VOL.106 「33基」


 新元号『令和』の時代が始まる。改元を商機ととらえる企業においては、改元を記念したセールの開催、「令和」の文字が入ったマグカップやTシャツの販売などを始めている。
 この改元をチャンスと捉えているのは、企業だけではない。地方の自治体においても、改元を機に新たな地域振興の取り組みを始めており、新元号の典拠となった万葉集が脚光を浴びていることから、歌碑を巡る企画の開催や情報発信などを行っている。

 万葉集の歌碑は全国各地に建てられており、山梨県内には少なくとも4市町村に計33基あるとのことである。このうち27基は山梨市の万力公園「万葉の森」にあり、松、梅、すみれ、彼岸花など万葉集に歌われた植物が公園内に多く自生していたことから、植物の歌の歌碑が建立され、また歌碑2基がある鳴沢村では、村名が万葉集に由来しているという説があることから、歌碑が建てられたとのことである。
 このように、歌碑が建立されている場所は、必ずしも「歌が詠まれた場所」というわけではなく、豊かな自然の保全、地域の歴史の伝承など、ある意図を込めて歌碑が建てられることもある。
 歌碑以外にも、日本全国には数多くの石碑がいたるところに建立されている。通勤途中や、ちょっと立ち寄った公園などでも、ふと石碑を目にすることがあるが、石碑の内容までは気に留めずに立ち去ってしまうことが多いだろう。

 石碑は、先人たちが何らかの意思や目的をもって碑文を刻んだものであり、その意思に触れることで、新たな発見を得られることも少なくない。古い時代の石碑を見かけたら、ちょっと足を止めて、先人たちの思いに触れてみてはいかがだろうか。

山梨総合研究所 主任研究員 伊藤賢造