VOL.113 「2,000万円」
一時期、様々なメディアで金融庁が6月初めに公表した「高齢社会における試算形成・管理」の報告書が取り上げられ、問題となった。簡単に要約すると、「老後65歳から95歳まで夫婦で暮らすと、年金だけでは約2,000万円不足するので、若い時から投資等を活用して貯蓄を推奨する」といった内容だ。確かに省庁から具体的な金額を提示して貯蓄を推奨するというのは非常にインパクトがあり、6月16日には今後の年金への対応を求めたデモまで開催された。筆者も最初はこの報道に驚いたが、報告書の内容を見て、この「老後までに2,000万円貯蓄」ということが一人歩きしていると感じた。
そもそもこの報告書では、65歳以降の年金の受け取り額を世帯で月額約19万円としている。では、自分の毎月の世帯支出が何万円なのか把握している人々はどれくらいいるのだろうか。この報告書によれば、2000万円の貯蓄というのは月の生活費の不足額に充当することとしているため、極端な話、月の世帯支出額が19万円以下であれば、2,000万円の貯蓄は必要ないことになる。
最終的に述べたいことは、老後に必要な貯蓄を考える前に、まず毎月いくらの収入があって、支出がいくらなのかを把握することが先ではないかということである。毎月の収支を把握する前に、老後に2,000万円が必ず必要だという考えは、飛躍し過ぎていると思う。もし毎月の支出が19万円を超えるようであれば、次の段階として、それに応じて自分の老後に必要な貯蓄額を考える。もし貯蓄が難しいようであれば、支出を見直すことも必要だと思う。ぜひこの一連の報道によって一方的に、「老後までに2,000万円貯蓄」と考えるのでなく、自分の収支状況やライフプランを考える人が増えてほしいと思う。
山梨総合研究所 研究員 小澤陽介