Vol.258-2 発達障害を抱える人たちの就職事情
公益財団法人 山梨総合研究所
専務理事 村田俊也
1.はじめに
ユニバーサル社会実現に対する関心が高まるなかで、社会における障害者の受け入れ態勢が徐々にではあるものの進んでいる。事業所における雇用義務もその後押しとなっている。
しかし、比較的近年その存在が定義化された「発達障害者」に対する取り組みはどうであろうか。たとえば、障害者手帳等を有する「障害者」に対する就労支援は当事者から見ればまだまだ不十分かもしれないがそれなりに整備されてきたと思われる反面、「発達障害者」は社会における特性の理解すら十分とはいえず、就労支援も限定的との感がある。人手不足が顕在化して久しいなかで、当事者に対しては失礼と言われるかもしれないが、社会として「発達障害者」を活用しようという発想も乏しい。
今回は、こうした「発達障害を抱える人たちの就職事情」について考えてみたい。
2.発達障害とは
「発達障害者支援法」によると、「発達障害」とは、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」とされている(第二条第一項)。
その原因は、脳の働き方の違いによるもので、心の病気や育て方によるものではないことが証明されている。
特徴としては、「視線が合いにくい、呼んでも知らん顔、ひとり遊び(対人関係)」、「言語発達の遅れ(コミュニケーション)」、「変化を嫌う、特定の物へのこだわり、偏食(こだわり)」、「マイペースで指示に従わない、無理強いするとかんしゃくを起こす」、「勝手な行動をする」、「友達と遊べなかったり、集団活動に参加できない」、「自分の気持ちをうまく伝えられず、かんしゃくを起こす」、「本人なりの手順や遊び方にこだわる」、「興味のあることを一方的にしゃべり、やりとりにならない」、「読む、書く、計算するなどの一部だけが苦手」、「多動で落ち着きがなく、衝動的な行動をする」、「音や痛みなどの感覚に敏感だったり、逆に鈍感だったりする」など、多様な症状が挙げられるが、周囲の正しい理解と適切な支援により、社会生活への適応は可能といわれている。(こころの発達総合支援センターHPから)
3.就業状況(「障害者雇用実態調査」から)
発達障害者の就労に関する統計は、発達障害者の定義が明確となってから間もないため、十分整理されていないのが実情である。
こうしたなかで、5年ごとに実施されている「障害者雇用実態調査」の平成30年度調査において初めて発達障害者も対象となったため、就労状況についてその結果の一部を紹介する。
- 従業員規模5人以上の事業所に雇用されている発達障害者は全国で3万9,000人。
- 発達障害者であることの確認方法は、事業所が精神障害者保健福祉手帳により確認している者が68.9%、精神科医の診断により確認している者が4.1%。精神障害者保健福祉手帳の等級で最も多いのは「3級」で48.7%、最も多い疾病は「自閉症、アスペルガー症候群その他広汎性発達障害」で76.0%。(手帳があれば、障害者として雇用率に算入できるため、障害者を雇用する義務がある事業所側にもメリットが大きいことが要因と思われる)
- 産業別にみると、卸売業、小売業で53.8%と最も多く雇用されており、以下、サービス業15.3%、医療・福祉11.6%の順。
- 事業所規模別にみると、5~29人規模で58.5%と最も多い。
- 雇用形態別にみると、正社員が22.7%、正社員以外が77.2%。(身体障害者は79.8%が正社員であることと比べると、発達障害者は正社員の比率が低い)
- 職業別にみると、販売の職業が39.1%と最も多く、次いで事務的職業29.2%、専門的・技術的職業12.0%の順。
- 1ヵ月の平均賃金は、12万7千円(超過勤務手当を除く所定内給与額は12万3千円)。(身体障害者の21万5千円と比べると低い)
- 発達障害者の雇用上の課題については、「会社内に適当な仕事があるか」が75.3%と最も多く、以下、「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」が52.9%、「採用時に適性、能力を十分把握できるか」が39.6%の順。(ほかの障害者と同傾向)
- 発達障害者の今後の雇用方針について、「積極的に雇用したい」が5.5%、「一定の行政支援があった場合雇用したい」が14.4%、「雇用したくない」が22.0%、「わからない」が58.2%。(「積極的に雇用したい」は一番少なく、「わからない」が一番多い。どう扱ってよいのか、雇用主にとまどいがあるのではと思われる)
- 発達障害者の雇用を促進するために必要な施策は、「外部の支援機関の助言・援助などの支援」が65.8%、「雇入れの際の助成制度の充実」が51.1%、「雇用継続のための助成制度の充実」が50.9%の順。(身体障害者以外の障害者と同傾向)
これをみると、社会での受け入れが先行している身体障害者と比べて、雇用形態、賃金などの面で見劣りしており、適性に合った職業についているとも思われない。事業所として「雇用したい」とする先も少なく、厳しい状況にあることが窺われる。
