Vol.245-1 地域の国際化における大学の役割とその取組み
茅 暁陽(Mao Xiaoyang)
山梨大学学長補佐
国際交流センター長・国際部長
大学院総合研究部教授
1.山梨県・甲府市の姿勢
総務省のホームページ[1]には、地域の国際化の推進に関して、以下のような記述があります。「今日の急速な技術の発展と、国家の枠を超えた経済の結びつきの強まりにより、人・モノ・情報の流れは地球的規模に拡大され、諸外国との交流は従来の国家間レベルから地域レベルにシフトしてきた。それは、異文化の理解等諸外国との相互理解を一層推進するとともに、この過程において自らの地域のアイデンティティを明確にし、さらに魅力ある地域づくりの手助けともなる。」
これに符合するように、山梨県においても、人口減少・少子高齢化が急速に進むなか、県地域経済が持続的に発展していくためには、県民一人ひとりがこのグローバル化を身近な問題として捉え、世界に目を向け、成長を取り込んでいくべきことを重要視し、産学官一体となり、オール山梨で国際施策を推進していくことを謳った「富士の国やまなし国際総合戦略」[2](平成28年3月)が策定されています。その基本戦略は3つあり、世界遺産富士山のある山梨をキーコンセプトにし、<<富士の国やまなしブランド>>を世界に発信し、外国人観光客の誘客、農畜産物・県産品の販路拡大、企業の海外展開の支援等を通じて、世界の成長を取り込むとともに、姉妹都市交流の深化、今後の成長が期待できる地域との互恵関係の構築等により、世界に歩調を合わせて成長することです。
さらに甲府市においても、<<人・まち・自然が共生する未来創造都市>>を目指し、「甲府市リニア活用基本構想」[3](平成29年3月)が取り纏められ、そのなかに、外国人観光客の誘客促進、留学生等との交流推進、国際教育の充実の施策3点を含む「国際交流都市への構築」が重要な目標の一つとして盛り込まれています。
2.山梨大学の役割
ここで、このグローバル化における大学の役割に目を向けてみたいと思います。一般社団法人国立大学協会の「国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン」[4](平成27年9月14日)には、国立大学の使命と役割について以下のような記述があります。「国立大学は、全都道府県に配置され、高度の高等教育を提供することにより、 教育の機会均等とともに地域において人材育成を図り、地域の社会・経済・産業・文化・医療・福祉の拠点として、それぞれの地域の個性や特色を活かしつつ我が国全体の均衡ある発展に貢献してきた。(中略)さらに、国際的には、大学院レベルの留学生受入れや研究者交流の中心を担い、諸外国との高度な学術協力や交流を積極的に推進することにより、我が国全体あるいは各地域と世界をつなぐ役割を果たしてきた。国立大学はこのような使命と役割を自覚し、グローバル世界に開かれた高等教育機関として、教育・研究・社会貢献の諸機能を一層強化して、次代を担うたくましい学生の育成、地域の多様性と活力の発揮、未来を拓くイノベーションの創出などを牽引し、それらの成果の社会への発信と世界展開に向けて抜本的な改革に取り組んでいく決意である。」
山梨県唯一の国立大学法人である山梨大学でも、<<地域の中核、世界の人材>>を旗標に、平成24年には「山梨大学グローバル化に関する方針」とそれに基づく行動計画を制定しました。そして平成26年度には、さまざまな国際交流支援活動を通じて本学のグローバル化を総合的に活性化する目的で、従来の留学生センターの役割を拡大した国際交流センターを設置しました。さらに平成28年度には、国際交流の推進をサポートする事務組織として新たに国際部と国際企画課が設置されています。
実際、これまで本学のグローバル化に関する基本方針にそって多くの施策が手掛けられてきましたが、ここでは、本県の交流ネットワークとの相互乗入れによる相乗効果と、留学生受入れによる地域国際化推進の二点に絞って、その取組みの具体的な事例を紹介してみたいと思います。
3.産学官連携による国際交流ネットワークの拡大と新しい交流の創出
山梨県および甲府市と本学は、互いのヒューマンネットワークや国際化に関する各種リソースを活用しながら、人材育成と地域の活性化に貢献しています。本学は、当県が協定を結んでいる米国・アイオワ州、中国・四川省、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州、フランス・ポー市にある主要大学と交流協定を締結しており、学生の相互派遣をはじめ、様々な交流を重ねてきました。
