VOL.111 「三十六景」


 「冨嶽三十六景」を描いた葛飾北斎といえば、日本を代表する浮世絵師である。世界的にも著名な画家であり、19世紀後半に起こった美術現象である「ジャポニズム」において多大な影響を与えた人物である。北斎の表現技法は印象派のゴッホを始めとする多くの画家に取り入れられ、さらに工芸家、音楽家にも影響を与えている。
 その世界的な影響力からアメリカの雑誌「ライフ」において1998年に「この1000年でもっとも偉大な業績を残した100人」として、日本人でただ一人選ばれている。 

 葛飾北斎は、90年の生涯に数多くの作品を描いており、代表的な作品には「冨嶽三十六景」や「北斎漫画」などがある。「冨嶽三十六景」については、富士山が見える各地の風景を描いた名所浮世絵であり、絵は当初、36図で完結するはずであったが、売れ行きがとても良かったため、10図追加して合計46図という構成で完結している。
 この「冨嶽三十六景」には、甲斐の国の風景を描いた「甲州石班澤」「甲州三坂水面」「甲州犬目峠」「甲州三嶌越」「甲州伊沢暁」「身延川裏不二」の6図が含まれており、富士山とともにある山梨県の風景を捉えて描いている。 

 この「冨嶽三十六景」が2020年東京オリンピック・パラリンピックにあわせる形で2019年度中に導入を目指している次期パスポートの基本デザインとして決定された。「日本的なデザイン」をコンセプトとして「冨嶽三十六景」のうち24図が採用され、県内を描いた「甲州石班澤」「甲州三坂水面」「甲州犬目峠」「甲州三嶌越」がこれに含まれている。

 世界的な画家である葛飾北斎が描いた我々のふるさと山梨の風景が、世界中の人々の目に留まる機会が増えたことは、とても誇らしく感じる。
 これを機に三十六景に描かれている各地とネットワークを結び、多くの人が富士山を中心とした、これらの地を周遊できる環境が整備されていくことを期待したい。

山梨総合研究所 研究員 河野彰夫