Vol.245-2 子育て世代、働き盛り世代のワーク・ライフ・バランスを考える


~PTA活動の実態を例に~

公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 渡辺 たま緒

1.はじめに

 9月の1ヵ月で32時間。4~11月で計120時間。
 何の数字か想像がつくだろうか。時間外労働の数字でも、フィットネスに費やした時間でもない。筆者が今年、PTA役員として行事の準備などのために小学校で過ごした時間である。
 少ないと感じるか多いと感じるかは人それぞれ。ピンとこない人も多いだろう。
 これから年度末にかけて、各校PTAは次年度の役員を内定する時期である。多くの親は、この時ばかりは目立たず、推薦されず、くじにも当たらない「透明人間」になりたいのではないだろうか。
 人口減少、少子高齢化、共働き世帯の増加といった社会構造の変化によって、地域活動の担い手は不足しつつある。自治会や町内会と同様、PTA(役員)活動も敬遠されがちになっている。
 政府が主導する「働き方改革」によって、労働環境には長時間労働の是正といったテコ入れが始まっている。一方で、ワーク・ライフ・バランスのうち「ライフ」に位置づけられる地域活動、PTA活動に関しては、自助・共助、学校教育への(当然の)協力が大前提として掲げられていることもあってか、合理化、効率化とは対極の、旧態依然とした運営をしているのが実情ではないだろうか。
 任意であるはずのPTA加入が半強制であったり、役員しか参加しないような地域行事の運営に携わったり、自治会やPTA活動に対する疑問の声が挙がるのは効率性を重視する現代社会では無理もない。
 今回、筆者の体験も踏まえてPTAの活動について考えてみたい。

2.PTAの概要・現状

PTAの誕生

 PTAのはじまりをたどると、戦後の1946年まで遡り、GHQが文部省にアメリカ版PTAの資料を提示し、日本での結成を指導したことに端を発する。アメリカ版PTAは、Parent Teacher Associationという名前のとおり、保護者と教職員による社会教育関係団体で、両親と教師が一体となった活動が推奨されていた。当初、2人の母親によって作られ、1897年ワシントンD.Cで「全米母親議会」を開いたところ、父親や教師など2000人もの人が集まったため「全米保護者教師議会」と名称を変え、後の「全米PTA」となった。日本ではその後、「父母と先生の会~教育民主化のために」というPTA結成の手引きを作成、1947年に全国の都道府県知事に送付され、その後、1年程度で全国の小中高校の80%以上でPTAが組織された(「PTA不要論」黒川祥子著)。 

 

PTAの目的

 PTAの目的といえば多くの人が「子どものために活動する」というイメージを持つのではないだろうか。私もその一人で、長男が小学生のころにPTA役員を経験し、今回は二男で2度目の役員となるが、学校こそ違うがどちらの時も、PTAの会合の際にこの組織の目的について説明を受けた記憶はない。ただ、学校側、PTA執行部ともに、「子どものために」という一言だけは共通していた。
 では、PTAの目的をより詳細に提示しているものには何が記してあるのか。各学校によって内容は少しずつ異なると思われるが、その基礎となったのは、昭和42年6月の文部省社会教育審議会で取りまとめられ、各都道府県教育委員会委員長宛に送付された「父母と先生の会(PTA)のあり方について」の通知文だと思われる。
 そこには、「一、目的、性格について」として「父母と先生の会(PTA)は、児童生徒の健全な成長をはかることを目的とし、親と教師が協力して、学校および家庭における教育に関し、理解を深め、その教育の振興につとめ、さらに、児童生徒の校外における生徒の指導、地域における教育環境の改善、充実をはかるための会員相互の学習その他必要な活動を行う団体である」と記されている。確かにこれを一言で言い表すと「子どものために」となるだろう。 

 

