水の可能性を考える
毎日新聞No.545 【令和元年8月16日発行】
まだまだ暑さが厳しいこの季節、子どもたちが水辺で遊ぶ光景が羨ましく、水辺の風景は私の心を惹きつける。
近頃、水遊びについては、子どもだけのものではなく、子どもから大人まで楽しめるウォーターフェスティバルが各地で開催され、水と音楽、水と食、水とランニングなど水と様々な催しを掛け合わせて、多くの人を巻き込みながら参加者を魅了している。
この暑い季節に人々を魅了する水は、生物にとってその生命を維持する上で欠かすことの出来ない要素であり、水がなければ生命の誕生もなかった。人も体内には遠い昔に生まれ育った海の環境を宿し、人体の組織は年齢にもよるが、約6割が水分であり、体液の組成と濃度は、太古の海水のそれに近い状態に保たれているといわれている。水分は人の生命活動に必要不可欠なものであり、体内水分のバランスが失われ脱水症状になると命に関わるような重篤な状態に陥ることがあり、今の季節には特に注意が必要である。
人の生命活動に必須である水に関して本県においては、先人が大変な苦労をして、その対応にあたってきた。甲斐の虎、武田信玄が大雨により氾濫を繰り返す釜無川の治水対策で施工した信玄堤、水争いをしていた三方の村々に農業用水を等配分するために工夫された北杜市の三分一湧水。人々は、大きな恵みを与えてくれる水に感謝しながら、時に甚大な被害を与える水と寄り添い、知恵を絞り生活してきた。
近年では、雄大な山々、自然環境に支えられ、「天然の水がめ」と呼ばれる山梨県のミネラルウォーターの全国出荷シェアは、約4割と日本一であり、日本中で多くの人々の喉を潤している。
さらに水は、観光資源としても優秀である。国指定の天然記念物であり、また世界遺産である富士山の構成資産の一部として登録されている忍野八海をはじめとする水に係る観光地に国内外から多くの観光客が訪れている。
生命を育み、郷土の先人が知恵を絞り寄り添いながら過ごし、そしてたくさんの人々を惹き付け、さらに現代の経済活動に欠かせない水。その恩恵を再確認し感謝の気持ちを忘れずに、山梨県民の財産である水の持つさらなる可能性について考えていきたい。
(山梨総合研究所 研究員 河野彰夫)