Vol.246-2 地方創生に向けて大切にしたい想い


公益財団法人 山梨総合研究所
上席研究員 古屋 亮

1.はじめに

 2014(平成26)年に、岩手県知事、総務大臣を歴任された増田寛也氏らが中心となり、今後消滅する可能性のある市町村が発表[1]された。そこでは、全国の896市町村が消滅する可能性が指摘されていた。全国には1,700ほどの市町村があるので、その半数以上が消滅する可能性があると予測されており、特に青森県、岩手県、秋田県、山形県、島根県では8割以上の市町村が消滅するとされていた。本県でも27市町村のうち、16の市町村が消滅の可能性を指摘された。この議論はやがて地方消滅と議論の論調を変えていった。全国、特に消滅可能性都市を多く含む地方都市にはセンセーショナルな話題として取り上げられた。
 この議論においては、若年女性人口が2040年に50%以下になる市町村を消滅可能性都市と定義していた。地方都市から、大都市へと若年女性人口が流出することで、地方の人口減少が加速して進行する可能性があるとされた。地方都市は人口減少に留まらず人口再生力も流出してしまい、このような人口移動が将来も続けば、多くの市町村が消滅することになるとされた。
 身近にある市町村が消滅すると予想されることで、それまでぼんやりと問題視していた人口減少を身近な問題と捉えることとなり、対策を講じる機運が高まっていった。そして国の「まち・ひと・しごと創生本部」を中心に、全国の市町村が人口ビジョン、総合戦略を策定することとなった。
 このとき、多くの地方都市にとっては、それまでの地域経済、地域社会の成長を前提としない、つまりは地域が縮小するというはっきりした認識のもとで、いかに下降線を緩やかにするのか、という意図を込めて地域計画をつくる始めての経験であったと思われる。
 今年、その人口ビジョン、総合戦略策定後5年を経過する中で、それぞれの取り組みについて検証が行われるであろう。この間、若者が仕事、結婚、出産、子育てに魅力を持ち住み続けようと感じる地方都市とは何かを問い、雇用の創出、出会い、子育て支援等、多くの対策が取られてきた。人口減少問題には即効性のある特効薬がないことだけは共通の認識となっているであろうが、5年の取り組みの効果を検証して、今後とも効果的な施策を捜し求めて対策が進んでいくわけである。 

 本稿では、特効薬がない状況の中で、中長期的な展望のもと、若年層が地方都市で定着するためにはどのような施策を展開する必要があるかについて考察を加えたい。
 そもそも、この人口減少問題が出てきた発端は、若者、若年層が大都市に出て行くことで地方都市の次代の担い手が減少し、その都市は将来的に消滅するというロジックであったわけである。
 筆者は、地域の維持・再生には、いわゆる地域(地元)に住む住民の郷土愛の醸成が重要であるという一貫した想いを抱いている[2]。地域を愛し、地域を想い、地域に興味を持てない人が、地域で生活しようと思い、地域を少しでも良くしようと行動ができるのであろうか。その中でも、次代を担う若者の中にこそ、地域に愛着を持ち、自らの力で地域を創り上げていこうという想いなくして地域の発展などありえないと考えている。
 この想いを具体的に示すために、まずは都道府県別の愛着度と転入超過率の関係を明らかにする。その後、若者の意識の差を本県と他県とを例に比較を行い、郷土愛(愛着度)の醸成がいかに大切かについて考察を加える。

 

2.都道府県別の郷土愛と転出率の関係

 表1は、ブランド総合研究所が2018(平成30)年に実施した都道府県別の愛着度ランキング[3]である。上位3県は北海道、京都府、沖縄県で、山梨県は最下位の47位となっている。
 2010(平成22)年調査をみると、その当時の上位3県は、沖縄県、北海道、京都府で山梨県は41位であった。

 

 

 次に、表2から愛着度と転入超過率との相関関係をみる。
 これは、転入超過率が高い都道府県から低い都道府県へと1~47位までの順位をつけ、愛着度の順位との相関関係をスピアマンの順位相関係数で表している。数値が0.8~1だと強い相関関係、0.60.8だとやや強い相関関係にあるとされている。
 全都道府県を対象とすると、0.23となっており愛着度と転入超過率に相関関係はみられない。次いで、転入が超過である7つの都道府県を除いて相関分析を行った。その結果は0.51となっており、やや強い相関関係が出てきている。
 地方創生の議論は、地方都市から大都市への転出、人口流出を止めることも大事とされている。そこで、各都道府県の人口規模の順位をさらに加えて相関分析を行うと人口規模200万人未満までの県では愛着度と転入超過率との相関係数が0.61となる。次いで人口規模150万人未満の県(全都道府県の中で25位以降)では、相関係数が0.76となり、相関関係が強くなることがわかった。人口規模が小さな県ほど愛着度と転入超過率との相関関係が強い傾向にあることからも、人口規模が小さな地方の県では、愛着度が転入超過率に影響しているひとつの事例として取り上げることができる。

※愛着度ランキングは、上記調査を参照した。転入超過率は 総務省統計局 2016(平成28)年の人口移動のデータを参照した。
※人口規模順位は、平成27年の国勢調査を参照した。
※転入超過率がプラスの都道府県は、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県、福岡県、大阪府、増減なしは、沖縄県、宮城県、他は全てマイナス(転出超過)となっている。

 

