Vol.248-2 中部横断自動車道の開通で、山梨はどう変わる


公益財団法人 山梨総合研究所
専務理事 村田 俊也

1.はじめに

 中部横断自動車道は、静岡県静岡市を起点に、山梨県から長野県小諸市に至る約132kmの高速自動車道である。199311月に増穂IC(インターチェンジ)~双葉JCT(ジャンクション)間で施工命令が出され工事が始まったのを皮切りに、山梨県内では今年310日、富沢ICと静岡県新清水JCTが開通し、山梨県と静岡県がつながった。2020年度中には甲府盆地以南が全線開通する予定となっており、山梨県庁・静岡県庁間は現在の2時間35分から1時間40分に短縮される(国土交通省資料)。
 本県における高速道路網の整備をみると、昭和57年に中央自動車道の全線供用が始まったが、この完成は経済を始めさまざまな面で本県に大きな恩恵・変化をもたらした。一方、中部横断自動車道は、佐久小諸JCTまで開通すれば、既存の高速道路を経由して太平洋と日本海が4時間で結ばれることになり、さらに混雑する首都圏を避け北関東と甲信静をつなぐ重要な交通基盤となる。山梨県は、日本の東西軸(中央自動車道)に、南北軸(中部横断自動車道)が交差することになり、本県の発展への可能性が期待されている。
 一般的に、高速道路が開通すると、さまざまな面で効果がみられることから、今回はこうした効果を山梨側だけでなく、静岡側の期待も含めて整理してみることにする。
 ※ 以下、中部横断自動車道は、本文中は「中部横断道」と表記する。

2. 中部横断自動車道六郷IC以南区間の開通予定

 中部横断道は、2002年に双葉JCT~白根ICが開通したのを皮切りに、順次南に延び、現在下部温泉早川ICまで開通している。六郷IC以南は、2017年度に開通予定であったが、地盤が予想以上に脆弱だったことから、工事期間が延び、静岡方面の開通は、2020年度中の予定となっている。

中部横断道計画概要(平成312月現在)

資料:山梨県ホームページ
※ 3月10日、六郷IC~下部温泉早川IC、富沢IC~新清水JCTも開通済み
※ 3月19日、下部温泉早川IC~南部ICは、2020年度中に 開通が延期となることが公表された。

3.開通により見込まれる効果

 中部横断道が全線開通すると、どんな効果が期待できるのであろうか。ここでは、山梨県や関係機関での期待を整理するとともに、最近開通した高速道路の実際の効果を確認する。

(1)期待される効果

 国土交通省では、中部横断道開通による効果を次のように整理している(山梨県ホームページ「中部横断自動車道の整備により期待される効果」参照)。

A.代替路の確保(その1、強くてしなやかで国際競争力のある国土の形成)
 中部横断道の整備により、上信越自動車道、中央自動車道、新東名高速道路の3本の高規格道路が結ばれることで、高規格幹線道路のネットワークが強化される。
 首都圏直下型地震や東海地震等の災害時は、既存の東名高速道路利用のルートに環状ネットワーク利用のルートが加わることで、中京圏と首都圏間の災害普及や被災支援が強化される。

B.代替路の確保(その2、国際拠点港湾との連携)
 内陸部の産業は、東アジアの発展などに伴い輸出の依存度が高まっており、物流に重要な国際拠点港湾や重要港湾への円滑なアクセスが課題となっている。
 中部横断道が整備されることで、日本海側と太平洋側の国際拠点港湾等と内陸部が連結され、広域的な物流体系が形成される。 

C.安全安心の向上(異常気象時における代替道路の確保)
 峡南地域は地形や地質等の特性から大雨などの際に通行止めを実施する事前通行規制区間が多数あり、通行止めの際には孤立する集落が発生することから、代替道路の確保が急務となっている。
 中部横断道が整備されることで、孤立集落の解消が期待される。 

D.移動時間の短縮(山梨県と静岡県の移動時間が約1時間短縮)
 中部横断道が開通すると、山梨県と静岡県の移動時間が短くなる。例えば、甲府市内から静岡市内までの移動時間は、国道52号を利用する場合に比べて約1時間短縮される。 

E.医療活動の支援(山梨県及び静岡県の第3次医療施設の1時間カバー圏域が拡大)
 (仮称)南部IC周辺から、第3次医療施設(※)までの搬送時間は、1時間を超過しているが、中部横断道が整備されることで、1時間以内に短縮される。
 搬送時間が短縮されることで救急率の改善が見込まれる。
 ※重症患者(集中治療室入院患者)に対応する医療施設

