Vol.252-2 自治会を考える
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 渡邉 たま緒
はじめに
少子高齢化、人口減少により、地域の担い手不足が深刻化している。それは自治会(町内会)活動にも及んでおり、加入者が減り、運営自体が危ぶまれる地域もある。計画策定支援等を行っている山梨総合研究所の主任研究員として、各種の審議会へ出席するが、近年、計画内で提示される「協働」による住民の役割について、住民の代表者から、地域組織の弱体化により、協力を不安視する声が多く挙がるのを目の当たりにしている。
一方で、行政も人材不足や分権等により、住民の協力なしでは、住民自治、地域サービスが難しい状況となっている。
自治会が弱体化している中、行政からは協力要請が増えている状態をどうしたら打破できるのか。筆者は今後2年間かけて研究していく予定であるが、ここでは、自治会やその下部組織となる組(区)の現状について述べてみたい。
自治会とは
ここで自治会の定義について確認しておきたい。
自治会は「町又は区域その他市町村の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体(自治会、町内会、部落会、区会、区など)」(総務省)である。
住民がその地に暮らす近隣同士で助け合う組織は、定義こそされていないものの、古く昔から存在していた。それを国の体制として定義した(組み込んだ)のが昭和15年の「部落会町内整備要領」(内務省訓令第17号)である。戦時下の発令は、相互共助の自治組織としてではなく、国策遂行のための政府機関の下部組織としての役割が色濃く現れた。戦後、昭和22年5月には国の政令により、一度はすべて解散させられたものの、生活維持や安全面等の維持、行政も住民協力が必要であったために、解散後も時を待たずに多くの自治会が再建されたという。
昭和15年の国の要領で提示された目的は以下のとおりとなる。
第一 目的 |
筆者が解釈すると、1.近隣が団結し、地方共同で取り組むこと、2.道徳的練成と精神的団結を図る組織とすること、3.国策を広く知らしめ、円滑に運用するようにすること、4.地域を単位とした経済的な活動ができるようにすること、となるだろうか。
また、この要領では、第二として組織について言及し、名称を適宜決めること、地域的な組織とするとともに、市町村の補助的組織とすることなど13に及ぶ組織内容が設定されている。
現存するすべての自治会がこれに則り組織されたとはいえないものの、多くがこれに近い形で組織されていったのではないだろうか。
ちなみに、甲府市の「自治会のしおり」に明記されている「自治会の役割」を見ると、やや趣きを変えながらも、類似したことが書かれているのが分かる。
自治会の役割 1 地域住民の連帯と親睦の場 2 地域課題の発見と解決の場 3 行政との関係 (甲府市自治会のしおりより) |
また、その役割によるメリットとしては、
1 広報誌をはじめとする各種お知らせにより、ゴミの収集日、集積場所、分別収集等、生活に欠かせない情報をはじめ、イべント、文化祭等様々な情報伝達が行われます。また、行政側からの一方的な情報伝達のみならす、地区や地域の要望・意見をとりまとめ、自治会を通じて行政側ヘ伝達し実現を図っていきます。 2 地域社会において、楽しくより心豊かに生活するには、近隣の皆様との連携・協調を図ることは、大変重要なことです。各自治会では、行政サービスでは出来ないことを地域行事として実施し、地域の方とのふれあいを深めております。 3 道路、交通、環境、防犯及び防災など個人では解決しにくい諸問題が、自治会活動を通じることにより、地域課題として自主的に解決が図れます。 (甲府市 自治会のしおりより) |
としている。
自治会の解散
今年、5月30日、甲府市の中心部にあった桜北自治会が解散した。
もとより高齢化による組織の弱体化が目立つ地域であったが、甲府城周辺整備計画に伴い、18軒が街からの移転を余儀なくされ、残された住宅31軒の半数以上を高齢者世帯で占めることとなったことがきっかけだった。
これまでも、自治会の下部組織にあたる組の役員を担う人もおらず、組長は何年も同じ人が務めていた。また、市の中心部の最東部に位置し、災害時の避難場所である甲府市立舞鶴小学校までは1km近く離れているが、成人の足でも約15分程度かかる場所へ高齢者が災害時に辿り着けるのかといった不安や、地区の運動会等のイベントなど、自治会費から出す負担金だけが増え、参加者がいないことなども疑問視された。
「5年後の自治会組織維持も難しい」。
同自治会は、昨年1月、住民に今後の自治会存続の是非を問うアンケートを実施した。住宅31軒、店舗等27軒の計58軒のうち、回答があった51軒から出された答えは、「解散」(94.1%)だった。5月30日、総会での賛成多数の決議を経て、自治会が1つ消滅した。
自治会解散が決議された桜北自治会総会 令和元年5月30日 筆者撮影
高齢化と核家族化の進行
高齢化による担い手不足は、前述の解散した甲府市の自治会だけに限ったことではない。
福井県では、福井市内にある2つの自治会が昨年末と今年初めに解散の道を歩んでいる。解散の理由としては、それぞれの自治会ともに自治会連合会から割り振られる役職を務める負担が重くのしかかったため、と見られている。