PTAの体制

 前述のPTAのはじまりでも書いたとおり、PTAはGHQ⇒文部省⇒都道府県知事といった流れにより各学校に導入されたことからもわかるように、「上」からあてがわれたものであり、自発的に必要に応じて結成されたものではない。
 そもそも本家アメリカでは、正式にPTAが結成されている学校は25%程度で、残りの75%は学校単位で自由な活動を行う保護者組織になっているというが、日本では、結成以来、約70年間、その体制はほとんど変わってはいない。
 学校では各学年から数名が役員に選出される。その選出された役員が1年間、学校行事や地域行事に参加する仕組みだ。専業主婦が多かった頃の慣習が根強く残っているせいか、役員はほとんど母親と、女性比率が非常に高い団体であるのも特徴である。
 学校ごとのPTAは単位PTAと呼ばれる。単位PTA会員になると、同時に市の小中学校PTA連合または連絡協議会(市P連)、各都道府県の連合会または連絡協議会(県P連)、さらには、「子どもに見せたくないTVランキング」でおなじみの日本PTA全国協議会にもほぼ自動的に加入し、PTA会費から負担金を納めることになる。単位PTAは年度ごとに市P連、県P連に属するか否かを会員に諮ることはない。子どもが入学した途端、親は会員1000万人の巨大PTA組織の一部となるのである。

  

3.PTAを取り巻く環境

 PTAの担い手について、環境は大きく変わってきている。

人口推移

 まず、担い手のベースとなる人口の動向である。山梨県の人口を1960年から見ると、2000年の888,172人をピークに減少に転じている。その5年前の1995年にはすでに生産年齢人口(1564歳)はピークアウトしている。また、1995年には老年人口が年少人口を上回った。
 2045年には生産年齢人口はピーク時の半分以下になると推計されており、子ども、その親も減少し続け、今後もその傾向が当面続くとみられている。(図表1)。

 

【図表1】人口推移(山梨県) 
出典:地域経済分析システム(RESAS)より山梨総研グラフ作成

 

働く女性の推移

 次に、PTA活動の中心を担ってきた専業主婦の動向である。
 仕事を持つ人の割合(年齢階級別有業率)を見ると、女性は2012年からの5年間で上昇していることが分かる。女性の有業率は出産期に一旦低下し、その後再び上昇する「M字カーブ」を描くことが知られている。2017年のデータを見ると、出産期の女性の3034歳で78.8%、3539歳で78.3%が働いているが、2012年と比べるとそれぞれ7.5ポイント、7.3ポイント増加し、M字の谷の部分が浅くなったことが分かる(図表2)。
 こうした傾向は2012年以前から続いており、仕事を持つ多忙な親がPTAに取り組まざるを得ないケースは多くなってきていることが窺える。

 

【図表2】男女、年齢階級別有業率(山梨県)(%)
出典:平成29年度就業構造基本調査(山梨県)

 

ひとり親世帯数の推移

 最後に、家族構成の変化である。
 2000年から2015年までの15歳未満の子供のいる世帯に対するひとり親世帯割合の推移をみると、「男親と子供から成る世帯」は微増、「女親と子供から成る世帯」は年々増加している。こうしたひとり親世帯では、PTA活動への参加に困難が多いと想定される。 

【図表3】15歳未満の子供のいる世帯に占めるひとり親世帯割合の推移
出典:国勢調査

 このようにPTAの担い手という観点からみると、厳しい現実が浮き彫りとなってくる。

 

4.PTAの課題を考える

体制の課題

 ほぼ全入となるPTA会員にとって最初のハードルが学年ごとのPTA役員の選出である。前述の通り、役員になると1年間のPTA活動の中心的役割を引き受けることになる。子どもが多かった30年前であれば、小学校在学中に1度も役員をしなかった人もいるだろう。児童数の少ない現在、立候補ではなく推薦やくじ引き、あるいはジャンケンといった「選考」を経て役員に就任する親も多いのではないだろうか。兄姉の時に務めても、「前にやったから」、という言い訳が通用しないこともある。

 

