VOL.118 「5.6%→26.0%」
4月から出向となり、甲府駅北口の民間駐車場に車を置いて、駅南口まで1㌔ほど徒歩通勤するようになった。歩道を歩くとき、横断歩道を渡るとき、折に触れて歩行者の肩身の狭さを痛感する。結構なスピードで脇をすり抜ける自転車にヒヤリとし、横断歩道の前に立ち、一時停止してくれた車に会釈して渡ろうとすると、対向の車が目の前を通り過ぎる。しだいに、車が通り過ぎたタイミングを見計らって横断歩道を渡るようになっている。
日本自動車連盟(JAF)が2018年、歩行者が信号機のない横断歩道を渡ろうとした際に停止してくれる車の割合を調査したところ全国平均で8.6%という結果が出た。道路交通法は「横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない」と定めているにもかかわらず。山梨は全国平均をさらに下回る5.6%、全国30位の低水準で、18台に1台しか止まらないことになる。トップのお隣長野県58.6%と10倍の開きがあることもいささか衝撃だった。昨年調査では全国的に改善がみられ、山梨は11位まで上昇したが26.0%にとどまり、まだ4台に3台は通過している計算になる。ちなみに長野県は全国1位を持続し68.6%、2位も連続して静岡県(52.8%)。両県に隣接する山梨県としてはせめて同水準まで高めたいところだ。
「春の全国交通安全運動」が4月6日~15日の10日間にわたって展開された。今年は新型コロナウイルスの感染リスクを避けるため、多くのイベントやキャンペーンは自粛となったが、取り締まりの光景も目にした。歩行者が横断歩道前で立ち止まっているのに、われ関せず通過してしまう車は相変わらず少なくなく、やはり全国調査の実態はあると感じる。車を運転しているときは、こちらが止まっても対向車が止まってくれなければ「サンキュー事故」を招きかねないとハラハラする。
昨年の県内交通死者が25人と、島根県と並んで全国最少となったことは交通関係者の努力や県民の意識向上、交通設備の改善、車両性能の向上、救急救命技術の向上など複合的な理由によるだろう。しかし負傷者が大幅に減り、死者がゼロにならなければ手放しで喜べる話ではない。警察が発表する交通事故死者数は、事故発生から24時間内に死亡した場合に限られ、その後に亡くなった場合を含めれば、交通事故による死者数は実際もっと多いことになる。
県警が現在進めている運動が、信号機のない横断歩道を渡る前に歩行者とドライバーが交わすハンドサイン。歩行者が横断歩道手前で手をあげてドライバーに目線を送り、ドライバー側が「どうぞ」と手で合図する行為だ。要は、昔よく教えられた「手をあげて横断歩道を渡りましょう」の動作をもう一度見直そうという運動だ。
車両性能や交通施設設備は日々改良が進む。しかし私たちの意識改革はそれに追いついているだろうか。交通事故や事故死者を減らすには交通を取り巻く環境の改善と、歩行者を含めた「人」の交通安全意識を高めていくことが交通安全の両輪となる。ドライバーは特に、自分に都合の良い「だろう運転」から「かもしれない運転」への意識改革も求められてくる。
「安全に横断歩道を渡れる甲信静」に一日も早くなりたいものだ。
山梨総合研究所 主任研究員 鷹野 裕之