Vol.257-2 これからのふるさと納税
公益財団法人 山梨総合研究所
研究員 河野彰夫
今年も残すところわずかとなり、そろそろ令和最初の年末、また新年を迎える準備も大詰めの時期となってきた。当然であるが、この時期は一年を締めくくる上で様々なことのやり残しがないか確認が必要となる。その1つとして、ふるさと納税があるのではないだろうか。地域の特産物などの返礼品をあれやこれやと選ぶことは、とてもワクワクするものである。今や広く認知されたふるさと納税であるが、令和元年の寄附金控除を受けるには、寄附をした自治体から発行される受領証明書に記載されている受領日が12月31日までのものとなる。これを過ぎてしまうと、翌年の控除となってしまうため注意が必要である。
本稿では、ふるさと納税が人口減少を克服し、将来にわたって成長力を維持する地方創生の切り札の一つとして役割を担っていることを踏まえ、これからのふるさと納税について考察していく。
1.ふるさと納税の現状
ふるさと納税については、高額返礼品の問題や自治体によっては個人住民税の減収が発生するなど、諸問題を抱えながらも、「ふるさと納税で日本を元気に」の理念のもと、地方創生の切り札の一つとして、平成21年度の導入以後いくつかの制度改正を踏まえながらその寄附金額を伸ばしてきている。
(1)全国における受入の状況
受入金額については、平成27年度税制改正において手続きの簡素化のための「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が創設されたこと及びふるさと納税の控除が約2倍に拡充されたことにより、改正前の受入金額を大きく上回っている。全国においては、平成30年度の寄附金総額が5千億円を超え、ふるさと納税初年度の平成20年度から約70倍と大幅に増加している。
(2)山梨県における受入の状況
山梨県の状況を見てみると、平成30年度における寄附件数は299,017件、寄附金額は約60億円と、金額では前年度比で約1.37倍となっており、都道府県順位では平成29年度の24位から平成30年度は18位と6つ順位を上げている。
山梨県内の自治体の状況を見てみると、10億円以上の寄附を受けているは1自治体、5億以上10億円未満が3自治体、1億円以上5億円未満が7自治体と1億円以上の寄附金額を受け入れている自治体が全体の4割強となっている。
また、自治体ごとの寄附金額と件数は次のようになっている。富士吉田市が最も多く寄附を受け入れており、寄附件数は72,498件、寄附金額は2,283,641千円、1件あたりの平均寄附金額は、約31,500円となっている。

(3)ふるさと納税の理念と課題
寄附金額を大きく伸ばしてきているふるさと納税について、総務省では三つの大きな意義を示している。
- 納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になる。
- 生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域、これから応援したい地域の力になれる制度であること。それは、人を育て、自然を守り、地方の環境を育む支援になる。
- 自治体が国民に取り組みをアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方を改めて考えるきっかけへとつながる。
以上の理念により、寄附者と寄附を受けた自治体の双方に、改めて納税の意味とふるさとや地域のあり方を再確認する機会を与えてくれるものとなっている。こうした理念により始まった制度であるが、高額であったり換金性の高い返礼品を採用したりする自治体の出現や高額納税者の節税対策に利用される可能性の指摘など、当初の理念から外れ、問題があると指摘されるケースが出てきた。
高額な返礼品の採用については、自治体間の競争を促すという観点からすれば、寄附者からのニーズの高い返礼品を提供して寄附を集め、さらに自治体を知ってもらうということは、競争を勝ち抜き、当該自治体の住民の利益につながることとなる。
だが、それは自治体間の制度に関する不公平感などから規制がかかり、一過性のこととなり、過度な返礼品競争を規制する地方税法等の一部を改正する法律の成立により、ふるさと納税に係る指定制度が創設されるに至った。指定の基準は、「返礼品の返礼割合を3割以下及び地場産品とすること」で、寄附金の募集を適正に実施する団体を総務大臣が指定する仕組みとなっている。
この基準により、令和元年6月1日以降、小山町(静岡県)、泉佐野市(大阪府)、高野町(和歌山県)、みやき町(佐賀県)がふるさと納税の対象から外されている。また、東京都が、ふるさと納税が本来東京都に納税されるはずの税金を地方が吸い取っているとし、制度自体に対する批判から申請を見送っている。