時間の課題

 PTA役員になるのに最も躊躇する理由は時間の壁である。特に小学校のPTAは平日の昼間に会議を行うことが多い。官公庁や企業で働く場合は休暇や時間休を取って役員活動に参加することとなるが、繁忙期には仕事を抜けることがはばかられる場合もある。自営業では店の営業を休まなければならない場合もあり、長時間の「拘束」は働く親にとって重い負担となる。
 実際に筆者が今年、役員となった4月以降、PTAの活動時間を記録したところ、学校へ直接行って活動した時間は4月から11月までで120時間程度となった。これでも仕事の都合で欠席した会議もあり、皆勤賞ではない。
 活動日数の多かった5月中旬を見ると、11日(金)、14日(月)、16日(水)、17日(木)と、連日のように学校へ行っていた。弁当持参で午前9時や10時から作業を始め、午後2時過ぎまで行う。運動会の準備に追われた9月には毎週1、2回は学校に通い、延べ32時間をPTA活動に費やした。
 業務のコアタイムに職場を抜け出す場合、当然内外との調整が必要となる。スケジュールを無理やり空ける「作業」は物理的、精神的に少なからずプレッシャーとなる。
 筆者の職場はPTA活動への参加に寛容なほうとは思うが、「これからもPTAあるの?」と上司に聞かれたこともある。
 執行部と呼ばれるPTAの本部役員になればさらに厳しい現状が待っている。本部役員になり、仕事が続けられなくなり辞めることになった、というケース(週刊東洋経済201869日号)も報じられている。これではワーク・ライフ・バランスどころではない。
 働く女性や母子家庭が増加傾向にある現在、家族との時間や自己研鑽の時間はかなり限られる。就労後の夕食の準備にかかる時間などを考慮するとなおさらである。
 実際に共働き世帯の我が家でも小学生の二男から「ママと一緒にいられる時間は夜、ほんの少し」と言われてしまう。8歳の子どもが肌で感じる率直な言葉はかなり心に突き刺さる。ひとり親家庭では、夫(妻)の協力を得られない分、その大変さが増幅するのは想像に難くない。
 また、仕事に関しても、PTA役員活動で仕事を抜けた分は、どこかで補填しなければならず、残業を強いられることになるなど、子どもとの時間、自己研鑽の時間といった「ワーク・ライフ・バランス」の「ライフ」の時間は割かれるばかりなのである。

 

活動内容の課題

 では、ここまで時間を割かれるPTA活動とは一体どのような内容なのだろうか。
 PTAの功績として挙げられるのは「学校給食の制度化」、「校舎の増築」、「教科書無償配布」、「学校保険の実施」である。保護者が団体として要望を行政に出した結果、上記のような学校環境の整備が進められてきた。
 次に現在の活動内容を「PTA応援マニュアル」(日本PTA全国協議会)から見てみる。「学校行事の運営を手伝う」、「子どもたちの健全育成に関する研修会に参加する」、「学校や児童・生徒の様子を地域に伝える広報」、「登下校時の安全パトロール」、「卒業式や記念行事のときなど、記念品を贈呈する」、「地域の特性を生かした行事へ参加する」とある。
 これを筆者の体験に当てはめてみると、「学校行事の運営を手伝う」に関し、学級懇談の司会を任されたり、集金した保険料を集計したり、運動会では保護者競技を運営したりした。「子どもたちの健全育成に関する研修会」では、市P連や県P連が主催する研修会へ参加要請があった。ある研修会は日曜日の昼間に行われ、役員を中心に出席の動員がかけられた。学校ごとに決まった席数が用意されているため、空席が目立つと具合が悪いことになるのである。自主参加の研修や自己研鑽とは程遠くはないだろうか。
 「学校や児童・生徒の様子を地域に伝える広報」としては、PTA新聞を定期的に発行している学校が多いようだが、どれだけ読まれているかを検証している形跡はない。PTA新聞の出来栄えを競わせるコンクールも行われているが、たまたま割り当てになった役員に何を期待しているのだろうかと疑問がわいてくる。教員が発行してくれる学校通信、学年通信でも十分こと足りるのではないだろうか。
 「登下校時の安全パトロール」ですぐに思い浮かぶのは、登校時の旗振り当番である。子どもの交通安全は確かに重要で、この活動は、PTAを廃止した学校でも活動自体を残すことが多いのを耳にする。旗振り当番中に「○○ちゃんのお母さん!」などと声をかけられ、丁寧におじぎをしながら去っていく子どもたちを見ていると、すべての子どもが可愛らしく、この子達が安全に学校へ行って楽しく1日が過ごせますように、と思わずにはいられない。PTA活動として最も「意味が分かる」活動の1つかもしれない。
 「卒業式や記念行事のときなど、記念品を贈呈する」は、実質的には寄付行為である。大部分の保護者はどのような経緯で記念品が決まったかを知る機会もないまま、学校を卒業していくのである。
 最後の「地域の特性を生かした行事へ参加する」については、少子高齢化の進展により、地域の行事自体が成り立たなくなっている今、何をすべきか、考えていかなければならない活動の1つだと思われる。
 活動1つ1つを見ても、個々の活動について、意義が見い出され、内容も効率的、効果的なものに目に見える形で精査されなければ、「やらされている感」は払拭されない。ひいては、仕事を休んでまでする活動、子どもとの時間を削ってまでする活動なのかといった疑問・不満の声はこれからさらに大きくなるだろう。
 保育や代行のサービスを手掛ける企業が「生活総合支援サービス」としてPTA活動への代理出席を有料メニューに加えたところ人気を呼び、申し込みが相次いだというニュースも話題になった。