 一方、山梨県では、具体的な事例として、次のような効果もホームページにて紹介している。

A.高速道路ネットワークによる救急医療活動の支援
 身延町役場から山梨県立中央病院への所要時間が約17分短縮するなど、周辺地域から第3次医療施設までの所要時間が短縮される。

B.高速道路の整備が内陸県の貿易を活性化
 近年、山梨県の主要輸出地域はアジアであるが、山梨県・長野県等の内陸県における港を利用した物流には、品質確保、輸送コスト軽減の観点から高速道路が必要不可欠である。こうしたなか、中部横断道の整備により、2013年に国際拠点港湾に指定される等、貿易機能の強化が図られている清水港を利用した、アジアとの有益な貿易を促進できる。

C.高速道路ネットワークの整備により、人や物の流れが安定化
 首都圏と山梨を結ぶルートが1通りから6通りとなり、高速道路の活用が多様化することにより交通の信頼性が向上する。また、災害、交通事故、渋滞時等でも企業活動や日常生活を維持できる高速道路ネットワークが形成され、安全・安心の基盤を提供することが可能となる。

 このほかの事例等も合わせて整理すると、中部横断道の開通にあたっては、つぎのような効果が期待できる。

≪ 中部横断道の開通に期待される効果 ≫
  • 高規格幹線道路のネットワークの強化
  • 日本海側と太平洋側の国際拠点港湾等との連結による広域的な物流体系の形成
  • 異常気象時における代替道路の確保
  • 山梨県~静岡県の移動時間の短縮
  • 3次医療施設の1時間カバー圏域の拡大による医療体制の向上
  • 周辺地域の人口減少の歯止め
  • 新規企業進出、地域の雇用機会の増加
  • 農産物の販売拡大
  • 観光客の増加

(2)近隣の高速道路の開通事例

 次に、実際に開通した高速道路の開通効果について整理する。ここでは、中央自動車道が全線開通した効果と、比較的近年開通した近隣の高速道路の事例として、圏央道の区間について述べる。

A.中央自動車道の全線開通
 国土交通省では、中央自動車道の全線開通がもたらした効果として、次のとおり整理している(山梨県ホームページ「中央自動車道の全線開通がもたらした効果」に掲載)。

(新宿から甲府までの所要時間は半分以下に)
 昭和5711月に中央自動車道西宮線の勝沼ICから甲府昭和ICの延長23kmが開通し、中央道367kmが全線開通した。これにともなって東京へのアクセス性が飛躍的に向上 、新宿から甲府までの所要時間を国道20号利用の場合と比較した結果、半分以下の1時間40分になった。

(物や人の交流が大幅な促進)
 産業面では開通で県内に先端企業の進出が相次ぎ、工業製品出荷額の対前年度伸び率は、開通直後の昭和5860年に3年連続全国一となった。また、農作物では特産のぶどう、ももの全国展開に拍車がかかった。一方、観光面では、全線開通以前から人気のある富士北麓地区に加え、峡東果実温泉郷や八ヶ岳周辺地区の観光客も増加し、首都圏からの身近な行楽地として山梨県が周知された。同時に沿線住民の行動圏も拡大され、東京との文化交流も活発化した。

 中央自動車道の全線開通は、山梨県にとって時間的・心理的な「東京との距離感」を縮め、東京圏に暮らす人々に対しても山梨県を身近にするとともに、産業面・文化面での交流拡大に大きな効果があったと位置づけられる。

B.圏央道(さがみ縦貫道路)寒川北IC~海老名JCTの開通
 さがみ縦貫道路は、圏央道の神奈川県区間を構成する自動車専用道路で、平成273月の寒川北IC~海老名JCT開通により、全線開通した。
 国土交通省とNEXCO中日本は、平成275月に、開通後に発生した整備効果(ストック効果)について、次のとおり概要を発表している。

  • 神奈川県内の南北移動が円滑化し、行きにくかった南北の所要時間が改善され、相模原から茅ヶ崎までの所要時間が83分→48分に短縮された。
  • 周辺の一般道(国道129号、16号等)の渋滞が改善した(混雑区間が減少)。混雑時10km/h以下区間が解消し、20km/h以下区間が25%減少した。
  • 相模原市などで、民間投資、企業立地が進み、新たな雇用が生まれている。相模原市の新規求人数が約3割増加し、沿線メーカーの物流も効率化された。
  • 神奈川から奥多摩へ、群馬から箱根へ、新しい観光交流が進んでいる。奥多摩湖では、神奈川県からの来訪が約2.4倍に増加している。また、開通を契機に、新たな周遊バスツアーが販売されている(新潟発、鎌倉・箱根・富士山周遊ツアー等)。