(1)中国四川省との交流
中国の鉄道交通の発展において最も重要な役割を担っている西南交通大学と平成27年に大学間の包括的な交流協定を締結して(写真1)、大学院修士ダブルディグリープログラムを実施し、日本語日本文化研修生を受け入れています。実際、西南交通大学日本語学科の教員が、四川省-山梨県職員交流の一環で山梨県庁に派遣され、その教員が帰国後、本学に派遣する日本語日本文化研修生の指導教員として、本学国際交流センター教員と連携しながら、学生の指導に当たっています。
また、過去3年間に渡り、四川大学国際サマーキャンプに本学のコンピュータ理工学科と情報メカトロニックス学科から学生を50名以上派遣し、四川大学の学生とともに国際的に著名な研究者による講義を聴講したり、ワークショップ(写真2)を開催したりして、交流を深めてきました。平成28年11月には(公財)小佐野記念財団の支援を受けて、四川省成都市の電子科技大学で開催された「中国“創青春”全国大学生創業大会」に本学の大学院生・工学部学生計3名が参加しました。この大会は、中国政府の主催により、起業を考えている全国の大学生を支援する目的で平成26年から実施されています。大会には中国全土の大学2,200校からの11万以上ものチームに加えて、イスラエル、韓国、フランス、オランダ、日本、米国の6カ国から9チームがゲスト参加しました。日本を代表する山梨大学チームは「Botch Watch~自作腕時計製作キット販売プロジェクト~」というビジネスプランを発表しています(写真3)。これは、電子腕時計を自ら企画・開発し、その製作キットを販売する事業計画であり、やまなし産業支援機構主催の平成27年度ビジネスプランコンテスト「トライアルプランコース」で、最優秀賞を受賞していたものです。このような活動は、国際的な視野をもち、地域産業の活性化を担う人材育成に直結していくものと期待されます。
(2)米国アイオワ州との交流
アイオワ州にあるUniversity of Iowa(アイオワ大学)、University of Northern Iowa(ノーザンアイオワ大学)、Ground View Universityにおいて、山梨大学の学生の短期研修プログラムを実施しています。本学が最も力を入れている取組みの一つは、日本学生支援機構の支援事業にも採択されている、早期グローバルキャリア教育の一環としての海外インターンシップです。アイオワ州の全面的な協力を得て、銘々の学生が一週間デモイン市民の家庭にホームステイしながら、自身の専門に合わせて現地でジョブシャドウィングとよばれる職業教育を受けます。これまで4年間で40名以上の学生が同プログラムに参加し、現地の学校、病院、行政機関、研究機関、企業、農場で研修を受けました(写真 4,5)。デモイン市郊外で有機農業に挑戦している農家にホームステイしながら研修を受けた工学部出身のM君は、研修期間中毎日、日中は一緒に畑に出掛け、夜は食卓を囲んで家族とアメリカの農業政策や有機農業の現状について議論を重ね、有機農業の素晴らしさと難しさ、そして行政と市民とのコミュニケーションの大切さを学んだようです。実際、M君はその後の進路として地方公務員を選び、海外研修の経験を活かして、行政サービスの充実と地域の国際化に貢献できるよう頑張っています。また、デモイン市の教育機関で研修を受けた別の学生は、現地のクラスのオープンで、生徒主体の教育方法に感銘を受け、将来日本の学校でも実践したいと話していました。
2018年5月には、山梨市の姉妹都市であるモーニングサイド市にあるモーニングサイドカレッジから農業を学ぶ学生さんと大学合唱団の学生計40名が山梨大学を訪問し、農業と音楽に関するワークショップを開いたり、多くの市民を迎えて笛吹川フルーツ公園で両大学学生合唱団によるジョイントコンサートを開催したりしました(写真 6)。
2020年には、アイオワ州と山梨県との友好交流協定締結が60周年を迎えます。筆者も海外インターンシップの引率で3年前にデモイン市を訪ね、長い年月をかけて築かれたアイオワ州と山梨県の人々の深い友情と強い絆に深く感銘を受けました。アイオワ州の人々の温かいホスピタリティを受けた学生たちが、卒業後も国際交流に積極的に関わり、この素晴らしい絆を若い世代につなげていくのは、まさに本学の果たすべき役割のひとつではないかと強く思った次第です。
写真1:連携意向書を手に握手する島田 眞路山梨大学学長と徐 飛西南交通大学学長