 

その他の課題

<任期>

 PTA役員の任期は通常1年間である。それが良い面と悪い面に働く。活動の効率化、合理化が必要だと感じていても、「この1年間を乗り切れば、終わりだから」とただ慣例化された作業をこなし、時が過ぎるのを待つ、という意見も多い。

<やりたい人の存在>

 課題が山積みのPTAだが、幸い、役員をやりたい人が少数ながら存在することも事実である。こうした献身と評価が、各種団体や自治会の役員、さらには地方議員選挙への推薦につながっていく場合もある。
 PTA役員の一人として、行事などの際にクラスメートの親などから礼を言われれば報われた気持ちになることも確かである。役員を引き受ける人の中には、それを自分の存在意義に置き換え自己実現の場としているケースも存在するかもしれない。

 

5.変革を始めたPTA

 一部の現状容認派はいるものの、ここまで見てきたとおりPTAについては社会情勢からも内部の活動からも、変革期にきていることは明白だろう。既に、改革の動きは全国的に出始めている。
 山梨県内では、富士北麓地域にある小学校で2年前から改革が始まった。きっかけは、児童の減少だった。全校児童が100人前後、各学年1クラスで、クラス人数も20人弱になってしまい、役員負担を考え改革に乗り出したという。
 役員数を減らすことからはじめ、専門部会も4つから2つに変更した。それに伴いPTA新聞の発行回数や、役員が担当する行事を減らすなどのスリム化を図った。
 一方で、運動会の準備や学校で行うレクリエーションなど人手が必要なことについては、1家庭1仕事として全員に協力を仰いだ。この小学校のPTA会長は「強制はしないことを念頭において協力をお願いしたところ、多くの人が労をいとわなかった。保護者全員で取り組むことによって一体感も出た。いろいろな行事でまとまりが出るようになった」と話している。

 

6.おわりに

 近年のPTA改革を見ていると、2つの大きな流れがあると考えられる。
 1つはPTAを廃止し新たな組織を立ち上げる動き、もう1つは既存のPTAを存続させつつも体制や活動内容を見直す動きである。
 導入から70年あまり経ち、過去にも何度か変革の必要性を問われてきたPTAだが、今回の変革にはどちらの動きにも共通しているものがある。過去の変革は、その度に、国の審議会で協議し、各都道府県に目的や規約の改変などに対して通知を出してきたいわゆる「上」からの改革であったのに対し、近年の動きは単位PTAが各保護者、学校、地域の実情を踏まえながら、その内情に見合った改革に「下」から自発的に取り組み始めていることである。
 廃止にせよ、効率化にせよ、「下」からの変革に正面から向き合う時期がきているのかもしれない。 


〈参考・引用資料〉

  • 特集:共働きサバイバル(週間東洋経済2018年6月9日号)
  • 「日本PTAのあゆみ」公益社団法人日本PTA全国協議会
  • 「PTA不要論」利用時間と情報行動に関する調査」(黒川祥子著 新潮新書)
  • 「PTA再活用論」(川端裕人著 中公新書ラクレ)