C.圏央道 境古河IC~つくば中央ICの開通
 圏央道は、平成292月、茨城県区間の境古河IC~つくば中央IC間が開通し、これにより、湘南から成田までの地域が結ばれた。
 国土交通省とNEXCO東日本は、平成2911月に、開通後に発生した整備効果について、次のとおり概要を発表している。

  • 茨城県内の圏央道沿線で企業立地が活発化(この4年間で79件立地)(茨城県は、4年連続で工場立地面積が全国1位)
  • 圏央道沿線の五霞町では工業地の地価が上昇、工業地の地価上昇率が全国1位(約18%)(圏央道沿線の通過自治体では約4%上昇)
  • 群馬・栃木方面と成田空港を結ぶ高速バス(4路線68便)のうち、約7割の47便が圏央道ルートに経路変更
  • 高速バスの最長所要時間が約30分短縮し、定時性も向上
  • 「道の駅発酵の里こうざき」では、来場者数が昨年より約2割増加
  • 開通した区間の隣接区間では交通量が増加(久喜白岡JCT~幸手IC77%増、牛久阿見IC~阿見東IC36%増加)

圏央道全体図


出典:国土交通省とNEXCO東日本の記者発表資料

 なお、寒川北IC~海老名JCT、境古河IC~つくば中央ICの開通初期の各効果をまとめると、次のとおりとなっている。
 立地条件が中部横断道と違うため、直接比較はできないが、中部横断道の開通においても、並行する道路の混雑緩和(通行量の減少)、高速道路の隣接する区間の交通量の増加、商圏の拡大、観光客の発地エリアの拡大、企業・物流施設の立地、地価の上昇(下げ止まり)、公共交通体系の変化、沿線道の駅利用者の増加などの変化が生じる可能性があるといえる。

≪ 圏央道 寒川北IC~海老名JCTの開通効果 ≫

【直接効果】

  • さがみ縦貫道路に並行する一般道(国道129号、国道16号、国道412号、国道467号、県道46号相模原茅ヶ崎線)では、渋滞区間が解消、混雑区間の延長が25%減少。
  • これまで開通していた隣接区間の交通量は、大幅に増加。
    圏央道(圏央厚木IC~相模原愛川IC間):19,800台→47,000台(137%増)
    圏央道(青梅IC~入間IC間):38,400台→46,700台(22%増)

【国際競争力と成長(民需の拡大)】

  • 配送時間の短縮により、新鮮な野菜を朝一番に、確実に配達出来るようになったとの実感の声。
    さがみ縦貫道路の全線開通後、東京都あきる野市方面等への配送時間が大幅に短縮し、確実性が高まったため、取引の拡大を図っている。例えば、配送時間の短縮により集荷の時間に余裕ができたため、鮮度が重要なホウレンソウ等を、新鮮な状態のまま確実に朝一番の店頭に提供できるようになった。また、1時間半程度で行けるようになった埼玉県東松山方面等への配送エリア展開も検討している。(湘南藤沢地方卸売市場職員の声)
  • 埼玉県方面など、新たなエリアへの営業展開の検討が可能に。
    藤沢ICから圏央道を経由して埼玉県方面に行く場合、県道や国道129号経由に比べて30~40分短縮できるため、埼玉エリアを視野に入れた営業展開を検討したい。(物流企業の声(藤沢市内))

 【地域経済の好循環(広域的な観光交流の拡大)】

  • 開通を機に企画された「新潟発」バスツアーは申込みが好調、満席の日もある状況。
    圏央道の開通により移動時間が短縮され観光地での滞在時間が確保できるようになったので、新潟発、富士山麓・箱根・鎌倉周遊(2日間)の新たなバスツアーを企画した。お客様の申し込みも非常に好調で満席の日もある状況。(旅行会社の声)
  • 開通区間に近接する寒川神社、わいわい市ともに順調。わいわい市の入込客数は12%増加。
    開通後の参拝客の来訪状況は順調。駐車場を拡大したが、それでも満車になるほどで、遠方から車で来る方も増えている印象。参拝客や地元の方から「圏央道が開通して便利になった」という声をよく聞く。(寒川神社の声)

