VOL.104 「another one」
「できない人ほど自信があり、できる人ほど慎重である」。自らの能力の低さを認識することの困難さが過剰な自己評価につながるというこの現象を科学的なデータで裏付けた研究が「ダニング=クルーガー効果」である。この効果は「認知バイアス」の一種であると言われている。 アメリカのコーネル大学の研究者であったデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーは、大学の学生の成績と自己評価の関係を調査し、成績が悪い人ほど自分が全体の中で占める位置を過大評価していること、そして優秀な人ほど自分を控えめに評価していることを証明した。
この研究では「なぜできない人が、自分の能力が高いと思いこむのか」ということについて、能力の低い人には、次のような特徴があるとしている。
自身の能力が不足していることを認識できない。
自身の能力の不十分さの程度を認識できない。
他者の能力を正確に推定できない。
実はこれは、誰でも陥る可能性のあることであって、自分がそのような状態にならないようにすることが重要である。そのために必要とされている能力が、自分自身を客観的に観察する能力「メタ認知」である。簡単に言えば「自分自身にダメ出しをする能力」ということである。
「メタ認知」は、「もうひとりの自分」と形容される。自分の思考や行動を対象化して認識することにより、自分自身の認知行動を把握する能力である。 「メタ認知」を持つことによって、自信過剰な「困った人」にならなくて済む。何事においても自分自身を客観的に捉えられるように努めたいと切に思う。
実は「ダニング=クルーガー効果」は二人の研究以前にすでに明らかにされていた。 孔子は「為政」の中で、弟子の由にこう教えている。 「知之為知之、不知為不知。是知也。」(之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らざると為す。是れ知るなり)。 すなわち、真の知識は自分の無知を知ることである。
山梨総合研究所 主任研究員 小池映之