Vol.261-2 活動の現状からみる今後の自治会のあり方とは


公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 渡邉 たま緒

はじめに

「なんのために自治会はあるのか」

「自治会は必要か」

「自治会がないと不便なのだろうか」

 こうした素朴な疑問をもとに、昨年度、自治会の活動に着目して考察を行ってきた。
 少子高齢化、人口減少により、自治会(町内会)の担い手不足が少しずつ顕在化するなか、甲府市のある自治会が解散した場に立ち会ったことがきっかけだ。
 自治会活動がままならなくなると、地域のつながりが薄れ、行政への協力も困難になる。
 一方で、行政にとっては自治会や地域住民の協力を抜きにして「協働のまちづくり」は成り立たない。
 自治会の先頭に立つ各地域の住民たちのリーダーは、自治会活動の現状をどう見ているのか。本稿では、自治会の現状把握と持続可能な運営のあり方を探ることを目的に実施したアンケートなどから、今後の自治会活動のあり方を考察したい。
 なお、自治会の定義やその歴史等の基本的事項については、ニュースレター(Vol.252)を参照いただきたいが、本稿で使用する「自治会」は、「町又は区域その他市町村の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体(自治会、町内会、部落会、区会、区など)」(総務省)の総称として使用する。

 

甲府市の自治会を取り巻く環境

 今回、研究のモデル地区の1つとして考察した甲府市は、山梨県の中央部に位置する、南北に細長い市である。
 平成2年から平成27年の国勢調査をみると、甲府市の高齢化率は常に全国よりも高くなっている(図表1)。また、地域別にみると、平成29年4月1日現在で、東部が27.2%、西部が28.7%、南部が24.8%、北部が32.6%、中央部が35.8%である(図表2)。

図表1 高齢化率の推移

出典:国勢調査

 

図表2 地区別世帯数・人口・高齢化率

出典:甲府市高齢者支援計画(2018~2020)より山梨総研グラフ作成


 高齢化率が30%を超えていた北部と中央部をさらに細かくみると、図表3のとおり、北部の千代田地区、中央部の富士川地区では高齢化率は40.0%以上となっており、北部の能泉・宮本地区にいたっては73.3%と、住民の7割以上が高齢者となっており、また、世帯数も少ないことが分かる。

 

図表3 北部、中央部の地区別高齢化率

出典:甲府市高齢者支援計画(2018~2020)より抜粋

 

 この高齢化率40.0%の富士川地区で約1年前に起きたのが、ある自治会の解散だ。
 高齢化により活動や役員の負担は重くなる一方で、イベント等には参加もできないまま、負担金だけを払うことが何年も続いた。防災の面では、市の指定避難所への移動も高齢者の足ではままならないといった課題が山積した結果が解散だった。実は、こうした自治会の動きは、全国でも起こっている。各自治体には、「自治会を解散するにはどうすればよいのか」、「解散するとどうなるのか」といった解散に関する問い合わせも寄せられているという。
 一方、高齢化と反比例して減少しているのが、自治会加入率および1世帯あたり人員である(図表4)。「1世帯」を加入の単位とする自治会では、1世帯あたり人員が減少することは、自治会の役割に対する個人の負担は増加することを意味する。そのことが、加入率の低下につながっているかもしれない。

 

図表4 自治会加入率と1世帯あたり人員の推移

出典:自治会加入率:甲府市自治会連合会/1世帯当たり人員:国勢調査

 