【地域の交通状況の改善】

  • 開通区間に並行する一般道では交通量が減少し、所要時間が短縮。
    開通区間に並行する国道129号の戸田交差点や県道相模原茅ヶ崎線の東河内交差点では交通量が減少し、所要時間が短縮された。
  • 開通区間に並行する細街路では、抜け道利用の大型車交通量が減少。
    旧田村十字交差点・社家駅入口における大型車交通量が減少している。
     

出典:国土交通省とNEXCO中日本の記者発表資料を筆者が整理(平成27年5月時点での経済効果)

≪ 圏央道 境古河IC~つくば中央ICの開通効果 ≫

【直接効果】

  • 開通した区間の隣接区間では交通量が大幅に増加。
    久喜白岡JCT~幸手IC77%増
    牛久阿見IC~阿見東IC36%増
  • 中央道⇔常磐道間の交通が圏央道の利用に転換し、首都高を経由していた交通が7割から約3割に減少。

【圏央道沿線で企業立地が促進】

  • 圏央道沿線では、平成25年から平成28年の4年間で79件の企業が立地。茨城県は、4年連続で工場立地面積が全国1位。
    (沿線への新規立地企業の事業展開事例)
    取扱貨物の拡大、首都圏および全国での新規顧客獲得を目的に、複数の候補地の中から、圏央道へのアクセスが良い当該地に新施設を建設。平成295月の開業以降、圏央道と高速道路を利用した首都圏エリアに加え、東北や北陸、関西など各方面への配送で新規顧客を獲得し、売上高も増加傾向。圏央道へのアクセス性など立地条件の強みを活かした、更なる新規顧客の獲得、売上高増を目指して営業活動を展開中。(沿線企業の声(日立物流ファインネクスト))

【首都圏の環状ネットワークの整備に合わせて大型物流施設が続々と立地】

  • インターネット技術を用いた商取引の市場規模が拡大するにつれ、高度な仕分け・荷捌き等の機能を有する大型マルチテナント型物流施設の立地が圏央道沿線で活性化(圏央道沿線の主な大型物流施設4社においては約4倍に増加(7件→ 27件))。

【圏央道の沿線地域において、工業地の地価が上昇】

  • 工業地基準地価の上昇率は、全国上位10地点の中で6地点が圏央道沿線(うち3地点が通過自治体)。
  • 圏央道沿線の五霞町では工業地の地価上昇率が約18%と全国1位(圏央道沿線の通過自治体では約4%上昇)。

【成田空港へのアクセス性向上により、自動車・高速バスがより便利に】

  • 成田空港と群馬・栃木方面を結ぶ高速バスのうち、約7割が都心経由等から圏央道ルートに経路を変更。
  • 久喜白岡JCT~成田空港間の所要時間が約30分短縮し、定時性も向上(最長約113分→約86分)。
    都心経由から圏央道ルートに変更したことで、定時性向上や移動時間の短縮を実感している。太田線・桐生線の利用者数は、昨年に比べて増加傾向にある。圏央道開通による成田空港へのアクセス向上が契機となり、境町からの要望により、111日から境町(境古河バスターミナル)への乗り入れを開始予定。更なる利用者増加を期待している。(空港発着バス事業者の声)
    インバウンドの国内需要の高まりから、伊香保までルート延伸を予定している。圏央道が開通し、成田空港へのアクセスが向上したことも後押しとなった。(空港発着バス事業者の声)

【環状ネットワークの形成により圏央道沿線で道の駅の来場者数が増加】

  • 東名高速~東関東道の環状ネットワークの形成により、既に開通していた圏央道沿線の「道の駅」でも来場者及び売上が増加。
  • 「道の駅発酵の里こうざき」では、来場者数が昨年より約2割増加。
    圏央道開通後から、トラックや観光バスの立寄りが多くなり、来場者も順調に増加している。前年の8月に比べ、来場者、売上ともに約1割増加している。(施設管理者の声(道の駅 ごか))
    前年度と比べて、来場者・売上ともに増加した。お盆では約2割増加し、H27.4月オープン以来最多となった。TV報道等が契機になったが、圏央道茨城県区間の開通がさらに売上を押し上げたと思う。(施設管理者の声(道の駅 醗酵の里こうざき))

