Vol.261-1 日本の温泉文化を未来へ
一般社団法人日本温泉協会 会長
山梨県旅館ホテル生活衛生同業組合 顧問
笹本 森雄
1.はじめに
いにしえより日本では温泉は自然のなかから生まれた恵みとして利用してきました。大地の恵みとして敬い感謝の気持ちとして温泉神社を祀っている所も多くあります。それほど日本において温泉は大切にされてきた歴史があります。いわば地域や共同体によって保護されてきたと言えるでしょう。
しかしながら現在、科学技術、工学的理論の発達により温泉掘削の技術が進みどんな所でも温泉が湧出するようになり、温泉に対するありがたみが薄れてきた感じがします。
世界でも類を見ない素晴らしい日本の温泉を末永く保護し、適切な利用をすすめていくことと共に、育んできた地域、共同体の文化を守ることがこの先重要となってくるでしょう。日本温泉協会はその先頭に立っていきたいと思います。
2.現在の日本温泉協会
日本温泉協会の目的は、温泉についての研究及び温泉知識の普及に努め、温泉資源の保護、温泉利用施設の改善及び温泉利用の適正化を図り、もって国民保健の増進と観光資源の活用に寄与することです。この目的を達成するため、温泉全般にわたる研究、啓発とそれらを通じた社会貢献を使命として、人々の期待に応える魅力ある温泉地づくりのための諸事業、そして会員の社会的信用に結びつく諸事業を推進しています。これらの公益的な事業を主体として、温泉の産業、文化、学術の発展に寄与しています。
会員構成
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温泉旅館ホテル、温泉入浴施設、温泉組合、市町村、団体、企業などで、令和元年9月末現在で会員数1,243
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主な財源
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会費、事業収入
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主な事業
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1)温泉に関する調査研究
2)機関誌その他図書の刊行
3)研究会、講演会、展覧会等の開催
4)保健、文化、観光、その他の諸施設に関する調査指導
5)厚生的指導斡旋
6)関係諸団体との連絡
7)その他本会の目的を達成するために必要な事業
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学術部委員会
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温泉に関する医学、法学、化学、地質学、地質学、工学、水文学、観光学などの権威ある学者約30名で構成され、さまざまな諸問題の解決に取り組んでいます。
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3.日本温泉協会の設立
昭和になって温泉の利用が高まり温泉地が発展していくなかで、開発に伴う源泉の保護が叫ばれる一方、温泉地も変化してきました。療養から慰安、歓楽へと変わりつつあり温泉の研究が盛んになってきました。
こうした状況を憂う研究者、温泉行政機関の内務省、鉄道省、ジャパンツーリストビューロー(財団法人日本交通公社の前身)などの関係者が集い、各地の温泉組合を中心に1929(昭和4)年12月4日に日本温泉協会が設立され、翌年には機関誌「温泉」が発刊されました。当時の発行部数は1万5千部でした。
4.戦後の混乱
第二次世界大戦終戦後各種の団体が解散に追い込まれる中、日本温泉協会は、なんとか看板だけは残すことができました。戦後の混乱の中で温泉を勝手に掘削する事件が相次ぎ、政府は対策として温泉法を提出し昭和23年7月10日法律125号をもって温泉法は施行されました。また、同年11月には、機関誌「温泉」が復刊されました。
5.新たな活動
再建世話人会を経て昭和24年5月15日、戦後第1回総会が熱海温泉で開催され、2代目会長に木暮武太夫氏が選出されました。この頃、現在の温泉協会が取り組まなければならない課題はすでに出てきていました。すなわち、温泉法改正や入湯税、温泉表示問題、温泉の有効利用等です。また地熱問題は、国のエネルギー政策との兼ね合いもあり、解決に時間を要する課題となっています。
