Vol.257-1 難病や障害のある子どもたちに笑顔を ~あおぞら共和国の取り組み~


甲府一高あおぞら会 事務局 山本秀彦

 

「あおぞら共和国」は、北杜市白州町に建設された、日本初のレスパイト(一時休息)[1]施設です。ボランティア団体「甲府一高あおぞら会」[2]は、その建国を支援してきました。今回は、この「あおぞら共和国」建国の経緯や活動について、ご紹介させていただきたいと思います。

 

1.あおぞら共和国[3]とは

 北杜市白州町(サントリー白州醸造所の近く)に建国された、難病や障害を持つ子どもたちとその家族が誰にも気兼ねなく好きな時に自然を楽しむことができるレスパイト施設です。

1 あおぞら共和国完成予想図に2019年現在既設の各棟を重ねた図

建国の理念

  • 「あおぞら共和国」は難病や障害のある子どもたちと家族が、好きな時に、気兼ねなく数日間を過ごせる場。みんながそれぞれの故郷として、いつでも集まれる場
  • 新緑、紅葉、草花、水遊び、風、自然との触れ合いを実感できる場
  • 家族や友人、同じ難病、障害の家族の方、関係者等、人との触れ合いの場
  • 子ども達が、いのち輝く「あおぞら共和国」

施設設計における自然環境の維持ポリシー

  • 太陽光発電・蓄電器を使ったホームエネルギーマネジメントシステム、太陽熱温水器を設置し、自然エネルギーを利用し環境にやさしい対応としている。
  • 調整池を地下に設置し、雨水の調整、防火用水として安全に活用する。土塁で溢水を防止する。
  • 伐採した樹木は建設資材、薪、チップとして活用する。
  • 建物土台設置等で掘った土は外へ持ち出ししない。外からも土は持ち込まない。
  • 水は地下水を利用し、2,000Lの貯水槽を設置

 

2.誰がいつから建国し、運営しているのか

 認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワーク[4](以降では難病ネットと略記する場合もあります)の主要4事業の一つで、地域活動として建設を20133月から開始し、運営しています。現在までに延べ7,000人が利用しております。

 

3.建国の歴史(みんなのふるさと“夢”プロジェクト)

 ある企業経営者から寄贈された白州の土地3,000坪の登録が20111月に完了しましたが、松林のままでした。20117月、仁志田博司実行委員長、後藤彰子副委員長、小林信秋難病ネット事務局長、小口弘毅小児科医の4名が発起人として、病気や障害のある子どもたちのための“夢のキャンプ場施設”[5]実現を目指した、“みんなのふるさと夢プロジェクト“が発足し、活動を開始しました。後述いたしますが、201212月に文京区水道橋から白州までの170kmチャリティウォークがTV番組で報道されたことで夢プロジェクトが注目され、大口の寄付が集まり、ロッジの建設に着手することができました。
 2013年3月に開発を開始し、9月に1号棟起工式が行われました。
 2014年2月にはあおぞら共和国と命名され、3月に1号棟竣工式が、6月に2号棟の着工、7月に利用開始、10月に2号棟完成、12月に浴室棟Aが完成しました。
 2015年9月には4号棟完成、10月に3号棟着工、20164月に3号棟竣工式、20172月に屋外ステージ完成、3月にじゃぶじゃぶ池着工、12月にキッズボックス、と共和国の施設が次々と完成しました。
 2018年5月には屋外ステージのこけら落としとして、寄贈団体の代表者のひとりである日野皓正氏のチャリティJazz演奏会が開催されました。
 2019年3月には小林登記念ホール(交流棟)竣工式が行われ、残るは5,6号棟となっています。  

 

4.チャリティウォーキング

 あおぞら共和国のイベントとして第一番にあげられるのは、チャリティウォーキングです。2012年、難病のこども支援全国ネットワークが東京水道橋の本部から、白州のあおぞら共和国用地までの170kmを、夢プロジェクトの実現を目指してウォーキングを行ったことが原点です。立案されたのは、プロジェクトを実行委員長として推進する仁志田先生で、それは、アメリカで行われている参加者の歩いた距離に応じて寄付を集めるという「マーチオブダイム」というチャリティ活動への参加経験からです。その後もチャリティウォーキングは14回続いています。
 チャリティウォーキングは、外に出る機会の少ない難病の子どもたちに、外の風や新緑、紅葉など自然を肌で感じる機会をもたらします。また車椅子の移動のサポートやゴールでの完歩パーティ等のボランティア活動は、日常生活とは異なる人との交流の機会が、自然と親しみながら体験できる、良いイベントとなりました。企画・推進者の小口氏他、甲府一高卒業生には90回続いている強行遠足[6]で培われた精神があり、原動力となっています。
 1回目は20134月に韮崎から白州までの22kmのコースでしたが、その後は日野春駅から白州までの12kmと短くし、車椅子でも参加しやすくなりました。紅葉のウォーク、オオムラサキ自然観察路を歩いたり、夢プロジェクト5周年記念170kmウォークも行ったり、時には200人を超えるイベントとなっています。

