目的の再確認
毎日新聞No.536 【平成31年4月12日発行】
新年度が始まった。4月1日には新元号「令和」が発表され、新しい時代への期待も高まっている。新年度の目標を立てた方も多いのではないかと思われる。
ところが、現状を改善しようと目標を立てたものの、しばらくすると、今のところ大きな支障はないからとりあえずこのままでいいだろうと判断し、本来しなければならない行動を先送りしてしまう、といった経験に思い当たる節がある方もいるのではないだろうか。ダイエットの目標を立てたものの、おいしそうなスイーツを目の前にし、これを食べてからにしようとつい手を伸ばしてしまうことなど、心当たりはないだろうか。
こうしたことは、経済学に心理学的知見を統合した行動経済学で説明することができる。
同程度の利益と損失では、損失による苦痛のほうが利益による満足感よりも強く感じるため、損失回避性が働き、現状に特に不満がない限り、人は現状維持を選択してしまうのだという。つまり、新しいものに変えようとした場合、そのことがもたらす結果が、良かった場合と悪かった場合で、悪かった場合のほうに目が向きがちであるため、現状を維持する方向へ行動してしまうのである。
しかし、時として、この心理によって非合理的な選択をしてしまう場合があり、これを「現状維持バイアス」と言う。明らかに現状の改善が必要な時や、やれば良くなると分かっている時にも変化を避け、現状を維持しようとしてしまうのである。
有名な話がある。カエルを熱湯に入れると慌てて飛び出してしまうが、水に入れて少しずつ温度を上げていくと、カエルは温度の変化に慣れてしまい、ゆで上がってしまう。
「現状維持バイアス」への対処方法の1つに、「目的の再確認」があるという。
現状維持バイアスが働いた意思決定をしそうになった時に、目的が達成できるかどうかを改めて確認してみるのである。第三者に客観的に助言してもらうことも有効であるという。
私たちは誰もが本能的に「現状維持バイアス」を働かせてしまうことがあることを認識したうえで、そうしたバイアスが自分にかかっていないか確認し、正しい選択をしていきたいものである。
(山梨総合研究所 主任研究員 小林 雄樹 )