聖地巡礼の盛り上がり
毎日新聞No.531 【平成31年2月1日発行】
昨年、一般社団法人アニメツーリズム協会から『訪れてみたい日本のアニメ聖地88(2019年版)』が発表され、県内では、女子高生のアウトドア体験を描いたアニメ「ゆるキャン△」の登場人物が生活する身延町が選出された。身延町のほか、舞台となった地域では、選出前からさまざまな取り組みが行われ、多くのファンが巡礼のごとく足を運んでいたところだが、聖地として選出されたことにより更なる盛り上がりが期待される。
聖地巡礼とは、もともとは寺社などの聖地を巡拝する行為で、世界各地に古くから存在している。日本においては平安時代中期に熊野地方で始まり、江戸時代には全国で庶民の行楽として盛り上がりをみせたという。
県内にもいくつかの巡礼ルートが形成され、甲府市内では、「府内観音札所」という34箇所の札所巡りが行われていたと言われる。札所巡りとは、観音様を祀る霊場を巡拝してまわることであり、観音様のご加護を願う木札を寺社の柱や天井に打ち付けていたことに由来している。千松院(甲府市相生)からスタートし、善光寺を経由して舞鶴城公園周辺、武田神社周辺の寺社を順に巡る行程で、34箇所のうち半分ほどが現存する。
聖地巡礼が大流行した江⼾時代は、現在の市街地の基盤となる甲府城を中心とした城下町が形成され、柳沢吉保の時代には最も文化が花開いたと言われている。甲府の歴史というと、武田信玄や父・信虎の時代が脚光を浴びているが、柳沢吉保・吉里親子の築いた時代は、江戸の賑わいと並び称されるほどであったことを忘れてはならない。
現在、県と甲府市で連携して、舞鶴城公園前を当時の城下町の街並みを再現するための整備を進めているところであるが、併せて歴史や文化を体験できるような仕組みづくりも重要となる。歴史や文化は目に見えないものであり、生かし方、磨き方によりその価値が大きく変わることとなるが、聖地巡礼が行われていたという出来事は、文化の歴史として残していく必要があり、生かし方によって観光資源の一つとなりうるのではないか。
今年、開府500年を迎えた県都甲府で、歴史に思いを馳せながら、散歩がてら聖地を巡礼するのも一興ではなかろうか。
(山梨総合研究所 主任研究員 伊藤 賢造)