自治会の活動とは

 では、あらためて自治会の活動とは何なのか、そして課題が山積する中、活動を維持・継続していく意義は何なのかについて考えてみたい。
 甲府市における自治会の役割は、「地域安全活動や防犯灯の設置」、「地域の支えあい活動」、「きれいな地域づくり」、「市の事業等への協力」、「子どもを守るパトロール活動」、「イベントの開催」となっている。
 また、筆者が意見交換した越谷市では、「防犯、防災および交通安全運動への協力」、「排水路の清掃や廃品回収等の環境美化活動の推進」、「共同募金等の社会福祉に対する援助」、「盆踊り・運動会等による地域の親ぼく活動」、「広報紙などの配付」であり、全国の市町村にある町会・自治会でも同じような内容となっている。
 つまり、①防犯や交通を含む地域の安全、災害時の対応、②ごみ集積所の管理を含む環境美化、③お祭り、イベント等の開催を含む文化・レクリエーション活動、④子ども会や老人会を含む福祉活動が、自治会の主な活動である。自治会としての自主的な活動に加え、行政への協力、さらには、広報等の配付、各委員の推薦、募金等などといった協力も必要であることから、「行政の下請け」といったイメージが強くなってしまうのではないだろうか。

図表5 自治会の活動と行政への協力内容

 

自治会活動を取り巻く状況

 近年は、人口・世帯の減少に加え、単身、核家族、高齢者のみ各世帯等、世帯構成も様々で、その世帯ごとにライフスタイルが違うといっても過言ではない。さらに、車社会、コンビニ文化、SNSで世界中の誰とでもつながることができる環境等、自治会として共に助け合う機会は大幅に減少している。図表5に整理した4つの活動に合わせて各地の事例などについて確認してみたい。

 ①防犯や交通を含む地域の安全、災害時の対応については、警察や市町村に登録すると送られるメールで情報を得ている人が多いのではないだろうか。また、交通安全については、PTA活動の一環としての旗振りなどが主になっている。下校時の見守りについては、高齢化が進み、ボランティアが集まらないといった話も聞こえてくる。
 さらに、災害時では、神戸都市問題研究所が1995年の阪神淡路大震災後に行った「大都市直下型震災時における被災地域住民行動実態調査」によると、「自治会などのコミュニティ組織」から「地震発生後23日の間」に「消火・救出・治療・看護など」の援助を受けた人は、わずか6.0%で、また、「避難場所・住居・生活物資・サービスの提供など」を「自治会」から受けたのも13.2%と1割程度で、「ボランティア」(22.6%)よりも低く、災害時に自治会がほとんど機能していなかった事実が現れている。

 ②ごみ集積場の管理を含む環境美化については、近年、自治会への未加入世帯に対するペナルティのように「集積場にごみを置かせない」といったトラブルも出ているが、そもそも家庭ごみの収集は、行政サービスの1つであり、近年は全国的にごみの戸別回収が広がっている。東京都日野市は、平成1210月に有料指定のごみ袋による原則戸別収集方式に変更した。実質ごみの有料化も伴っているため、一概にごみの減量化が戸別回収による成果ともいえないものの、実施後には、ごみ収集量(資源物を除いた可燃ごみ+不燃ごみ収集量)は45%減、資源回収量は3.3倍、ごみ収集量と資源物の回収量は25%減を達成したという。同様に八王子市でも平成16年に有料指定ごみ袋と戸別収集を導入した結果、前年比27.2%の減量を達成した。
 さらに、戸別収集は高齢化が進むなか、高齢者が集積所までごみを運ぶ負担を減らしたり、個人宅の前であるため環境美化の意識が向上したりする可能性があるといった利点も持ち合わせると考えられる。ペットボトルやアルミ缶といった資源物のごみについては、近年はスーパーなどでも回収が行われているうえに、自治会による収集は収入源となるという意見もあるが、高齢により、手伝いに出られない人が多い上に、奉仕できる人も出勤前の早朝作業で、参加者数は減少し、一人の負担が増えている。年度末に報告される収入の使い道を見ても、資源の仕分けで得た収入による意義は見えてこない、という内容は以前のレポートでも書いたとおりだ。

 ③イベントの開催等を含む文化・レクリエーション活動では、筆者自身も自治会の体育協会役員をしたことがあるが、スポーツ行事の参加者が少なく、家族総動員で人数合わせをする、地区運動会で応援参加の高齢者の接待に追われる、といった経験がある。他の自治会では、運動会の年代別のリレー選手がおらず、60歳代の男性が40歳、50歳、60歳代の3部門に出場したところ、周りも同様で、同じメンバーで3回のリレーをした、という笑い話すらあった。