4.行政支援
障害者全般に対する行政支援については整備が進みつつあるといえるが、発達障害者に対する支援も同様に拡充しているのであろうか。ここでは、就労支援に絞り、確認する。
(1)こころの発達総合支援センター(発達障害者支援センター)
山梨県の機関である、こころの発達総合支援センターは、発達障害者支援法に規定された発達障害者支援センターであり、相談支援、診療、地域支援、研修・普及の4つの機能を展開している。診療機能を有する発達障害者支援センターは全国的にほとんど類がなく、医療と福祉の連携により、必要なサービスを総合的かつ一元的に提供しており、評価は高いとのことである。
就労関係の支援としては、相談業務の一環として実施している。
18歳以下の生徒・学生に対しては、将来の就労を目指すにあたり、必要な知識を得たり、コミュニケーションの向上を図ったりなど、段階を踏んで就労に関する適性の向上を図る取り組みなどが行われている。また、既卒者に対しては、就労および定着に向けたプログラムの実施を行っている。いずれも、家族等の理解・協力が必要であることから、発達障害者本人だけでなく、家族向けの講座の開催等も行っている。
一方、事業所向けの活動も行っており、発達障害者を採用した事業所・福祉施設などで定着のためのアドバイス等を行っている。また、発達障害者の雇用に対する事業者の理解を広めるための事業所訪問や講座の開催等の事業も行っている。
同センターの就労支援の特徴としては、就労に関するあっせんや技術指導等ではなく、就労や職場への定着を目指した「人としての成長」を通じた支援といえる。
なお、同センターの業務に対する需要は急増しており、今年3月、「子どもの心のケアに係る先進的な総合拠点」として、甲府市住吉に移転し、体制・機能を拡充する予定となっている。
(2)地域障害者職業センター
厚生労働省管轄の主な障害者の就労支援機関としては、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターが挙げられる。
- ハローワーク〈山梨県内は、7か所〉
障害者の態様に応じた職業紹介、職業指導、求人開拓等を実施 - 障害者就業・生活支援センター〈山梨県内は、4か所〉
身近な地域において、就業面と生活面の一体的な相談・支援を実施 - 地域障害者職業センター〈山梨県内は、1か所〉
専任カウンセラーによる専門的な支援(職業評価、準備訓練、ジョブコーチ等)を実施
このうち、障害者の就労に対して専門的に対応しているのが、地域障害者職業センターである。
同センターでは、障害者職業カウンセラー等を配置し、ハローワーク(公共職業安定所)、障害者就業・生活支援センターとの連携のもと、就職や職場復帰を目指す障害者、障害者の雇用を支援、または、実際に雇用している事業主、障害者の就労を支援する関係機関に対して、主に3つの支援サービス等を実施している。
- 障害者への支援サービス
就職に向けての相談、職業能力等の評価、就職前の支援から就職後の職場適応のための援助、職場復帰の支援等、個々の障害状況に応じた継続的な支援を実施 - 事業主への支援サービス
障害者の雇入れや雇用継続、職場復帰等の支援や雇用管理に関する助言や情報提供、事業主向けの講習等を実施 - 関係機関に対する支援サービス
関係機関からの要請に応じてニーズ等を把握し、職業リハビリテーションに関する支援方法に係る助言・援助、関係機関の職員等向けの実務的研修等を実施
同センターを利用する障害者は、年間400人程度であるが、内訳をみると、精神障害者が半数弱を占め、発達障害者は25%程度となっている。発達障害者はハローワークで紹介されて利用するケースが多く、社会福祉施設や学校経由の場合もある。
同センターでは、12週間で就労の準備を行う支援プラン(年間40人程度)を実施している。利用者の半数は発達障害者で、基本的な労働習慣の習得、作業遂行力・コミュニケーション能力の向上を図り、ハローワークを経由して就職していくが、昨年の就職率は8割弱の水準となっている(全国と比べて高い)。
なお、就労後も「ジョブコーチ支援」という、就職した職場でのマンツーマンでの指導など、就労後の支援も行っている。
(3)就業支援に関連する行政等の窓口
山梨県では、山梨県内の発達障害(児)者支援に関する社会資源の情報をまとめ、広く周知することで、利用者の利便性を高めるとともに、相談支援機関等の相互支援の推進に資することを目的として、「やまなし発達障害者支援ガイドマップ」(平成29年8月1日時点)を発行している。
