Vol.256-1 山梨の地酒 世界に発信


甲府商工会議所 産業振興観光課 課長補佐 渡井賢一

 

1. はじめに

 日本酒は日本が世界に誇る大切な文化である。私たちの住む山梨は四方を高い山に囲まれ、そこから滲み出す天然水はミネラルを多く含んでおり、日本酒を醸すのに非常に適した水質となっている。この山紫水明の地において醸される日本酒をもっと多くの人に味わってもらいたい。山梨で日本酒を醸す人たちは皆、そう願っている。
 一方で、山梨には全国一の生産量を誇る葡萄とその葡萄を使ったワインがあり、「山梨はワインの産地」というイメージが確立されている。最近も県知事から「山梨ワイン県宣言」が発表され、「山梨はワイン」というイメージが一層強くなっている。
 そのため、数多くの銘酒を持ちながら、「山梨の日本酒」の知名度が今一つという状況となっている。
 そのような背景において、産出量、品質ともに世界に誇れる山梨の地域資源「ミネラルウォーター」と、山梨県産の酒米を原材料にした純米酒をアピールし、「山梨の日本酒」のイメージを消費者に分かりやすく伝え、浸透させることにより、山梨の日本酒ブランドを確立し、さらに全国および海外に向けて展開していくことが求められるようになってきた。
 本稿では、「『山梨の地酒』東南アジア輸出プロジェクト委員会」の取り組みを通して、海外ならびに全国への「山梨の日本酒」展開事業の取り組みと成果について紹介したい。

山梨の地酒

 

2.これまでの活動について

 山梨の日本酒の海外展開に際しては、かねてより県内醸造メーカー各社がそれぞれ単独で模索していたが、個々の取り組みでは手続きの面や資金面で難しい状況となっていた。
 そうした中、2014年に山梨銘醸の北原会長(現会長)の呼びかけで山梨の日本酒を海外に展開するべく「『山梨の地酒』東南アジア輸出プロジェクト委員会」が立ち上げられ、これから大幅な経済発展が見込まれる東南アジア地域、特にベトナムをターゲットとして各種プロモーションを展開することとなった。
 委員会のメンバーは、山梨県内の主要な酒造メーカーの代表者で構成され、初代委員長は山梨銘醸の北原会長(当時は社長)、昨年度より委員長は大冠酒造の大澤慶暢社長に務めていただくこととなった。
 甲府商工会議所は、委員会とサポーター契約を結び、私は甲府商工会議所の日本酒業界担当という立場で、委員会のサポーターを務めることとなった。
 事業開始当初は、ベトナム国内に今ほど日本酒が入ってきておらず、当時はホーチミン市内で最大級の寿司チェーン「THE SUSHIBAR」との連携もあり、順調に売り上げが伸びていった。ところが、ベトナムの急成長は国内消費の低迷に悩む多くの酒蔵の目に留まり、瞬く間に国内の多くの酒蔵がベトナムに進出することになった。
 まずは大手酒造メーカーが挙(こぞ)ってベトナムに進出したため、価格競争が始まり、次いで全国各地の地酒メーカーの進出が始まったため、商品の差別化が求められるようになってきた。
 ご存じのように山梨は四方を高い山に囲まれた緑豊かなところ。またその高い山に積もった雪に源を発する伏流水は豊富なミネラルを含み、今や国内のミネラルウォーター国内シェア4割を占め、その産出量日本一であることからも日本一の名水の里であることがうかがい知れる。この日本一のミネラルウォーターとやはり日照時間日本一の太陽の恵みを得て育てられた米。その水と米、2つの要素で醸したのが山梨の純米酒である。であれば差別化のテーマは「水」ということでこれを強調していくことになった。
 そしてもう一つ、他地域との差別化は「グループ化」。他地域ではほとんどが地酒メーカーが単独で奮闘しているが、山梨県では北原会長が「各蔵と連携して海外展開を行う」としたため、水系の違う各蔵の商品が一つのグループとして店頭に並ぶことになったことだ。とはいえ、当初は共通の旗印もない状態が続いていた。しかし、時同じくして、山梨県でも「天に選ばれし名水の地。山梨」をキャッチコピーに、水のキャンペーンを行っていただいたため、方向性の確認も取れた形となった。

 平成30年、これらをブランド化するため、甲府商工会議所は日本商工会議所を介す形で全国展開∞プロジェクト補助金を活用し、現地調査等を行った上で展開を検討することになった。ここで先行した山梨銘醸、太冠酒造、笹一酒造、八巻酒造店に加え、新たに、谷櫻酒造、萬屋醸造店、井出醸造店の3社がプロジェクトに加わることになった。またこれまでのような酒蔵の代表者のみではなく、行政や学識経験者、シンクタンク代表を加えた委員会を設置して事業に取り組んでいくことにした。