出典:国土交通省とNEXCO東日本の記者発表資料を筆者が整理(平成2911月時点での経済効果)

4.開通により懸念される事態

 このように、高速道路の開通においては、さまざまな経済面を中心とする効果が期待され、また、実際発生している。ただし、プラスの効果だけでなく、マイナスの効果も想定される。中部横断道については、たとえば次のような状況が想定される。

(1)ストロー効果

 最も懸念されるのが、「ストロー効果」である。通過地域の経済力・消費力を地域外の都市に吸い上げてしまうのではないか、ということである。
 現在の峡南地域に住む人たちの普段の買い物動向についてみてみる。山梨県商工会連合会が調査した「平成28年度商圏調査」によると、身延町民の買い物場所としては、中央市が30.0%、昭和町(バイパス含む)が17.5%、南部町内が15.1%などとなっている。町内に大型小売店が少なく、また、勤務先が甲府盆地方面というケースも多いことからこうした状況にあるが、中部横断道が開通すると、身延町から静岡市中心部までは1時間前後と想定されるまで時間が短縮される。また、高速道路料金については、新直轄方式区間である六郷IC~富沢ICは無料区間であり、新静岡ICまで960円である。こうしたことを踏まえると、甲府盆地方面での買い物の一部が静岡市中心部などに流れる、ということが想定される。
 一方、山梨県の最南端に位置する南部町民の買い物場所としては、富士宮市が46.6%、富士市が16.9%、南部町内が15.7%などとなっている。町内に大型小売店が少なく、また、隣接する富士宮市の中心部へは30分程度の距離のため、現在でも甲府盆地の市町村や町内での購買率は高くない。このため、中部横断道が開通しても、甲府盆地の市町村や町内での購買には大きな変化はないかもしれないが、富士宮市や富士市から静岡市中心部に購買先が変わり、こうした地域との関係が深まっていく可能性はあろう。今秋には、静岡県下最大の商業施設となる「ららぽーと沼津」が開業するが、1時間程度の距離となり、手軽なレジャーも兼ねた購買場所(商圏)になる、とみる関係者もいる。
 地域の住民が、現在でも渋滞がない国道52号線を利用せず富沢ICから南の有料区間をどの程度利用するかは不透明であるが、選択肢が増えるということは地域にとって大きなプラス材料であろう。

(2)公共交通機関の動向

 懸念される動向のもうひとつは、公共交通機関である。
 中部横断道が開通すると、静岡市~甲府市の移動手段に変化が生じることが考えられる。山梨県庁~静岡県庁の所要時間は、中部横断道六郷IC経由国道52号線利用で2時間35分であるが、中部横断道を利用すると1時間40分と見込まれている(国土交通省資料)。山梨県庁、静岡県庁ともにJR駅に近いことを考慮する中で、甲府駅~静岡駅の定期バスの所要時間は、現在2時間50分程度である。
 しかし、中部横断道が開通すると、運行ルートにもよるが、2時間~2時間15分程度に短縮すると予想される。一方、JRが甲府~静岡で運行している特急「ふじかわ」の所要時間は2時間20分前後である。ビジネスマンなど所定時刻での到着を重視する層やゆったりとした鉄道での旅を満喫したい層はこれまで通りの特急列車の利用となろうが、現行運賃(片道 バス2,550円、特急4,100円)や増便されると思われるバスの本数を勘案すると、バスの競争力が向上し、鉄道ダイヤに改正の懸念がないとは言えないかもしれない。

5.峡南地域、静岡産業界から見た開通への期待

 次に、今回の開通に際し、最も恩恵が期待される峡南地域の動きと、接続先の静岡市の動き・期待について、関係者へのヒアリング等からまとめてみる。

(1)峡南地域の期待・不安

A.災害発生時における代替路の確保

 中部横断道の開通効果として最も期待が大きいのは、災害時の利便性の確保であると感じられる。峡南地域内の国道52号線は、大雨等による通行止めが発生することがあり、現状では急病対応等に懸念がある。峡南地域には事前通行規制区間が多く残っており、約7千世帯の方が、通行止めの対象区間で生活をしている。しかし、中部横断道の開通によりこうした懸念はほぼ解消される。
 また、下山工業団地では少なくとも3分の1以上の従業員が身延町外から通勤しているが、こうした従業員が帰宅困難者となる事態が避けられる。下部温泉早川ICは下山工業団地の間近に設けられることから、工業団地としての立地条件が大きく向上するとみられるが、従業員確保に対してもプラス材料になると思われる。

