Vol.249-2 山梨総研の現状の取組について


公益財団法人 山梨総合研究所
理事長 新藤久和

1.はじめに

 山梨総研の理事長を拝命して2年になろうとしている。この間、20年にわたって活動してきた地方シンクタンクとしての山梨総研が置かれている現状は、きわめて厳しいと受け止めている。もっとも重要な点は、シンクタンクとして備えるべきコアコンピタンスが明らかにされておらず、そのために必要な知識、ノウハウ、技術などの蓄積がはかられていないことである。その原因の多くは、研究員の主体が県や市町村等からの出向者であることにある。
 そこで、1年目を経過した2018年6月に、山梨総研の抜本的改革を進めることとして、技術開発室、品質経営推進室、営業推進室の3つの室を設置した。その結果、不十分ながら、いくつかの具体的な成果も見られるようになってきた。本稿では、こうした取組の概要について紹介させていただき、山梨総研が地方シンクタンクとして、これからも地域の発展に貢献していくために、読者の皆様からのご指導ご鞭撻をお願いする次第である。

2.マネジメント改革の手始めとしての3つの「室」の設置

 理事長就任以来、所内での業務処理や管理体制に対して、多くの改善の余地があることに気づかされた。折しも、世の中は、AIやIoT(Internet of Things)をはじめRPA(定型業務の自動化)などの新しい概念が氾濫し、さまざまなスタートアップが注目を浴びるようになってきている。このような時代にあって、地方シンクタンクとして生き残るためには、こうした変化に適切に対応する必要があることは言うまでもない。進化論で有名なダーウィンを持ち出すまでもなく、強いものが生き残るのではなく、環境の変化に適応したものだけが生き残るのである。
 以下に、3つの室のそれぞれの活動の概要について述べる。

【技術開発室】
 技術開発室は、シンクタンクとして備えるべきコンピタンスを認識し、組織的にその向上に取り組むことにより、業務の効率化と生産性の向上を図ることを目指している。これまでに、次のような取組を進めてきた。

(1)会議、打ち合わせの記録作成の改善
 仕事柄、会議や打ち合わせは多く、そこでの内容を共有するために議事録やメモを作成することは不可欠である。しかし、そのための時間と労力は、かなりのものである。そこで、マイクで発言を拾って文字起こしできるソフトを利用することにして大幅に時間と労力を削減した。まだ、所内で利用しているに過ぎないが、今後は客先との打ち合わせ等にも拡大し業務の効率化を図っていくことを考えている。

(2)アンケート調査データの集計業務のRPA化(定型業務の自動化)
 市町村からの受託業務の多くはアンケート調査を含むものが多い。そのため、大量の調査データを表計算ソフトを使って手作業で集計している。この業務での問題は、「手作業」を軽減できないことと、集計結果が得られるまで、次の工程との間に「手待ち(滞留)」が発生してしまうことである。そこで、集計作業のRPA化をはかることとした。これにより、集計結果のチェックが容易になるとともに、次工程の待ち時間をほとんど無くすことにつながった。

(3)テレワークへの取組
 働き方改革が叫ばれている中で、一つの方策としてテレワークに取り組むところが増えている。装置産業のような業態だと、装置のあるところに行かないと仕事はできないため、テレワークは難しいが、シンクタンクでの仕事は、いつでもどこでもできる仕事が大半である。子育て世代や遠距離通勤のように時間的制約が大きい場合には、テレワークの活用は有効である。しかし、一方で、労務管理や情報セキュリティに関連する課題を解決しなければならないため、現在は、その体制を整備しつつあるところである。

(4)遠隔会議の導入
 市町村から受託した業務を遂行するためには、客先に出向いて行って、フェースツーフェースで打ち合わせをする必要もある。しかし、遠方に所在する市町村だと、2時間足らずの打ち合わせにしても、往復の時間を加味すると一日仕事になってしまう。もちろん、顔を合わせて意見交換することは重要であり、まったく無くすことは不可能である。しかし、最近は、便利に使える遠隔会議用のソフトも開発されているため、それを利用することにより打ち合わせの効率化を図ることができる。これは、在宅で打ち合わせに参加できることから、テレワークの一環としても活用することを検討している。

