ワイン県として産地を守ろう
毎日新聞No.547 【令和元年9月14日発行】
山梨県は8月7日にワイン県宣言を行った。山梨県は、日本のワイン生産発祥の地である。約140年前に甲州市勝沼町在住の高野正誠、土屋龍憲の両青年が海外に留学をして、苦学の末に日本に醸造技術を持ち帰ったのが始まりとされる。こうした経緯もあり国産ぶどうを原材料とした日本ワインの生産量、ワイナリー数において、山梨県は全国第一位となっている。近年、長野県や北海道などでも国産ワインの生産を推進していており、ライバル産地が多く出現してきた。しかし、山梨県こそが長崎幸太郎知事曰く「名実ともに日本一のワインの産地」であることは間違いなく、これら地域との差別化をはかるためには、ワイン県というストレートな物言いによるPRには大いに期待したい。
しかし、今、山梨県の国産ワインはピンチを迎えている。
山梨県を代表する甲州ワインの原料である醸造用甲州種ぶどうの生産量が激減している。栽培農家の高齢化、近年のシャインマスカット、ピオーネ等の生食用ぶどうの人気の高まりもあり、醸造用甲州種ぶどうの生産量は、右肩下がりで減少を続けていてピーク時の半数以下にまで落ち込んでいる。
山梨県では、醸造用ぶどう農家の育成事業を強化している。しかし、ぶどうの新規就農者が栽培品種を選ぶ時に、1キロあたり数百円の醸造用甲州種ぶどうとその数倍の価格にもなるシャインマスカットとでどちらを選ぶかは、栽培にかかる多様な要因を考えても想定できることではなかろうか。
労働時間の短縮や収量増加等などを含め、栽培農家が生食用ぶどうではなく醸造用甲州種ぶどうを選択できる素地を作り出すための取り組みが必要だ。ワイン生産地として今後とも維持していくには、短期的視点ではない中長期の視点が大事となってくる。
ワイン県を名乗る今こそ、ワイン生産の歴史・文化・ロマン・プライドの醸成とともに、醸造用甲州種ぶどうの生産量増大に向けた取り組みを加速させるチャンスである。
(山梨総合研究所 上席研究員 古屋 亮)