れば席を譲らなくてはならない。夜も更けた列車で、一杯飲んで寝ているなどということはできないのである。
 指定席販売済の区間に近づくと、着席していた客に車掌が席を空けるよう誘導すると思われるが、先客が高齢者や障害者、熟睡者だった場合、ルールとはいえ、近くに空席が見つからなくても席を譲るよう強制できるだろうか。混雑時に誘導自体ができず、座席の権利を持った客が後からきても怖そうな先客に席を譲ってもらえないケースも出て来よう。

 チケットレスサービスなど本サービスの導入は、利用者にとってメリットもある。問題は、ユニバーサルサービスの観点からは改善を期待したい点があるということである。計画的に行動する観光客の利用はむしろ増えるという可能性もあるが、気軽に利用したい居住者においては利用が減るかもしれない。
 サービスの進化は新たな付加価値を生み出し、また、電子化による利便性の向上は時代の要請でもある。ただ、そこには大切な顧客でもある生活弱者の視点をより強く意識することを望みたい。

(山梨総合研究所 専務理事 村田俊也)