写真2:四川大学国際サマーキャンプにおける両大学学生によるデザインワークショップ
写真3:中国四川省成都市で開かれた「中国“創青春”全国大学生創業大会」での山梨大学チームによる発明紹介
写真4:デモイン市の教育機関でのインターンシップ
写真5:デモイン市でホストファミリーの歓待を受ける山梨大学生
写真6:モーニングサイドカレッジと山梨大学学生合唱団によるジョイントコンサート
4.留学生の受入れによる地域国際化の推進
山梨大学では現在22か国と地域から約190名の留学生が学んでいます。各種交流イベントを通して、留学生と住民がお互いの国の文化に触れ、留学生を通して山梨県の情報発信、そして、地域の学校に留学生を派遣することにより、地域の国際化を推進しています。
(1)信玄公祭りへの参加
信玄公祭り甲州軍団出陣「三条夫人隊」へ、毎年本学の留学生が参加しています。甲府市中心部を会場に行われる信玄公祭りは例年、武田信玄公の命日(4月12日)の前の金~日曜に盛大に開催され、土曜日の夕方には、県内各地から千名を超える軍勢が舞鶴城公園に集結し、川中島に向けて出陣する様子を再現しており、その規模は世界最大級とも言われています。この全国的にも有名な祭りに、戦国武士や侍女等に扮装して参加できるとあって、留学生にとってはたいへん貴重な日本文化体験となります。平成29年度は3名の交換留学生が参加し、ドイツからの交換留学生が侍女、英国からの交換留学生が女武者、同じく英国(ウェールズ)からの交換留学生が旗持ちに、それぞれ扮装して祭りの行列に参加しました(写真7)。本格的な衣装を身に着けた留学生たちは貴重な文化体験を喜び、笑顔で行列に参加して甲府の街中を行進しました(写真8)。
写真7:侍女と旗持ちに扮した留学生
写真8:行列参加時の様子
(2)山梨県副知事との意見交換会
平成29年7月には、柵木 環山梨県副知事ら県幹部と本学留学生による意見交換会が行われました(写真9)。これは、山梨県の国際化や魅力向上、外国籍の若者の定住に向けた施策の推進のため、山梨県が県内大学の留学生から外国人の就職や定住のニーズ等を聴き取る目的で、同年初めて企画されたものです。
初回は8か国・12名の留学生が参加し、山梨県の魅力や留学先として選んだ理由、実生活での問題点、今後の就職や定住の意向をテーマに意見交換が行われました。参加した留学生からは、「勉強している専門分野があり、著名な先生がいらっしゃる」、「自然が豊かで空気がきれい」、「歴史名所が多く、文化や伝統を扱った行事が多い」といった感想が出される一方、「公共交通機関が不十分で情報も入手しづらい」など、率直な声もありました。また、山梨での就職を考えている留学生からは、「県内企業の情報を収集するチャネルを多様化してほしい」、「留学生向けのインターンシップや企業説明会を増やしてほしい」との声も聞かれました。県からは、県の紹介PVを使い山梨のさらなる魅力や、交通や観光地に関する情報を掲載した外国人向けサイトについて説明されるなど、非常に有意義な意見交換会となりました。
写真9:意見交換会の様子
(3)よっちゃばれ放談会
「市民の声」を原点としたまちづくりのため、樋口雄一甲府市長自らが幅広い世代の方々の生の声を聞き、意見交換を行う場としての「よっちゃばれ放談会」が平成30年6月に開催されました(写真10)。第1回は、甲府市内にある4大学からの留学生との意見交換が行われ、本学からは3名の留学生が参加し、山梨県と甲府市の魅力や、母国に人気のあるお土産について情報を提供すると同時に、ハラルフードへの対応の必要性を訴えました。
写真10:よっちゃばれ放談会の様子
(4)食文化交流会
山梨大学医学部留学生と中央市市民とのたべもの異文化交流会、甲府キャンパス国際交流会館の留学生と岩窪自治会住民との餅つき大会は、今年でそれぞれ第20回目と第15回目の開催となりました。樋口雄一甲府市長(写真11)と田中久雄中央市長(写真12)をはじめ、毎年多くの住民が参加し、留学生の手作りの母国料理と住民による日本の伝統的な食べ物が振る舞われ(写真13)、留学生の餅つき体験(写真14)、住民による太鼓や獅子舞などのパフォーマンス、留学生も参加する盆踊り(写真15)などが盛大に行われました。
写真11:餅つき大会で挨拶される樋口甲府市長
写真12:たべもの異文化交流会で挨拶される田中中央市長
写真13:母国の料理を振る舞う留学生
写真14:餅つき体験
写真15:地域住民との盆踊り
(5)山梨観光リサーチャー