(5)新しい手段を利用した調査法の開発
 従来、アンケート調査は質問用紙を印刷して配布または郵送して回収していた。それを、コンピュータで集計するためのデータエントリーに多大な労力を割くことになる。そこで、調査対象にもよるが、ウェブを使った調査方法を開発することによりデータエントリーの省力化をはかることを検討している。また、最近は、OCRで調査票を読み取ることもできるので、そうした技術をアンケート調査に応用することにより効率化を図ることも検討する予定である。

【品質経営推進室】
 山梨総研は、基本的にスタッフの主体性を尊重して運営されてきた。そのため、顧客に対する品質保証をはじめとするマネジメント体制が十分整備されないまま現在に至っている。そこで、品質経営を意識して、マネジメント体制を整備することとし、これまで次のような取組を行ってきた。

(1)EVM(Earned Value Management)
 当初、プロジェクトマネジメントのEVMの導入を試みたが、WBS(Work Breakdown Structure)も十分理解してもらえなかったこともあり、これの導入は当面断念せざるを得ないと判断した。詰まるところ、妥当な計画を立てるために、必要な作業を洗い出し、それに費やす標準工数にもとづくスケジュール管理ができていないことにある。しかし、将来的には、テレワークの推進にとっても、進捗管理は重要であることから、徐々にEVMに基づくプロジェクトマネジメントの方向に進めざるを得ないと考えている。

(2)顧客に提出する成果物の品質保証
 市町村から受託した業務の最終的な成果物の品質を保証するための所内手続きを明確にした。しかし、品質保証を確実にするためには、品質保証システムを整備するとともに、各ステップにおいて必要な能力、技術、手順等を整理し、要員認証に耐えられる人材育成を行うことが必要となる。そのための、評価システムについても検討しているところである。

(3)個人情報保護に関する取組
 個人情報保護に対しては、専務理事が個人情報保護管理者としてPマークの認定を維持することとして職員全体の意識の向上に努めている。

(4)品質保証における要員認証
 品質保証を推進するためには、要員認証に対する取組が不可欠となる。これまで、山梨総研でも、統計調査士、専門統計調査士などの資格取得を奨励している。品質管理検定2級資格取得者もおり、最近は、自主的に品質管理検定の資格取得に挑戦しようという職員もあらわれてきている。今後も、人材育成のシステムを整備する中で、シンクタンクのコアコンピタンスを明らかにしながら、その評価も含めて検討を継続していく考えである。

(5)標準化の推進
 山梨総研は県・市町村、民間企業からの出向者を受入れて活動をしてきている。出向者は、2年ないし3年で出向元に戻るため、その間、培った経験や知識・ノウハウが失われてしまうことになる。これを繰り返していたのでは、組織能力の向上を図ることはできない。そこで、定型業務のRPA化を進めるとともに、マニュアル化を行うことにより、新たに出向してきた研究員も円滑に組織になじみ、業務に従事できるようにしていく必要があると考えている。

【営業推進室】
 従来、山梨総研は市町村等からの引き合いにより事業案件を受託するのが基本的な営業活動であった。しかし、近年は契約の公正性・透明性を確保するために、ほとんどが競争入札となってきている。したがって、待っていれば仕事がいただける時代から、積極的に仕事をいただきにいかなければならない時代に移行してきたということになる。そこで、積極的な営業活動を展開するため、営業推進室を設置した。営業活動は多分に属人的な要素があるが、次のような取組を進めている。

(1)まだ、活動を始めたばかりであるが、それぞれの研究員が手分けして担当する市町村を決め、入札情報など市町村の動きに注意を払うようにしている。入札情報は各市町村がホームページに掲載するので、ウェブスクレ―ピング(ウェブを使った情報収集技術)による情報収集にも取り組んでいる。しかし、ホームページのデザインが市町村により大きく異なるため、アプリケーションの開発とメンテナンスに問題が残されている。