 ④子ども会や老人会を含む福祉活動では、子どものための行事は少子化の影響でイベントに来る子ども自体が少なくなっている。筆者が育成会の役員をした際には、育成会のイベントでは参加する子ども人数に対して、何十人もの「役員」が、大汗をかきながら準備をしたことが記憶に新しい。また、敬老の日の祝会は、会場となる公民館まで来られず祝ってもらうことができない高齢者が多くなっており、不公平感が生じ、そもそも開催自体が必要なのか、といった議論がなされた。

 また、「それぞれの活動」に関しても弔事は葬儀会社が全て取り仕切るケースが多くなっており、広報等の配付は、ポスティングやシルバー人材センターを利用した配付など行政による個別配付が多くなってきている。近年は、行政の広報等はホームページで確認することができ、また回覧板に頼らずとも、筆者の住む自治会ではSNSを使っての連絡が行き届くようになっている。
 現在、猛威を振るっている新型コロナウイルスにより、総会や定例会が中止や延期になっているところも多いが、それにより、支障をきたしているという話は聞こえてこない。
 一方で、自治会の行事に協力しなかったことからトラブルになり訴訟にまで発展したケースや、募金の徴収をめぐって裁判になったり、署名活動に自治会の回覧板を利用して個人情報やプライバシーについてのトラブルになったりするケースなども見受けられる。
 また、次に紹介する筆者が行った甲府市の自治会アンケートでも、詳細までは不明であるが、自治会が訴えられているという指摘や、高齢者が自治会を私物化し、苦慮しているケース等があり、自治会はトラブルを引き起こす危険性まであることが分かる。
 このように自治会の役割に対して、防災・防犯ボランティアや行政によるごみの個別回収、民間事業者による弔事など、役割が他のしくみで代替されているもの、イベントなどへの参加者減少など、そもそものニーズが減少したり変化したりしているもの、また既存のやり方や既得権が今日の制度や価値観とずれてきているものなど、問題が浮き彫りになっている。

 

自治会の現状1(甲府市の自治会長を対象としたアンケート結果)

 前述の自治会活動を取り巻く現状をより詳細に把握するため、甲府市の自治会連合会にご協力いただき、甲府市の全自治会長を対象としたアンケートを昨年度末に実施した。その結果を以下にまとめる。

【自治会行事】

 自治会の行事のうち、「力を入れている」とした割合が最も多かったものは、神社や季節の「祭り関連」で、次いで地区などの「運動会」、「防災訓練」となった。
 力を入れている理由としては、「祭り関連」と「運動会」は、ともに参加者の多さとそれに伴う交流・親睦、また、伝統(祭り)、健康(運動会)といった人との交わりや伝統、健康を重視する点、また「防災関連」では、高齢者が多い地域の実態、災害・危機管理を踏まえた地域と地域住民を守る視点がうかがえる。

 

 【役員の選出方法】

 役員の選出については、「自治会全体の中から、推薦、役員会などにより選出する」が5割以上で「当番・輪番制により選出する」も4割以上となっている。一方で、「立候補者の中から選出する」が1%強であり、立候補者がいないことをうかがわせる結果となっている。

 

【自治会活動日数】

 自治会の役割を負担に感じる理由として、活動日数が多いためではないかと仮定し、日数について設問したところ、「1ヶ月あたり1~5日」が7割半程度と最も多く、月に1回から週に1回程度の活動日数が多いことが分かる。個人的には、この程度であれば負担なくできるのではないかとも感じるが、これを参考までに地区別でみると、西部地区は活動日数が他の地区に比べてやや多い傾向がみられることから、地区によって差がある可能性が認められる。