B.産業界

 産業関係者へのヒアリングによると、地域の主力産業である観光業界において大きな期待が感じられる。静岡方面へのキャンペーン等の本格的な動きはこれからの模様であるが、キラーコンテンツである身延山・久遠寺の存在を活用した、静岡市方面と直結することによる時間短縮効果を通じた観光客の増加に期待が強い。
 なお、NEXCO中日本では、身延山の宿坊利用券付ドライブプランとして、「速旅【はやたび】高速道路割引 + 宿泊施設セットプラン」を売り出している。「高速道路割引」と提携宿泊施設で宿泊料金の支払いに利用できる「宿泊商品券」がセットになった商品で、参加する宿泊施設はまだ少ないものの、中部横断道開通記念と銘打ち、311日から販売が始まっている。
 一方、観光と並ぶ主力産業である建設業界では、不安が窺われる。峡南地域では10年以上に及んだ工事が終了することから、今後の仕事の確保について懸念する声が聞かれる。
 なお、静岡県では南海トラフ地震で大きな被害が想定されているが、こうした事態を想定したバックアップ体制の拠点としての期待も膨らんでいる。中部横断道の開通により、峡南地域は新東名高速道路と至近の時間距離になるとともに中央自動車道とも接続することから、倉庫業界において峡南地域をバックアップ拠点として活用する動きが見られる。

C.国道52号線の交通量


   中部横断道が開通すると、国道52号線からの通行シフトが想定される。特に六郷IC~富沢ICは無料区間となっており、有料区間では費用対効果も考慮してあえて利用しないケースもある大型トラックなどの営業車も、中部横断道にシフトする可能性が高い。このため、国道52号線の利用車両が減少し、沿線でのビジネスチャンスや賑わいにマイナスの影響を懸念する声が聞かれる。
 ただし、峡南地域においては、これまでこうした「通過需要」を主たる収入としていた事業者はそれほど多くないと思われる。また、「『賢い料金』社会実験」(※)の仕組みの派生形として、無料区間では一般道への一時立ち寄りが料金計算上不利にならない取り扱いが実施されれば、むしろ一般道と中部横断道を合わせた地域通過車両が増えることが期待されるなかで、「中部横断道から降りてでも立ち寄りたい」魅力スポットを用意すれば、ビジネスチャンスが増える可能性があると言える。

※「賢い料金」社会実験
 日本の高速道路においては、休憩施設同士の間隔が概ね25km以上離れている空白区間が約100区間存在している。この空白区間を半減することを目指し、全国の道の駅(対象限定)を対象に、高速道路からの一時退出を可能とする社会実験。
 一般道路の”道の駅”を利用するために高速道路をいったん降りると、もう一度高速道路に戻るときに、あらためて初乗り料金が必要であるが、車両ごとの経路情報を把握しているETC2.0では、もっと柔軟な料金設定「賢い料金」が可能になっている。このため、道の駅利用のための一時退出をしても、目的地まで高速道路を降りずに利用した場合と同じ料金で高速道路を継続利用できる。(20ヶ所限定、山梨県では道の駅「しらね」で利用可能)(国土交通省、ETC総合情報ポータルサイト)

D.人口流出への歯止め
 静岡市等との時間距離が縮まるとはいえ、静岡から峡南地域に移住者が増える、との期待は大きくない。居住地域の選択には生活基盤が整備されていることが条件となろうが、峡南地域は静岡県内と比べて必ずしも生活の利便性が高いとはいえない。静岡市では3つある行政区のうち、清水区だけ人口が減少している。市全体としては、南海トラフ地震による津波への懸念により、沿岸部から内陸部への移住の動きはみられるが、こうした状況においても清水区の山間部(国道52号線沿い)では人口が減少しており、その延長線上にある峡南地域において移住者が増えることは見込みにくいと思われる。
 ただし、流出に一定の歯止めがかかるということはありえる。仕事の都合で静岡県内に転居もしくは単身赴任をしている者が、峡南地域の実家から通勤が可能になるといったケースや、高齢化が進む地域であるが、親の介護のために実家に戻っても転職せず実家から通勤するというケースは想定されよう。

(2)静岡県側の期待・温度差

  中部横断道の開通に対する山梨県側の期待は、大きい。では、接続するもう一方の当事者である静岡県の期待はどうか。静岡県は、人口、面積ともに山梨県と比べてはるかに大きく、また、東西には東京・神奈川、愛知という存在感のある自治体があり、関心度合いは山梨県とは異なると考えられる。