出典:内閣府「平成29年度版 高齢社会白書
全国の高齢化率を見ると、平成2年は12.1%だったが平成27年には26.6%と、2倍以上まで増加している。
また、1世帯あたりの平均世帯人員は年々減少しており、核家族化が進行していることが分かる。これは、「世帯」を単位として加入する自治会において、世帯における1人当たりの役割の増加を意味し、負担増の背景ともなっている。
出典:昭和60年以前は厚生省大臣官房統計情報部「厚生行政基礎調査」
昭和61年以降は厚生労働省政策統括官付世帯統計室「国民生活基礎調査」
甲府市の自治会加入率の推移
甲府市の自治会加入率の推移を見ると、世帯人員が少なくなるいわゆる核家族化の増加と呼応するように、自治会加入率は減少している。平成12年に自治会連合会発足後初めて90.0%を割って以降、加入率は減り続けており、近年では、とうとう70%台まで落ち込んだ。世帯を単位とする自治会の担い手不足を加速させる結果となった。
出典:甲府市自治会連合会
自治会は必要か
人口・世帯の変化に加え、ライフスタイルの変化も加入者減の原因の一つである。車社会で、コンビニは自宅の近くにあり、SNSで世界中の誰とでもつながることができる現在、近隣住民と共に助け合う機会は大幅に減少している。弔事は葬儀会社が全て取り仕切り、子どものための行事は少子化の影響でイベントに来る子ども自体が少なくなっている。筆者も昨年、育成会の役員、体協の役員、今年は愛育会の役員が「順番」で回ってきており、「役割」を遂行しているものの、育成会のイベントでは参加する子ども数人に対して、何十人もの「役員」が、大汗をかきながら準備をしたことが記憶に新しい。体協にしても、イベントの参加者が少なく、家族総動員で人数合わせをしたり、地区運動会は競技者より応援参加の高齢者の方が多く、お茶等の接待で1日が終わったりしていた。
敬老の日の祝会は、会場となる公民館まで来られず祝ってもらうことができない高齢者が多くなっており、不公平感が生じ、そもそも開催自体が必要なのか、といった議論がなされた。
また、過去に制定された要領に則ってか、甲府市ではビン・缶・ペットボトルを仕分けする「有価物回収」が実施されており、集団回収運動に対して市から報償金が交付される「経済活動」を実施しているため、各組が当番で仕分けの手伝いを割り当てられる。しかし、高齢により、手伝いに出られない人が多い上に、奉仕できる人も出勤前の早朝作業で、参加者数は減少し、一人の負担が増えているうえに、その収入の使い道が十分に周知されているかと問われれば、その実態は年に一度の総会の中で一覧表にて報告されるに過ぎないのが事実だ。
近年ではスーパーでの回収も多く、自治会収入に意義を見出さなければ、そちらで十分事足りる。
年に一度、大規模に行われる市の防災訓練についても、市から自治会へ参加人数を指定され、自治会の下部組織となる各組の組長が、参加の呼びかけに奔走する姿が毎年のように見られる。
我が家では、避難所や地震が起きた際の子どもの迎えを両親どちらにするか、災害伝言ダイヤルの掛け方、保存食などを防災の日を契機に確認するものの、自治会の住民同士で避難について話し合ったことは記憶にない。
これだけ考えても、特に自治会として活動しなくても十分であり、不要論が浮上するのも、また、実際に解散するのもうなずける。
新たな自治会組織のあり方とは
しかし、これは、自治会を「役割」から考えたシステム化された視点である。要領が国から出されるよりももっと以前の、地域のつながりから来る「共助」の視点で考えてみた場合、不要と言ってしまってよいのだろうか。
私たちは、2014年2月に起きた大雪の際、近隣の住民たちと助け合うことがどれだけ大事だったかを痛感している。土、日曜日に役割でもなく、形式でもなく、それぞれが自発的に集まり、雪かきをした。自治会に加入していない高齢者夫婦の家の前も、子どもたちの通学路も、誰からともなく集まり、皆で黙々と雪をかいた。一人であれば、家の前すら除雪が終わらず、週明けに職場へ出勤すらできなかっただろう。その道すがら、幹線道路より住宅前のほうがきれいに雪がかかれている光景をあちらこちらで見かけた。これが本来の「地域の姿」なのではないか。また、何日も要した除雪作業の中で、ご近所同士で話をする機会も得た。普段は仕事の時間の違い等でほとんど会えないご近所さんとも交流し、近所の人に見守られながら、子どもたちが大雪で遊ぶ姿も久々に見た。
前述した甲府市中心部で解散となった桜北自治会は、桜北会という住民組織を有志で立ち上げた。自治会費は徴収せず、ボランティアで広報を配布し、自主防災組織をつくり、高齢者でも行きやすい所を第1避難場所として、独自に設定した。
「協働」は市の下請けをすることではない。自治会は役割を担う組織ではない。そんな声が漏れ聞こえてきそうだ。
社会構造の変化、国際化、ライフスタイルの変化、少子高齢化の深刻な進行、SNSの発達による「つながる」という言葉の定義の変化等、さまざまなものが大きく変わっている今だからこそ、自治会は、はるか昔に自然発生的にできた「共助」を目的とした「地縁組織」に立ち戻り、本来の地域の自治機能を発揮すべき時なのかもしれない。
それには、個人の想い・要望、地域の価値、実施主体等、検討課題は山積している。今後はこれらについて最適案があるのか検討するとともに、NPOやボランティア団体と地縁組織のマッチングについて考えていきたい。