2 20194月新緑チャリティウォーク 水車小屋公園にて 

 

5.甲府一高あおぞら会

 2013年3月甲府一高東京同窓会「一紅会」主催の「春の講演会」にて、昭和45年卒の小口弘毅小児科医師が講演の中で「みんなのふるさと“夢”プロジェクト」を紹介しました。更に4月、小口氏が企画した韮崎~白州ウォーキング゙が行われ、以後、小口氏の活動を支援する会の組織化が有志により準備され、2015215日、白州に「みんなのふるさとを実現する“夢” プロジェクト」を応援する団体「甲府一高あおぞら会」が発足しました。
 初年度会員は甲府一高卒業生のみの約170名でスタートし、2016年度以降、甲府一高卒業生以外の方にも呼びかけ、70名の入会をいただきました。同年度末で総計318名の組織となりました。
 2019年現在、会員数は400名を超え(うち約100名は一高以外の方)、あおぞら共和国の建国から維持管理までを支援する団体として活動しており、発足から4年間で総額約1,000万円の寄付を行いました。

 

6.あおぞら共和国で開催されたイベント

 当初はウォーキングの完歩パーティと、それに付随したふるさと祭り程度でしたが、施設の充実とともに、多様なイベントが開催されるようになりました。2019年度には交流棟が完成したことにより、研修・講演等内容も充実してきました。施設は一般の方も利用することができ、地元の北杜市の方、さらに山梨県内の方も交流の場として活用していただけます。
 2019年に開催された主要イベントを、以下に紹介いたします。イベントは難病のこども支援全国ネットワークホームページ、甲府一高あおぞら会のホームページに掲載されていますので、お子様づれでのご参加、またボランティアや見学など、気楽にあおぞら共和国にお越しください。

  • 20186月及び10月 草刈りボランティア(毎年初夏と秋に実施)
  • 201812月 お掃除ボランティア(ロッジの大掃除をボランティアが実施)
  • 20193月 交流棟竣工式・ウインターキャンプ・RDD2019(初めての冬季キャンプ)
  • 20194月 あおぞら新緑まつり(おぐちこうきと愉快な仲間たちによる多彩なイベント)
  • 20196月 心魂プロジェクトデリパフォウィーク(https://www.cocorodama.com/
  • 20199月 SSPEサマーキャンプ(http://sspe.main.jp/family.html
  • 201910月 らくがきキッズParty[7](キッズボックスへのお絵描きワークショップ等)
  • 201911月 甲府一高あおぞら会会員への感謝の集い、新生児講演会

 

7.山梨の皆様へのあおぞら共和国支援のお願い

 日本で初めてのレスパイト施設が北杜市白州に建設されたことは、山梨県として、日本中に誇れる非常にすばらしいことです。大口の寄付が次々と得られたので施設は短期間で建設され、“夢”からあっという間に完成に近づいてきています。施設の利用は難病ネットの会員、関連団体・関係者、難病・障害のある方が優先されますが、空いている場合は一般の方も利用できます。
 これからの課題は施設の運用・維持管理です。これらの施設の所有者はNPO法人ですから、施設を有料宿泊施設としては提供できません。例えば、年間1,000人が利用したとして、300万円程度の運用・維持管理経費が必要となります。海外でのこれらの施設の運営は、通常寄付で賄なわれております。日本初のレスパイト施設である「あおぞら共和国」も、このポリシーで運用されております。
 そこで山梨県在住の皆様へのお願いです。このすばらしい施設「あおぞら共和国」の運用・維持管理へのご支援をお願いいたします。具体的な方法はいくつかありますが、以下に3つの方法を紹介いさせていただきます。
 これからも、「あおぞら共和国」へのご支援をよろしくお願いいたします。

 

【ご支援いただく方法】

その1 「あおぞら共和国」の建設・運営母体である認定NPO法人「難病のこども支援全国ネットワーク」の会員となっていただく。

その2 寄付を個人名で「あおぞら共和国」へ直接行っていただく。
ご寄付は、以下の口座に振り込みをお願いします。確定申告で所得税の軽減処置の対象となります。
ゆうちょ銀行 加入者名:みんなのふるさと夢プロジェクト 口座番号:00140-5-472963

その3 「甲府一高あおぞら会」に入会いただき、会員活動の中で支援する。
「甲府一高あおぞら会」はどなたでも加入いただけます。現在400名の会員がおりますが、そのうち100名は甲府一高卒以外の、一般の方となっております。
詳細は  http://ymkp.net/aozora/aozora_sien1.html をご覧ください。


