地域医療と向き合う
毎日新聞No.551 【令和元年11月8日発行】
厚生労働省は9月26日に、県内7病院を含む全国の一部の病院に対し、再編や統合、病床の見直し等の検討が必要だと公表した。この発表は医療関係者や通院している患者、管理している自治体等に大きな衝撃を与えた。たしかに自分が通っている病院が統合等でなくなってしまえば、遠方の病院に行かなければならず、死活問題となる可能性がある。ただ、この指摘は、すでに平成25年度に各都道府県が策定した「地域医療構想」に基づき議論が進められているべき事項であった。各自治体の取り組みが進捗しないため、踏み込んだ議論を期待し、具体的な病院名を公表するに至ったようだ。
たしかに高齢化に伴い医療費が増加する一方、公立病院の中には病床利用率が低く、大きな赤字を計上し、管理している自治体がその赤字を補填しているといった状況もある。今後地域医療を存続させるためにも、この問題と正面から向き合う必要がある。
こうした中、山梨市では地域医療の存続のために先進的な取り組みを進めている。山梨市では、山梨市立牧丘病院が今回発表された病院に含まれているが、かねてより、この牧丘病院を拠点とし、地域の在宅医療と介護事業者の連携を進め、地域包括ケアシステムの基盤を構築してきた。特に在宅医療の中心である訪問診療の体制は日本でも稀有なものとなっており、この訪問診療体制の整備を進めることで、慢性期の患者を在宅で治療可能とし、医療費の抑制にもつながっている。また訪問診療の増加により病床利用率が低下したため、住民の声を取り入れながらも、医療資源の再配置を目的とした病床数の見直しも進めており、厚生労働省の描く地域医療体制に合致した取り組みとなっている。
山梨市の事例は長い年月をかけて行われてきたものであり、他の自治体や病院において、すぐに同様の仕組みを構築するのは難しい。ただ、高齢化や医療費の増加は刻一刻と進んでおり、待ったなしの状況となっている。それぞれの地域で様々な事情があると思うが、今回の報道をきっかけに関係者全員でこの問題に正面から向き合い、今後の対応を考えていかなければならない。
(山梨総合研究所 研究員 小澤陽介)