 

 本事業では、ベトナム現地(ハノイ・ホーチミン)に赴き、ベトナムの一般消費者を対象に、山梨や日本酒に関するアンケート調査を行い、ベトナム人の飲酒傾向や日本酒へのイメージなどの調査を行った。
 調査においては、以下のような調査結果を得ることができた。

  1. ベトナム人はきれいな水を摂取する意識は高く、日本では水道の水が飲めるということは知っているが、山梨が名水の産地だという認識はない。
  2. ベトナム人の30%以上が日常的な飲酒習慣がある。
  3. ベトナム人の酒類の嗜好としては、約6割の人がビールを好み、以下ベトナム焼酎を好む人が17%、ワインを好む人が14%であった。日本酒を好む人は0.5%程度で、日本酒を日常的に飲んでいる人はほぼいない状況である。
  4. 9割の人が少なくとも1回は日本酒を口にしたことがある。
  5. 日本酒を飲んだ感想については「美味しくない」と答えた人は4.8%、「ベトナム料理に合わない」と答えた人は4.3%にとどまり、概ね良好な反応であった。

 調査の結果、ベトナム人の嗜好について、今まで知られていなかったさまざまなことを知ることができ、日本酒については良好なイメージを持っていることも分かった。

 併せて、山梨大学、山梨県立大学、山梨学院大学(それぞれ2~4年生を対象)において、県内醸造メーカー7社の純米酒の試飲と日本酒に関するアンケート調査を行い、実際に若者たちが抱く「日本酒のイメージ」についての実態把握を行うとともに、今後のイメージアップ戦略や、若者・女性に受け入れられる日本酒像について情報収集を行った。
 アンケートによって得られた調査結果は、以下のとおりである。

  1. 大学生のほとんどがアルコール類を口にした経験があり、約25%の学生が週に数回の割合で飲酒している。
  2. 飲酒する酒類については、「カクテル」(22.7%)、「ビール」(21.8%)、「梅酒」(15.1%)、「ウイスキー」(10.5%)、「焼酎」(10.0%)、「日本酒」(9.8%)、「ワイン」(8.3%)となっており、「カクテル」や「梅酒」など、比較的甘い味のものを好む傾向となっている。
  3. 大学の先輩や友人と居酒屋で飲む機会が非常に多く、年配者と飲む機会は少ない。そのため、飲酒のマナーや料理との合わせ方、日本酒の種類などを学ぶ機会が少ない。
  4. 女子学生は、アルコール類を購入するときにアルコール度数を気にする傾向があり、あまりアルコール度数の強くないものを選ぶ傾向がある。
  5. アルコール自体には抵抗が少なく、約6割の学生が「酒を好む」と回答している。一方で、日本酒については、全体で35%、女子学生については約50%が口にした経験がなく、「好き」よりも「嫌い」との回答が多くなっている。総じて女子学生には好まれていないという結果となった。

 このような調査結果に基づき、平成31年度(令和元年度)は、山梨の名水を使用した純米酒のブランド化を図るため、ブランド名を「やまなし名水純米酒」とし、その旗印となるイメージマークの試作、そのイメージマークをネックチーフとして立体化し、9月に東京ビッグサイトで開催されたグルメ&ダイニングスタイルショーに出品してそのPRと来場者からの意見を伺った。
 また、海外展開の分野では、来年4月から本格化させる予定の参加全社によるベトナムでのブランド化に向け、商品PRとイメージマークの記載ロゴの最終意見収集を行った。今回は記載ロゴを日本語版と英語版の2種類を用意し展示した。英語版については確かに誰にもわかりやすいが、日本の商品を強調するために日本語版のほうがふさわしいという意見が大多数であったことから、イメージマークは日本語版を採用することになった。

 

3.まとめ

 山梨は名水の里であり、名水百選に選ばれた源水が7つも存在している。その名水で醸された山梨の日本酒の味わいは、全国にそして世界に、誇ることのできる大いなる県産品である。全国、ひいては世界に向けて日本酒の魅力を発信することで、山梨の日本酒産業の振興を図ることは可能であろうと考えている。合わせて、山梨という地が持つ魅力を伝え、実際に山梨に来て、山梨を感じて、そして山梨の日本酒を味わってほしいと思う。
 山梨の日本酒の振興を図ることは、ひいては、山梨の食文化や観光地の魅力を発信することにつながる。山梨の魅力を全国また世界に伝え、山梨全体の賑わい創出につなげていきたいと心から願う。

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