平成29年度より山梨県観光部主催の「やまなし観光リサーチャー」に、本学留学生がリサーチャーとして参加しています。これは、県内在住の外国人留学生および日本人学生に、県内観光地の魅力を発見しSNS等を活用し広く情報発信してもらう活動で、リサーチャーとして採用された学生は、県が実施する観光地視察に参加し、情報や感想を自国の言語でSNS等に発信することになります。
(6)外国文化講座
山梨県国際交流協会主催「外国文化講座」と「言葉のひろば」に、本学留学生を講師として派遣しています。これまでハンガリー、ケニア、マレーシア、パキスタン、スリランカ出身の留学生が母国の文化と言葉についてのプレゼンテーションを行いました。
(7)小・中・高等学校への派遣
本学は、地元の教育機関、小・中・高等学校からの依頼に応じて、異文化交流イベントに定期的に留学生を派遣しています(写真16)。
平成28年3月には、甲府第一高等学校において開催された「甲府第一高等学校やまなしブランドサミット」公開発表会へ本学の留学生7名が参加し、1年生、2年生の発表を聴講しました。同高は、文部科学省のスーパー・グローバル・ハイスクールに指定されており、その活動の一環として、「伝統工芸」や「果樹産業」の現状、諸外国での取組みを調査・研究し、農業や伝統工芸、生産労働人口の減少といったテーマについて産業の活性化を目指したプランニングの提案が行われました。
本学の留学生は発表に対する意見交換などを英語で行い、本県の産業活性化に関する理解を深める良い機会となりました。同年11月には「山梨の桃を使用した『じまん焼き』でインドネシアに甘い笑顔を」というプロジェクトを企画した生徒3名が来学し、インドネシアからの留学生3名が、生徒らと地元のお菓子屋さんが共同で試作した「桃実入りじまん焼き」を試食し、インドネシアでの販売に向けた改善点などについてインタビューを受けました。インタビューはインドネシアと日本の食文化の違いにまで及び、なごやかな学びの時間となりました(写真17)。
また、玉穂中学校の総合学習の時間(平成28年11月)、県立市川高校英語科の「社会参画体験事業」(平成29年3月)に国際理解講師として留学生が派遣され、生徒とともに町歩きやグループディスカッションを行いました(写真18、19)。
写真16:小学校でのハロウィンパーティ
写真17:「桃実入りじまん焼き」を試食するインドネシア出身の留学生
写真18:グループディスカッション
写真19:町歩きで交流(右が本学留学生)
5.ふるさと応援寄付金への支援のお願い
本稿では、山梨県や県下の地方自治体における国際化に対して山梨大学が果たすべき役割を明らかにし、本県の交流ネットワークとの相互乗入れによる相乗効果と、留学生受入れによる地域国際化推進という二点に焦点をあてて、これまで取り組んできた実例をいくつかご紹介してきました。
山梨総合研究所のホームページのNewsletter Vol. 244-2[5]でも紹介されているふるさと納税の一例として、本年9月より甲府市のふるさと納税支援の新規コース「ふるさと応援寄附金(国際交流用)」[6]が設けられました。これは甲府市と本学との包括連携協定に基づき、寄付金の一部を活用して大学における留学生の受入れなどを支援することにより、甲府市の国際交流を加速するものです。
今後も山梨大学は、この支援を最大限に活用し、世界各国から優秀な学生を受け入れ、最先端の技術や国際化の教育を通して、高度な専門知識とグローバルなマインドをもち、地域の未来創生に貢献できる人材を育成すると同時に、留学生には、地域の豊かな自然環境や歴史の深さを母国や世界に向けて発信してもらう一方、地域住民には、外国語を学び、異文化を体験できる環境をさらに充実させることで、地域の国際化を促進してまいる所存です。各方面からのさらなるご理解ならびにご支援をよろしくお願いいたします。
[1] http://www.soumu.go.jp/kokusai/index.html
[2] https://www.pref.yamanashi.jp/seisaku/documents/gaiyou_5.pdf
[3] http://www.city.kofu.yamanashi.jp/rinia/riniakatuyokihonkoso.html
[4] http://www.janu.jp/news/teigen/20150914-wnew-actionplan.html
[5] https://www.yafo.or.jp/2018/11/30/10427/
[6] https://www.yamanashi.ac.jp/furusato-tax