Vol.252-1 山梨県品質管理研究会 創立50周年を迎えて


山梨県品質管理研究会 事務局(甲府商工会議所)
長沼 恵介

はじめに

 山梨県品質管理研究会は1969年(昭和44年)10月に発足し、今年度で50周年の節目を迎える。当研究会は、風間善樹会長(産業活性化研究所所長、甲府商工会議所名誉議員)のもと、県内各社への品質管理思想の普及、品質管理レベルの向上、品質管理活動の推進等を図り、県内産業の発展に寄与することを目的として、「品質管理に関する研究」、「品質管理に関する啓発活動の展開」、「品質管理に関する研修会・講習会等の開催」等の活動を行っている。
 当研究会の発足経緯については後述するが、その発足には、山梨大学、TDK(株)甲府工場、そして甲府商工会議所が大きく関わっている。そして、設立当初から山梨県品質管理研究会の事務局は商工会議所が担っており、筆者も含めて、これまで当所の職員28名中8名が事務局として携わってきている。

 

山梨県品質管理研究会の設立

 1969年(昭和44年)2月、山梨県商工会議所連合会は関東商工会議所連合会との共催で、商工会議所経営指導員研修会を下部ホテルで開催した。その際、地元講師として赤尾洋二山梨大学工学部応用化学科助教授(当時)より、品質管理のあり方について講演があった。当時、品質管理活動の重要性は理解されつつあったものの、受講者の多くは初めて聞く用語や手法に当惑するばかりで、甲府商工会議所の金丸一課長(現甲府伊奈鋼業(株)会長、山梨県品質管理研究会副会長)もその1人だった。しかし、講演終了後、金丸課長は改めて講演内容について赤尾助教授に尋ねたところ、理解を深める機会となるからということで、同年6月に長野県岡谷市で開催された第41QCサークル大会(甲信大会)に招待された。各サークル発表を聴講し、長野地域の品質管理活動のレベルの高さや活気に圧倒されたことが、本県における品質管理活動の普及に対する動機付けになったそうだ。
 そうした経緯から、赤尾助教授の働きかけもあって金丸課長が事務局長を引き受け、1969年(昭和44年)1030日(木)、甲府商工会議所大ホールにて山梨県品質管理研究会の設立総会が開催された。初代会長は志村文蔵 氏(当時甲府商工会議所専務理事、(株)志村商店社長)が就任し、設立総会では赤尾助教授およびTDK(株)甲府工場赤井信輿工場長の特別講演のほか、TDK(株)甲府工場のQCサークルによる事例発表もあり、設立総会は盛大に開催された。

 高度経済成長期のなかで産声をあげた当研究会は、県内企業の経営者、管理者、作業者など、さまざまな立場で品質管理について学ぼうとする人たちが多く集まり、赤尾助教授や研究室の野田悌一郎助手(当時)のQC手法に関する講義や先進企業の事例発表に熱心に耳を傾け、品質管理の勉強が続けられた。

 

県内初のQCサークル大会実施

 当研究会設立1年後の1970年(昭和45年)3月には、当研究会が中心となって、山梨県で初めてQCサークル大会を開催した。その翌年の1971年(昭和46年)6月には県内で2回目となるQCサークル大会を開催している。なお、3回目以降の、QCサークル大会に関しては、QCサークル活動の導入・推進を目的として1972年(昭和46年)12月に発足したQCサークル関東支部山梨地区に引き継がれており、現在でも「QCサークル山梨地区改善事例チャンピオン大会」として開催されている。QCサークル関東支部山梨地区の発足以降は、当研究会が経営陣や従業員等の品質管理活動やQC活動の教育・普及、そして山梨地区がQCサークル活動の支援というように、役割分担し、車の両輪のごとく本県の品質管理活動の向上のために活動している。なお、このように商工会議所が事務局を引き受けて品質管理活動を推進している例は他地区では見られず、ユニークな活動として全国的にも注目されている。

 

表彰制度の新設、TQC勉強会の設置

 1979年(昭和54年)には山梨県品質管理研究会創立10周年、甲府商工会議所創立70周年を記念して、山梨県品質管理県民大会を1023日(火)、山梨県農業共済会館で開催した。当日は山梨県品質管理研究会の岡島哲之助会長(当時甲府商工会議所副会頭・(株)岡島社長)、商工会議所側からは細田一雄会頭(当時(株)山梨中央銀行頭取)、来賓には望月幸明山梨県知事(当時)、河口親賀甲府市長 (当時)等が出席し、基調講演、招待サークルの発表、また西堀栄三郎博士(元南極観測越冬隊隊長)による「チームワークと人づくり」と題した記念講演などが行われた。参加者は700名を超し、講演や発表に満場の拍手で湧いた。そして、この年より指導奨励のため、特別表彰(特別功労者・功労者)、優秀事業所表彰、模範サークル表彰の部門表彰事業を新たに創設した。
 また、1983年(昭和58年)11月には、山梨県品質管理研究会の中に、「TQCTotal Quality Control:全社的品質管理)勉強会」(現在の「TQMTotal Quality Management:総合的品質管理)研究部会」)が設置された。TQC研究部会では毎月1回、吉澤正山梨大学工学部教授(当時)を中心に、会員事業所の管理者・スタッフ20名ほどが集まり、TQCに関する研究会が行われるようになった。現在は,並木正美氏(元東京エレクトロン())を部会長として,渡辺喜道山梨大学准教授をはじめ多数の有志が定期的に集まって活動を展開している。
 1984年(昭和59年)の樋泉昌起会長(当時(株)山梨中央銀行頭取)の年度には、創立15周年記念事業として、基調講演やテレビ山梨によるテレビ放映など多彩な行事を展開した。
 現在も、品質管理活動の推進や品質管理レベルの向上を通して、県内産業の発展に寄与することを目的に活動しており、創立当時からの地道な取り組みもあって、今年度創立50周年を迎えることとなった。