(2)地域のシンクタンクとしては、制度設計や計画を提示するだけでなく、その後の実施状況などを把握してアフターサービスを行うことも重要であり、それは山梨総研の強みとすることもできるはずである。今後は、いわゆる、ビフォアサービス、アフターサービスも含めて顧客満足を向上させるべく活動を進めていく考えである。

3.最近のトピック

 このところ、市町村も厳しい財政状況におかれていることは言うまでもない。そのために、受託金額も少なくなることから、経営上も何らかの手を打たねばならないところまできている。理事会においても、もっと外部と連携して活動することを検討すべきであるとか、シンクタンクらしく将来を見据えた提言をまとめて発表することも重要だといったご意見をいただいている。このようなご指摘に対応するための活動についていくつか紹介させていただく。

(1)情報駆動型社会構築への提言
 近年、データ駆動型社会、データサイエンス、society5.0、AI、IoTなどのキーワードが頻繁に使われている。これらに共通しているのはデータである。滋賀大学をはじめとして、いくつかの大学は将来を見越した人材育成の柱として、データサイエンティストを位置付けて大学改革を推進している。
 こうした動向に鑑み、山梨県における情報駆動型社会構築への提言をとりまとめた。これは、マスコミでも取り上げられ、県においてもそれぞれの関連部署が実現策について検討願うこととしている。

(2)NPOとの共同研究
 NPO山梨情報通信研究所と次に述べるような共同研究を推進した。シンクタンクは、言うまでもないが社会問題を取り扱うことが多い。いわゆるアンケート調査でも、集計できる情報もあれば、自由回答のような情報は適当な処理方法がないこともあり、KJ法的に分類整理しているに過ぎない。そこで、こうしたテキスト(言語)データを数量化法を応用して解析しようという考えから、電通国際情報サービスとNPO山梨情報通信研究所との共同研究を始めた。重要な点は、収集された(顕在的な)データから、いかにして潜在的な情報を発見するかという点にある。研究は2年計画であり、研究成果の一部は、今年9月に米国アイダホ州で開催される第25回品質機能展開国際シンポジウム(ISQFD2019)で研究員が発表する予定である。

(3)トヨタ・モビリティ基金への応募
 県が開催したMaaSに関する講演会で、標記基金が紹介され応募を勧められた。県内において過疎地域の高齢者の交通手段の確保は喫緊の課題となっている。そのため、一時期、自治体が主体となってオンデマンドバスの運行を始めたところもあるが、採算があわずほとんど撤退しているのが実情である。
 こうした問題に対して、昇仙峡地区では赤字を出しながらもコミュニティーバスを運行している。そこで、関係者と意見交換しながら、観光客に対する群流解析を行い、その結果を活用したサービスと路線バスとの接続をはかるなどの工夫をすることにより継続的な運行を可能とする内容の申請を行い採択された。
 このほかにも、採択には至らなかったものの、産業技術センターや大学の研究者などの協力を仰ぎながらいろいろな外部資金を獲得する活動も展開している。

4.おわりに

 これまで、研究員の個人的な力量に支えられてシンクタンクとしての活動を進めてきた。しかし、出向者が多数を占めていることから、優秀な研究員が出向元に戻ることにより、知識、技術、ノウハウなどが失われてしまうという宿命から逃れられないできた。これに対して、組織能力を向上させるための取組を始めることとし、3つの室を設置して活動を進めている。
 まだ、始めたばかりであるが、少しずつ成果が上がってきていると感じている。地方シンクタンクとして、地域の発展に貢献するためにも、研究員がみずからの能力を高めることは不可欠である。今後も、研究員の能力向上とともに、組織としてのマネジメントの体制を整備して、地域から信頼される存在となるべく努力していく考えである。そのためにも、忌憚のないご意見ご要望をお寄せいただくようお願いする次第である。