これによると、就労に関する相談窓口は、行政機関(市町村保健主管課、母子保健主管課、市町村教育委員会、基幹相談支援センター、こころの発達総合支援センター、精神保健福祉センター、児童相談所、あけぼの医療福祉センター、育精福祉センター、富士ふれあいセンター、障害者相談所、保健福祉事務所)、教育機関(総合教育センター、教育事務所、特別支援学校、通級指導教室、大学の学生支援室)、相談支援事業所等(障害児(者)地域療育支援事業所、児童発達支援センター、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援事業所、指定特定相談支援事業所、指定障害児相談支援事業所等)、就労関係機関(労働局、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、ハローワーク)、親の会・当事者団体を合わせて、100箇所ある。
一方、活動として、就労支援を行っている先は52箇所となっており、相談と比べて少ない状況にある。
(4)特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
事業主が障害者を受け入れやすくするための施策のひとつとして、助成金の支給が挙げられる。ただし、現状、障害者手帳を有していない場合、発達障害者を明確に対象と示した助成金はほとんど確認できず、「特定求職者雇用開発助成金」程度とみられる。
特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)は、ハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介により、障害者手帳をもたない発達障害や難病のある方を雇い入れる事業主に対して、雇用と職場定着を促進するために助成するものである。
対象となる発達障害者は、障害者手帳を所持しておらず発達障害がある者で、雇入れ時点で満年齢が65歳未満である者となっており、1~2年間、30~120万円が事業主に支給される。
ただし、県内での利用をみると、必ずしも多くないというのが実情のようである。
5.就労促進への課題
全国調査でみられたように、発達障害者の就労は、身体障害者等と比べて厳しい。その理由として、次の事項が挙げられる。
- 事業主の負担が重い
事業所における発達障害者の受け入れについては、画一的な対応では必ずしも円滑な職場定着が保証されないということがある。身体障害者の場合、補助が必要な機能を補完する機械・設備等を用意し、マニュアル等を通じて作業手順を教えることにより、仕事を理解し、技能が高まっていく。しかし、発達障害者の場合、物事の「理解の仕方・プロセス」が千差万別であり、画一化されたマニュアルでは理解できないことが多い。各自の特性に寄り添った教え方等が求められることから、事業所側の負担が重い。 - 事業主の採用意欲が高まらない
事業主が義務付けられている障害者の雇用において、精神障害者保健福祉手帳を有していない発達障害者は障害者として認定されず、障害者雇用率の障害者として算入できない。 - 採用事業所の顧客との関係
身体障害者と違い、外見では障害の有無が確認できないため、障害があることを顧客が認識できず、例えば対面販売などの職種において顧客(買い手)の意向がうまく理解できずトラブルになることを恐れ、採用に前向きになれないといったケースがみられる。 - 障害者の意識
発達障害に対する社会の偏見が未だ見られることから、発達障害であることを公表できないケースも多いとみられるが、こうした場合は発達障害者としての就労支援を受けることができない。
ただし、発達障害者は一般的に「まじめ、誠実」であり、特定の分野に一般人を大きく上回る能力を有する人もいることから、職場内での支援技術が高い事業所では、障害者枠の中ではあるものの、発達障害者を優先的に採用するというところもみられる。
6.望まれるさらなる支援の充実
発達障害者が自立していくためには、生活できるだけの賃金を得られる職場があることが必要である。しかし、当事者だけで障害に理解を示す就職先を探すことは、かなり困難である。
障害者自立支援法等で定める身体・知的・精神障害者に対する支援は、従来から存在が社会的に認知されていただけに、当事者にとってはまだまだ不十分という意見もあろうが、整備が進んでいると感じる。一方、発達障害のある人の早期発見と支援を目的とした発達障害者支援法の施行は、2004年であり、それまでは発達障害のある人への支援を定めた法律がなく、発達障害についての明確な定義もなく、発達障害者は法制度のはざまに取り残され、社会の理解が進まず、支援を受けられないという状況にあった。こうした経緯もあり、障害者手帳を持たない発達障害者を対象とした就業支援はこれからである。
社会では、効率化が求められ、不寛容が広がっている。山梨についていえば、障害者雇用率は全国都道府県順位で40位台と下位である。社会で公式に認知が行われてから15年しか立っていない発達障害者であるが、だれもが生きがい・希望をもって生きることができる社会の実現を目指し、社会での理解を広め、支援が充実していくことを期待したい。
今回の執筆にあたっては、山梨障害者職業センターの主任障害者職業カウンセラーである日髙幸徳氏、こころの発達総合支援センターの荻野厚子氏に大変お世話になった。この場を借りて、お礼を申し上げる。