[1] レスパイト(respite)とは一時的中断、小休止を意味する言葉で、介護にあたる家族が一時的に介護から解放されることとして、育児、介護、障害、医療の分野で使われています。

[2] 甲府一高あおぞら会(http://ymkp.net/aozora/mail:aozora@ymkp.net)〒252-0233 神奈川県相模原市中央区鹿沼台1-7-7 おぐちこどもクリニック内 「あおぞら共和国」を支援するボランティア団体です。

[3] あおぞら共和国:〒408-0316 山梨県北杜市白州町鳥原2913-134 認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワークが構築、運営する施設です。

[4] 難病のこども支援全国ネットワーク(https://www.nanbyonet.or.jp/)〒113-0033 東京都文京区本郷1-15-4 文京尚学ビル TEL:03-5840-5972 難病の子どもとその家族にとって、明日への希望と勇気となる活動を行う認定NPO法人です。

[5] 病気や障害のある子どもたちのための「夢のキャンプ場施設」
【先進の手本となる施設、サマーキャンプ活動の紹介】
*ヘレンハウス:1982年世界で初めてイギリスのオックスフォードに子どもホスピスとしてヘレンハウスが誕生しました。難病の子どもと家族を支援する究極の形の施設です。2歳半で脳腫瘍を発症した次女ヘレンの在宅ケアを望んだ創設者のひとりであるジャクリーン・ウォーズウィッグさんが施設開設を目指し開始した募金活動は、イギリス全土を巻き込み、わずか2年半で資金が集まりました。そして、ヘレンの名前を冠したヘレンハウスが1982年に完成しました。主導したジャクリーン・ウォーズウィッグさんは、このことを「A House Called Helen」と題して出版しました。本書を読んだ小口弘毅氏は、この本こそ夢プロジェクトを推進するために参考になるだけでなく、日本の子どもホスピス運動への理解を広げるために役立つと、自らが中心となって翻訳に取り組み、4年かけて、「ヘレンハウス物語」として20189月に出版いたしました。尚、著者夫妻は201810月にあおぞら共和国を訪問されています。
ヘレンハウス物語 原著「A House Called Helen」 著者:ジャクリーン・ウォーズウィッグ 監訳:仁志田博司・後藤彰子 翻訳担当:小口弘毅、横山美佐子、堤真理恵、佐々木まち子、新倉美智子、石上志保 青山喜代、仁志田華子 出版社:株式会社クリエイツかもがわ(http://www.creates-k.co.jp
*サマーキャンプ(障害を持つ子ども向け):アメリカのコネチカット州アシュフォードという町には、映画俳優のポール・ニューマンが700万ドルの私財を投じて1988年に設立した″The Hole in the Wall Gang Camp″と称する施設があります。これは、難病の子どもたちを受け入れることが可能なサマーキャンプ施設です。300エーカー(367千坪)という広大な敷地の中に、湖や街、診療所、体育館、劇場、イベント広場、宿舎などがあります。難病ネット会からは、これまで2回、延べ11人の子どもたちがこのキャンプに参加しました。帰国後には「初めての体験ばかりで楽しかった」「外国の子どもたちとたくさん交流ができた」「絶対また行きたい」など、様々な感想が寄せられました。日本にもこのような施設があればいいと思っています。私は、病気や障害のある子どもたちが、いつでも病気を忘れ、安心して安全に遊べる場所であったり、家族のレスパイトとして利用できたり、病気や治療の日常から離れることができる、そんな空間が提供できれば素晴らしいと思っていました。しかし、それは夢のような思いでした。(小林信秋氏(前難病ネット会長)2010年の「赤ちゃん育成ネットワーク」会報より)

【難病のこども支援全国ネットワークのサマーキャンプ「がんばれ共和国」について】
 サマーキャンプ「がんばれ共和国」は、難病ネット4事業の一つで、交流活動として、難病や障害のある子どもたちとその家族を対象に「友だちつくろう」を合い言葉に、毎年開催されています。1992年822日に静岡県富士宮市の富士山麓山の村ではじめて実施されたキャンプは、現在、岩手、神奈川、静岡、愛知、兵庫、熊本、沖縄の全国7箇所で行われています。このキャンプには、地域の医療機関の協力のもとに医療班が常駐するなど、医療ケアのある子どもたちの「安心と安全」にも配慮しており、病気や障害の状態や程度による参加可否はありません。

[6] 強行遠足:山梨県立甲府第一高等学校で、1924年から行われている長距離を歩く行事です。男子は1昼夜をかけて最長100km以上を、女子は昼のみで最長75kmを、チェックポイントごとの前進制限時間以内で歩きます。

[7] らくがきキッズParty2019年に始めて実施された、児童を対象としたイベントです。口に入れても安全で、ガラスにも描けて、水拭きで簡単に消せるキットパスを使って、キッズボックスの外壁やガラス窓へのお絵描きをするワークショップです。