A.期待
 産業界の動きをみると、たとえば、静岡商工会議所では、中部横断道の開通を戦国武将今川義元公生誕500年祭や清水港開港120周年などと並ぶ2019年度の重要事業として挙げている(年初時点)。
 また、運輸関係では、清水港において、山梨や長野からの農作物の輸出増加や、山梨側からの外国クルーズ船の利用客への新たな観光ルートの提案等も期待している。富士山静岡空港でも、農作物の輸出や修学旅行等の利用の拡大を期待する声が聞かれる。
 一方、小売業界では、取引の拡大や新規取引先の開拓など、販路拡大の期待が感じられる。静岡市中心部との時間距離が縮まることから、峡南地域まで商圏を設定し、消費の取り込み等を狙う動きが見られる。
 なお、静岡県の企業には、山梨県を販売先の市場として期待するだけでなく、「パートナー」として期待する向きもある。山梨県内企業と連携し、両者の優位点を生かし、首都圏など関東に売り込みを図りたいという動きもある。

B.温度差
 ただし、こうした期待する声が聞かれる一方で、山梨側との温度差も窺われる。
 中部横断道沿線の自治体の事業所を対象とする中部横断道の利用等に関するある調査によると、中部横断道の活用の可能性について、静岡県内の事業所の「利用する」との回答は、山梨県内の事業所よりもかなり少ない。また、開通が自社の事業にとってプラスになるとの意見も、運輸、倉庫、宿泊施設などではみられるものの、山梨県の事業者と比べてやや低くなっている。企業進出を検討する動きも、あまりみられない。これらを勘案すると、静岡県の事業者は、中部横断道の開通に大きな期待を寄せているとは言いがたい。
 また、中部横断道が開通した場合、静岡市民は山梨県と長野県のどちらを訪問したいと考えるかについて質問した調査では、富士五湖、八ヶ岳周辺(山梨・長野)など山梨県の地域ではなく、松本・白馬方面がトップであった。高速道路がつながれば、これまで行きにくかった地域に行ってみたいとの希望が多いことは理解できなくもないが、一般市民の山梨への関心は高くない、と感じられる。
 一方、富士山静岡空港や清水港から山梨県への観光客の送り込みについて、それほど期待できないのでは、との声もある。同空港への就航都市をみると、国内線では同空港よりも多くの便が羽田空港に飛んでおり、顧客の選択・行動の自由度を考慮すると、割安な直行バスの運行など同空港から山梨方面へのアクセスにおいて大幅な向上でも実現しない限り、山梨への送客の増加は見込めない。また、国際線は中国、台湾、韓国と結んでいるが、羽田便の席が確保できないといったケースの代替手段としての利用にとどまっている面が強い。清水港に立ち寄るクルーズ船の外国人観光客についても、これまでの実績では御殿場アウトレットモール訪問に2時間程度の滞在時間しか確保できないなど、時間的な制約が大きく、山梨方面への訪問は難しい。こんな意見が聞かれる。

6.おわりに

 これまで、中部横断道開通への期待を、最近開通した近隣高速道路の開通効果や地元地域の動向、接続先となる静岡側の意識などから探ってきた。
 中部横断道の大半が通過する峡南地域は、東西に利用できる平地の幅がせまく、人口減少・高齢化が進んでいる。このため、今回紹介した効果のうち、産業・経済面の効果の実現見込みは薄いかもしれない。また、少なくとも現時点では、東西に東京・神奈川、愛知という大都市圏を抱える静岡側の活用意欲は山梨側ほど高いとはいえず、期待する効果も、山梨だけでなく長野が視野に入っている。
 ただし、高速道路という重要なインフラ基盤が整備され、変化をもたらす可能性があるということは間違いない。大切なことは、これを機会に、静岡市民など県外の人々に「山梨が近くなった」と認識させ、山梨に目を向けさせる、ということであろう。
 「山梨にはよい素材(地域資源)が揃っている」ということをよく聞く。変化をもたらす可能性を現実に変えるには、その素材に磨きをかけ、魅力ある商品、場所、コンテンツを用意することが求められよう。また、こうした地域の魅力を上手に県外の人々に伝えていくことが、より重要となろう。こうした積み重ねにより、中部横断道の開通効果を十分に引き出すことが期待される。