6.今後の活動
日本温泉協会は昨年90周年を迎えることができました。これもひとえに多くの諸先輩のご尽力と協会の事業に協力していただいている会員をはじめ関係各位のお力添えの賜物であり、心から敬意を表しますとともに厚く御礼申し上げます。
90周年記念事業の一環として、第1回日本温泉名人認定試験(温泉検定)を昨年12月8日に実施いたしました。温泉知識の普及になると思います。
今後も回数を重ねて日本の温泉文化を国内外に発信できる人材育成に努めたいと考えています。
昨年6月、鹿児島県指宿温泉での総会で満場一致により承認されました、
日本の温泉文化をユネスコ無形文化遺産登録へ |
は、日本の温泉文化を未来へ継承するため、ユネスコ無形文化遺産登録を目指そうとするもので、日本各地の温泉や諸団体と協力して推進してまいります。訪日外国人にとって日本と言えばかつて「富士山」、「芸者」でした。最近は「和食、日本酒」、「漫画、アニメ」が人気ですが、日本の温泉ほどさまざまな日本文化と関わりを持ってきたものはないと考えています。是非皆さまのご理解とご賛同をお願いいたします。
また、日本温泉協会では、組織名称の英語表記にあたり、これまで使用していた「SPA」から「ONSEN」に変更することにいたしました。
温泉は英語で「Hot-spring」または「Spa」といいますが、意味合いは熱水、温泉、鉱泉、温泉場または水着を着て入浴する保養所やジャグジーなどの温浴施設という意味です。
「ONSEN」を使用する理由は、「Hot-spring」、「Spa」では日本の温泉文化、温泉情緒が外国の方にはストレートに伝わらないからです。外国の方が「ONSEN」と聞いただけで、「ただじっくりと湯に浸り心身を癒す」日本人の入浴作法や、浴衣で温泉街をそぞろ歩く光景など、さまざまな日本独特の温泉文化、温泉情緒がイメージ出来るようになればと考えております。この日本独特の温泉文化こそ世界に誇れる歴史あるアイデンティティーであり、「ONSEN」表記を使用することは「日本の温泉文化」を世界へ発信していく意思の表れです。
また訪日外国人観光客が年々増加しておりますが、外国の方々にとりまして温泉入浴体験は楽しみのひとつとなっております。そこで日本温泉協会では、日本の入浴文化を正しく理解してもらうため「お風呂でのエチケット」を啓発するポスターを作成いたしました。英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、フランス語など10言語で表記しており、これまで全国の温泉事業者からお求めいただいております。
詳細は、https://www.spa.or.jp/news/book/3248/をご覧ください。
7.機関誌「温泉」
昭和5年に刊行した『温泉』誌は、令和2年2月発行号をもって通巻884号を数え、温泉業界の総合雑誌として成長してまいりました。日本温泉協会会員、温泉愛好者を中心に購読いただいております。
その最新号では「外国人からみた日本の温泉」を特集しています。日本の温泉を数多く訪問し、日本の温泉を愛する方々に日本の温泉の魅力を語っていただいておりますが、日本人とは違った視点が多く、たいへん読みごたえある内容となっております。
詳細は、https://www.spa.or.jp/books/mookonsen/3958/をご覧ください。
8.最後に
環境省が毎年まとめている温泉利用状況の統計では、全国で温泉地数計2,986カ所、源泉総数計27,261本、湧出量計2,516,461ℓ/分、宿泊施設数計12,871軒となっております(平成31年3月末現在)。
山梨県では温泉地数29カ所、源泉総数362本、湧出量41,395ℓ/分、宿泊施設数215軒となっております。
山梨県民の皆さまの温泉に対する関心は高く、また県内には多くの多様な温泉が点在しています。やまなし観光推進機構はこれらの温泉を使った「やまなし立ち寄り百名湯」という素晴らしい企画を立ち上げています。山梨県の温泉利用はますます増えていくことでしょう。企画の大成功と皆様のご健勝を祈念いたしますとともに、日本温泉協会へのご協力に感謝いたします。