 

創立40周年記念式典 200912

 

山梨県品質管理研究会の会員数推移

図1 会員事業所数の推移

 

 データが残っている1971年(昭和46年、会員数48事業所)以降の会員事業所数をみると、「ジャパン・アズ・ナンバーワン(著:社会学者エズラ・ヴォーゲル、戦後の日本経済の高度経済成長の要因を分析し、日本的経営を高く評価した書籍)」が世界的ベストセラーになり、高品質な日本の製品が世界的に注目を受け始めたことも追い風となって、1982年(昭和57年)には104事業所となった。
 1991年(平成3年)にはバブル経済崩壊という逆風もあったが、made in JAPAN製品が世界をリードするのと比例するように会員は拡大し、1995年(平成7年)には260事業所となった。
 その後、長期的な景気後退や、それに伴う日本的経営の見直しもあって、会員数はゆるやかに減少し、2018年(平成30年)には92事業所となり、最盛期の3分の1程度となっている。近年の退会理由をみると、「活動に参加できないため」という回答が最も多い。しかし、「工場内でのみQC活動を行うことになった」、「本社の品質管理部署が一元的に管理することになった」等の理由も目立ってきており、企業の品質管理活動が内向きになりつつあることが窺える。
 一方で、当研究会にご尽力いただいた故吉澤正筑波大学名誉教授が初代運営委員長を務めた品質管理検定については、受検者数は増加の一途をたどっており、当研究会でもQC検定3級試験対策講座、品質管理基礎セミナー(QC検定4級試験対策講座)を実施しており、当研究会の会員、非会員を問わず、多くの方が受講している。

 

QC検定(品質管理検定) 申込者数、受検者数

図2 QC検定申込者数、受検者数の推移((一財)日本規格協会より)
11回は東日本大震災の影響もあって、中止

 

 QC検定の申込者数および受検者数の推移をみると、第1回(申込者数:3,959人、受検者数:3,601人)であったものの、第2回(申込者数:10,858人、受検者数:9,985人)には申込者数が1万人を超え、第27回(申込者数:69,569人、受検者数:59,458人)には申込者数は7万人に、累計受検者数は100万人に迫る勢いである。

 

図3 第27QC検定 各級申込者数((一財)日本規格協会より)

 

 また、(一財)日本規格協会のHPによれば、各級申込者数はQC検定3級の受検者が最も多く、次いで2級の受検者が多いことがわかる。
 なお、3級の対象は「QC七つ道具などの個別の手法を理解している方々、小集団活動などでメンバーとして活動をしている方々、大学生、高専生、工業高校生」、2級の対象は「QC七つ道具などを使って品質に関わる問題を解決することを自らできることが求められる方々、小集団活動などでリーダー的な役割を担っており、改善活動をリードしている方々」である。
 これらのことから、QC検定試験は品質管理活動の基本となる知識を客観的に評価する制度であるため、企業が人材教育の一環として重宝されていることが窺える。なお、現在のQC検定試験運営委員会委員長は新藤久和山梨大学名誉教授((公財)山梨総合研究所理事長)であり、山梨に縁のあることから,今後ますますの受検者の増加が期待される。

 

おわりに

 企業の品質管理は内向き傾向となっている反面、企業が必要とする人材像では品質管理についての知識が重要とされている。たしかに、QC検定試験の受験を奨励したり、品質管理部署による一元的な管理等を行ったりすることにより、基本的な知識や品質管理に対する意識を高めることはできる。
 一方で、「刺激」という意味では如何だろうか。自社での品質管理活動を進めるだけで、同業者や全く違う分野で活躍する同年代の方々と悩みを共有し、品質向上という同じ目標に向かって共に活動することができるだろうか。他のサークル発表を聞いたり、先進的な事例を学んだりするなかで、自社に落とし込めることはないか模索することが重要であると考える。不易流行という言葉があるが、他から刺激を受けるという点は「不易」でなければならない。今後も、山梨県品質管理研究会はQCサークル関東支部山梨地区と連携・協働するなかで、事務局としても、常に刺激を発信していきたい。