平成とともに
毎日新聞No.534 【平成31年3月15日発行】
母に連れられ、甲府市中心部のデパートめぐりをするのが休日の楽しみだった。店内を歩いて洋服や雑貨を眺めるだけでわくわくし、レストラン街でグラタンやクリームソーダを食べるのも非日常で特別な思いがしたものだ。
県民に親しまれた百貨店が、平成の終わりとともにまた一つ消える。甲府駅前の象徴的なビルから灯りが消えたら、甲府の中心街はどうなってしまうのだろう。山交百貨店の閉店という衝撃的なニュースを耳にして、小売業界の栄枯盛衰に揺れた平成の30年をあらためて振り返ってみた。
平成の幕開け、平成元(1989)年は、甲府市中心部の大型店舗が業態転換や改装をし、再出発した時期にあたる。山交百貨店が大規模増床を行い新ビルとしてスタートすると、ダイエーから業態転換したトポス甲府店が営業を始め、同3年には、ファッションビル・パセオがオープンした。老若男女が、中心街にあふれていた。
ところが平成10(1998)年以降、相次ぐ郊外店の進出により中心街は冬の時代を迎える。甲府西武が同年に撤退したのを皮切りに、平成11(1999年)年にはトポス甲府店、平成19(2007)年にはパセオも店を閉じた。跡地は公共施設や店舗付マンションと、いずれも大型店ではなくなっている。
一方で、郊外には総合スーパー(GMS)や大型モールの立地が相次いだ。平成17(2005)年にアピタ石和店、平成21(2009)年にラザウォーク甲府双葉、平成23(2011)年にイオンモール甲府昭和等々。スーパーに各種専門店、子ども向けのゲームコーナーまであり、ワンストップでなんでもそろう。広い駐車場を備え、モール内で雨に濡れる心配なく買い物を楽しめる空間は、次第に中心街から人を遠ざけた。
また、平成9(1997)年の楽天市場のサービス開始等、インターネットショッピングの普及、平成12(2000)年の御殿場プレミアムアウトレット開設をはじめとする隣接県へのアウトレットモールの進出も少なからず影響しているであろう。甲府市、山梨県は中心市街地の活性化に取り組んできたが、購買行動の変化の潮流を変えることはできなかった。
筆者の小学校低学年の二男は最近、休日になると「イオンでも行く?」と私に声をかける。時代も変わった、ということなのだろうか。渋滞を抜けようやくたどり着いたモールは、中高生のグループや親子連れでにぎわっていた。
(山梨総合研究所 主任研究員 渡辺 たま緒)