このように過熱した寄附金獲得競争は、地方税法の改正により一旦は落ち着きを取り戻し、今後は、ふるさと納税を各自治体が創意工夫のもと、いかに活用し、地域の活性化を推進していくかを考える段階に入ってきている。
2.ふるさと納税の方向性
新たな段階に入ってきているふるさと納税制度については、地域へのお金と人の循環を維持し、また、地方創生において、どのように活用すればより効果が高まるかについて引き続き重要な要素として考えていく必要がある。
各自治体の今後の取り組みに対するキーワードとして①地域商社、②GCF(ガバメントクラウドファンディング)、③災害支援、④広域連携、⑤交流人口の5つがあげられている。[1]
(1)地域商社
地域商社とは、各地域に埋もれてなかなか知られていない農産品や工芸品など、魅力ある産品やサービスの販路を生産者に代わって新たに開拓し、従来以上の収益を引き出し、そこで得られた情報や収益を生産者に還元していく役割を担うものである。ふるさと納税返礼品を取り扱う自治体と返礼品の生産者の間に、この地域商社が入ることで、地域の特性をより活かした返礼品の調達が可能となり、さらに得られた収益の多くを地域内で循環させるため、地域における経済の活性化が期待されている。国としても、地方創生に関する事業の1つとして、地域商社の設立や機能強化に向けた取り組みを支援している。
(2)GCF(ガバメントクラウドファンディング)
GCFは、平成25年にふるさと納税サイトを運営している㈱トラストバンクが考案したものであり、事業者が目標とする資金の額と使い道を具体的に示し、不特定多数の人からインターネットを介して出資を募る資金調達方法「クラウドファンディング」の自治体版となっている。
自治体は、抱えている課題を解決するための具体的な施策を立案し、寄附者はその施策内容に賛同し、ふるさと納税の寄付金控除制度を利用して当該自治体に寄附をする。GCFについては、返礼品がないにもかかわらず多額の寄附が集まっており、地域へのより具体的な貢献と事業実現に自分が一役買ったという実感を希望する人にマッチした寄附の方法なのだろうと推測する。
(3)災害支援
災害支援については、自然災害などで被災した自治体にふるさと納税の制度を活用して寄附を行うものである。寄附者は、自分が選択した被災地へ直接寄附をすることが可能となり、復旧を支える一員として社会貢献を実感できる。また、寄附に対する事務手続きに人員をまわせない被災直後の自治体に代わって、他の自治体が手続き事務を代行する「代理寄附受付」や被災直後から寄附が募れるよう平時に災害支援の寄附受付を準備しておく仕組みを構築しているふるさと納税サイトもあり、ふるさと納税サイト自体が有事の際の被災者と支援者の架け橋として機能している。
ちなみに今年、山梨県に大きな被害をもたらした台風19号に対する寄附金について見ると、ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」及び「さとふる」の11月27日現在の山梨県内自治体への寄附金額は、大月市が2,807,020円、上野原市が682,000円、丹波山村が748,000円となっている。
(4)広域連携
今までのふるさと納税の多くは、個々の自治体が地域の特産品や体験を返礼品として扱ってきたが、その垣根を越えてより広域で連携することにより、1つの自治体では対応しきれない地方にある共通の課題を解決し、さらに地域を訪れる人の幅を広げるなどの相乗効果が期待できる。
(5)交流人口
最後のキーワードである交流人口とは、通勤・通学・観光などでその地域に訪れる人々のことである。この交流人口に関して、ふるさと納税をきっかけとし、寄附者が地域に興味を持ち、実際にその地域を訪れ、消費して経済を循環させることを期待するものである。
3.地方創生におけるふるさと納税の活用について
(1)関係人口の増加
ふるさと納税制度を活用した地方創生の効果の1つとして期待されるものに関係人口の増加がある。交流人口よりもさらに地域と多様に関わる人々を指す言葉として「関係人口」があり、地方圏における人口減少・高齢化により地域を支える人材が不足する中で、新しい地域づくりの担い手となることが期待されている。

総務省では、地域外の人が関係人口となるきっかけの提供に取り組んでいる自治体に対し支援するモデル事業を実施している。令和元年度においては、山梨県(山梨市、上野原市、甲州市、市川三郷町、丹波山村)が関係進化型(ゆかり型・ふるさと納税型)で採択を受け、ふるさと納税を活用した事業の現地視察や地域住民との交流イベントを実施し、地域とつながる機会やきっかけを提供することで、地域の担い手となる人材(ふるさと未来投資家)として継続的に地域に関わってもらうための事業を実施している。
