自己否定から始めよ
毎日新聞No.540 【令和元年6月7日発行】
数年前、マウンティング女子という言葉が流行った。今はマウンティングおじさんが増えているといわれている。
マウンティングとは、自分を相手より優位に見せようとする主張や行動のことを言うコミュニケーション用語だ。
自分の業績や学歴の自慢。容姿や収入面で相手より自分の方が格上だと見せようとする行為。これらがマウンティングにあたる。
自己否定感よりも自己肯定感が高い方が良いという考え方が心理学にはある。
日本では毎年約2万人の自殺者がいる。政府は各自治体に自殺対策計画の策定を義務付け、山梨県内でも多くの自治体が独自に自殺対策計画を策定し自殺対策に乗り出した。自己肯定感が低くなり、自己否定に陥ってしまうと自殺に結び付くこともある。
しかし自己肯定が過ぎると、これもあまり良くない結果が待っているようだ。
自分をアイドルグループのメンバーだと認識してもらえず、見知らぬ女性に暴力を振るった男。国際問題に発展しかねない戦争発言をした国会議員。これらは自分が有名人や権威ある立場という過剰な自意識、過ぎたる自己肯定感のなせる業ではなかっただろうか。
人は、なまじ「自分はこれほどの人物である」などという意識は持たない方がいい。大切なのは疑問を持つ姿勢だ。自分の現状に満足せず、自分の在り方に常に疑問を持つことが大事だ。すべてにおいて現状が最適なやり方であるということは100%ない。今までと同じやり方では周りが進歩していく分取り残されていく。今のやり方が一番悪いくらいの感覚でちょうどいい。
自己肯定感の大きさと成長の鈍化は比例する。自分の能力や立場を過信したとき、成長は止まる。成長していないことは生きていないことと等価である。
人が成長するには、過度に落ち込まない程度に自己否定の姿勢から始める方が良い。
(山梨総合研究所 主任研究員 小池 映之 )