 順位相関分析では、人口規模、愛着度と転入超過率には相関関係がみられた。
 しかしながら、人口規模が小さい県ほど、愛着度を上げる必要があるとまではいえない。図1は、愛着度と転入率の散布図を示したものである。横軸に愛着度、縦軸に転入率をとり、各都道府県の分布を表している。
 山梨県と同様に、人口規模が小さく、愛着度が高い県として、長崎県(人口規模30位、愛着度4位)、島根県(同46位、10位)、高知県(同45位、13位)、香川県(同39位、20位)などがある。また同様に、人口規模が小さく、愛着度が低い県として青森県(同31位、33位)、秋田県(同38位、43位)、和歌山県(同40位、38位)、福井県(同43位、31位)などがあるが、これらの県の転入率をみると、例えば長崎県は、愛着度は高いが、転入率では、愛着度の低い秋田県、青森県と並んで下位に位置している。また、愛着度で高低関係にある高知県と福井県とでも、転入超過率でみると同じような位置になる。このように、分散図で確認をしていくと、順位相関分析でみられたような強い関係はみられなくなる。順位相関分析はあくまでも一つの参考指標としてみる必要がある。

※愛着度ランキング、転入率は 表2のデータを参照した。

3.就職にかかる若者の意識について

 前節では、愛着度と転入超過率との関係について考察してきた。転出・転入には郷土愛だけが影響しているわけではなく、ひとつの参考指標として明らかにしたのであるが、増田レポートにあるように、地域の人口減少問題の解決には、若者が大都市に吸収されることなく、地域に定着することが重要となっている。ここでは、大学生の意識を例に取り、郷土愛の影響についてみてみたい。
 表3は、マイナビが実施している大学生の地元就職に関する意識を明らかにしたものである。事例県の選定については、愛着度について山梨県と対極にある上位県から長野県(愛着度8位)、大分県(同12位)を選んだ。
 長野県は、人口規模でみると山梨県の倍以上であるが、山梨県に隣接し自然条件、産業構造等が似ており参考になることが多いであろうと想定できること、大分県は九州であるが、人口規模が他の愛着度ランキング上位県の中でも小さく、福岡県という大都市に隣接している県(山梨県も東京都に隣接している)であること等を考慮に入れて選定した。
 それぞれの転入超過率順位は、長野県19位、大分県26位、山梨県38位となっている。
 これをみると、地元での就職を希望する学生は、平成31年卒では、山梨県60.0%、長野県63.5%、大分県63.4%となっている。
 平成28年卒をみると、山梨県42.8%、長野県58.2%、大分県72.3%となっている。近年、若干の上昇傾向は見られるが、山梨県は、他の県と比較して地元の就職希望の低い県となっている。

※マイナビ マイナビ大学生Uターン・地元就職に関する調査(各年)
※各年マイナビ会員の大学生7,000名ほどを対象にしたアンケート調査

 

  表4から地元に就職をしたい理由をみると、山梨県では、「地元で生活するように言われているから(親の意思)」が、平成31年卒で27.3%となっており、長野県の14.6%、大分県の9.1%と比較して高くなっている。また「長男・長女だから」も山梨県24.2%で、長野県13.4%、大分県6.1%と比較して高い。山梨県では長男・長女であり、親から地元で生活するようにと外的要因から地元での就職を希望している割合が少なからずあるといえる。
 次に、本稿で話題としている「地元の風土が好きだから」については、平成31年卒では山梨県では48.5%、長野県で67.1%、大分県で48.5%となっている。長野県では他の項目と比較して圧倒的に割合が高くなっており、大分県でも山梨県と割合は同じであるが、項目中では、最も高い割合となっている。

※マイナビ マイナビ大学生Uターン・地元就職に関する調査(各年)
※各年マイナビ会員の大学生7,000名ほどを対象にしたアンケート調査
※表が平成29年卒からなのは、平成28年卒では質問項目が異なっており、比較ができないため

 

 また、「地元に貢献したいから」については、平成31年卒で山梨県36.4%、長野県47.6%、大分県33.3%となっている。この項目は年次により割合が変動しているが、長野県では半数近くがこの理由を選んでいることがわかる。
 あくまでもこの結果からの想定となるが、やはり地元に対する愛着度が高い県ほど、若者の地元就職の理由についても、地域を想う主体的な意識が高くなる傾向にあるのではなかろうか。そのことが全てではないが、無視できない割合で地元の就職希望に影響しているといえるであろう。
 地元に愛着を持ち、貢献したいと考える若者が夢を持ちながら就職先を探す行為と、長男・長女で親に言われたからどこかに就職先はないかと探す行為。地元に戻った先にある生活意識。それが日常的に繰り返されてきた行為であるとしたら、中長期的にみて、若者はどちらに地域の未来の可能性(姿)をみることができるのであろうか。

 

4.まとめとして

 地域を創る視点、少しでも転入超過に向かわせる視点として、郷土愛の重要性について考察を加えた。
 地域を創生するには、雇用も出会いも子育ても大事であり、若者の定着に向けても各々をおろそかにはできない。しかし、若者の定着に向けては若者が求める「何を」用意するのかという方法論ではなく、「なぜ」そこで生活するのかというもっと根本の部分で議論を進めてみる必要はなかろうか。
 繰り返しになってしまうが、郷土を想う気持ちなくして、郷土の維持・発展は願えないと思えてならない。郷土愛と転入超過率、若者の意識として山梨県、長野県、大分県の事例をみても、やはり地方の創生には、郷土愛、地域に貢献するという想いが実はとても大切で、そのことを醸成することが取り組みの第一歩と思える。
 何が若者を地域に向かわせるのか。何が必要なのか。身近にいるお手本(大人)の意識はどうなのか。今一度考えてみる必要があろう。 


[1] 増田寛也「地方消滅‐東京一局集中が招く人口急減」中央公論新社 2014
[2] ニュースレター214、215号「郷土愛を育む大切さ(前編・後編)」等で報告
[3] 全国の都道府県別の地域と回答者自身の関係性、思いや誇り等に点数を付け、ランキング化している(有効回答数:全国3万24人)。