(2)地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)
現在、ふるさと納税というと、個人が選択した自治体に寄附を行い、個人住民税や所得税の控除を受ける制度が一般的に認知されているが、平成28年から「志のある企業が地方創生を応援する税制」として地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)が始まっている。企業版ふるさと納税は、自治体が申請し、国が認定した地域再生計画に基づき実施する取り組みに対し、企業が寄附をした場合に税制上の優遇措置が受けられる制度である。従来でも企業が寄附を行うと損金算入により、寄附額の約3割の税負担が軽減されていたが、企業版ふるさと納税の活用によりさらに寄附額の3割の税額が控除されることとなり、合わせると最大で寄附額の約6割が軽減され、実質的な事業者の負担は約4割となる。企業としては、SDGsの達成などの社会貢献、企業のイメージアップ、地方公共団体との新たなパートナーシップなどのメリットが考えられ、平成30年度の寄附件数は1,359件、寄附額は34億円を超え、制度開始から年々伸びてきている。
地方創生の更なる充実・強化に向け、地方への資金の流れを飛躍的に高める観点から、企業版ふるさと納税は、令和2年度の地方税制改正において、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の実施期間と合わせ税額控除の特例期間を令和6年度まで延長し、さらに税額控除割合を3割から6割に引き上げる拡充等の実施を要望していることから、引き続き制度は活発に活用されていくものと考えられる。
4.まとめ
地方の自治体の中には、急激な人口減少と高齢化により10年先の「我がまち」の状況を予測することすら容易でないところもあるだろう。さらに50年先のこととなると「我がまち」は、まだ存続しているのかと考えてしまう自治体もあるのではないだろうか。それでも、自分たちが生まれたまち、生活をしているまちを守るために、何ができるかを考え実行していくことが求められている。山梨県においても例外ではなく、県民一人ひとりが真剣にこのことを考えていく必要がある。
ふるさと納税制度に課せられた目標の一つは、都市圏に集中していた納税を、人口減少により活力が低下していた地方へ還流させ、再び活力を取り戻し、持続可能な自治体経営を可能とすることである。また、ふるさと納税の受入状況を確認することで、日本中の人がどれだけ自分たちのまちに興味を持ってくれているのか、さらに魅力的なアピールによりどれだけ興味を持たせることが出来たのかを確認することも出来る。ふるさと納税は、まだアイディア次第で大きく進化し、それに伴い、地域も変わっていける可能性を十分に秘めている。この制度をさらに有効に活用していくことが、これからの地方の課題解決の大きなツールとなることだろう。
【参考・引用資料等】
:「今こそ知りたい!ふるさと納税、ホントのところ」(発行人 須永珠代 ㈱トラストバンク2018)
:「10万円からできる!使える!企業版ふるさと納税Q&A」(編著 溝口洋・髙野一樹 第一法規㈱ 2018)
:総務省 ふるさと納税ポータルサイト
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/080430_2_kojin.html
:総務省 地域への新しい入り口「関係人口」ポータルサイト
http://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/discription.html
:内閣府地方創生推進事務局 企業版ふるさと納税ポータルサイト
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/tiikisaisei/kigyou_furusato.html
:まち・ひと・しごと創生本部
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/about/chiikisyousya/index.html
:ふるさとチョイス
https://www.furusato-tax.jp/saigai/filter?category_id[]=1099
:さとふる
https://www.satofull.jp/static/oenkifu/201910_typhoon_19.php
[1] 「今こそ知りたい!ふるさと納税、ホントのところ」(発行人 須永珠代 ㈱トラストバンク)の「寄附金集めのその先を左右する5つのキーワードとは?」から引用