コーディネーターとしての役割


毎日新聞No.546 【令和元年8月30日発行】

 先日、シンクタンク数団体が集まる会議に出席する機会があった。担当者同士で名刺交換をしていた際、いただいた名刺に目が留まった。あるシンクタンクの方の肩書が、“研究コーディネーター”となっていたのである。“○○研究員”といった肩書を使用するシンクタンクが多いなか、“研究コーディネーター”という肩書にしている背景を知りたくなり、尋ねてみた。
 そのシンクタンクでは、企業や団体、自治体、大学など複数の機関と共同して研究や業務を行うことが多く、シンクタンクの研究員は、そのコーディネートが主な業務となるため、そうした肩書を使用しているとのことであった。
 近年、大学などにおいても、研究活動活性化のため、研究活動を総合的にマネジメントできる人材(リサーチ・アドミニストレーター:URA)の整備が進められているそうだ。

 この数日前に聴講した講演会での話を思い出した。
 「川崎モデル」についての話である。
 川崎市では、大企業や研究機関が保有する開放特許(権利譲渡又は実施許諾の用意がある特許)などの知的財産を中小企業に紹介し、中小企業の製品開発や技術力の高度化・高付加価値化を支援する「川崎市知的財産交流事業」を中心とした「川崎モデル」と称される事業を行っている。
 この事業では、市や公益財団法人川崎市産業振興財団の職員やコーディネーターが、大企業と中小企業とをつなぐ仲介役として、重要な役割を果たしているという。
 中小企業において、知的財産を製品開発に結びつけ、販路を開拓し、そのための資金調達をすることに困難が伴うことは想像に難くないが、川崎市では、市や川崎市産業振興財団の職員とコーディネーターが、何度も現場に足を運び、経営者の思いに寄り添い、経営内容や課題を理解したうえで、適切な支援を行うことで、着実に実績を積み上げているという。
 この取り組みは、静岡県富士宮市や島根県益田市など、他の地域へも展開され始めている。

 社会環境が変化するなか、地域の活性化に資するため、シンクタンクや自治体に求められるコーディネーターとしての役割について、改めて考えてみたい。

(山梨総合研究所  主任研究員 小林雄樹