◆自治会活動を行っている日数について、1つ選んで〇をつけてください。

【役員手当(会長)】

 各自治会の役員手当の有無やその金額によって、活動に差があるのかを確認するため、自治会長手当の有無等を確認する設問を設けた。また、手当のある自治会についてはその金額、手当のない自治会については、今後の方向性についても確認した。
 自治会長については、「ある」は4割程度、「ない」は5割半弱で、手当なしで活動をしている自治会のほうが多かった。
 手当のある自治会のその金額としては、最も少ないところで年間2千円、最も多いところで年間15万円であった。また、手当のない自治会に「今後手当はつけたほうがよいと思うか」を聞いたところ、「このままなくてよい」が5割半程度と最も多く、「今後、手当はつけたほうがいい」と回答したのは、3割程度であった。
 なお、手当の有無によって現在の自治会活動に差があるのかについても確認したが、「活動日数」や「力を入れている自治会行事」についても、大きな差は見られなかった。
 手当は、ほとんどの場合が活動のための通信費などの実費程度であり、報酬とは言い難い結果であった。また当初、手当のない自治会は、今後手当の支給により、役員へのインセンティブあるいは加入促進として見込むと考え「手当をつけた方がよい」との回答が多いと想定していたが、結果は予想に反して「このままなくてよい」とする意見が多かった。
 以上の結果から、現状の活動日数や力を入れている行事と手当に関連がないことや、今後の手当を見込まない状況を見る限り、自治会活動の負担増といった課題について報酬による解決は難しいことが確認できた。

◆自治会長の役員手当の有無と内容について、お答えください。

 

 

   

【自治会運営の課題】

 次に、全国的に高齢化や負担増といった自治会の課題が挙げられるなか、実際に甲府市の自治会長が運営の課題をどう考えているかを確認した。
 「役員のなり手が少ない」、「自治会全体が高齢化して、活動に支障が出ている」がともに約8割で、「行事、活動等の参加者が少ない」が約5割半、「役員の負担が大きい」が約5割、「行政からの依頼が多い」が約4割半などとなっている。
 また、その他としての意見としては、「行政からの配付物が多い」や「高齢化を理由に役員を拒否される」といったもののほか、「高齢者が勝手に自治会住民の個人情報を出してしまう」、「高齢者が暴言を吐いて運営を混乱させる」、「高齢者が助成金を会計報告をせずに小遣い代わりにしている」といった、高齢者が自治会基盤を乱している現状もうかがえた。

◆自治会運営の課題について、あてはまるものすべてに〇をつけてください。

 

【大学生やボランティア団体に手助けしてほしいこと】

 役員の負担を減らすために、大学生やボランティア団体と連携した取り組みができないかとの考えから、団体等に手助けしてほしい項目を聞いたところ、「運動会やお祭りなどの当日の運営補助」、「体協、育成会、愛育会など自治会に割り当てられる役職の代行」、「ごみ置き場、有価物当番の際の清掃や仕分けの代行」の順となった。
 また、「その他」と回答した40件について詳細をみると、「手伝ってほしいことはない」、「何もしてほしくない。自分たちでやる」、「外部から手助けするという発想ではなく、それぞれの所属自治会の活動にきちんと参加すべき」といった、連携や手助け事態を拒否する回答が半数以上の26件であり、自治会運営に外部が参入することの難しさをうかがわせる結果となった。

◆もし大学生やボランティア団体が自治会活動を手助けしてくれるとしたら、何をしてほしいですか。1つ選んで〇をつけてください。                                                                                   

 

自治会の現状2(都留市環境課地域振興担当へのヒアリング)

 実施したアンケート調査の他に、都留市が実施したアンケート結果などから、県内自治会の現状について深掘りしてみたい。
 都留市地域環境課は、自治会役員の担い手不足など自治会運営が困難になりつつある現状を受け、その実態を探り、今後の方向性を検討する資料とするべく、初めてアンケートを実施した。その内容、結果、今後の方針等について、担当した市の職員に話をうかがった。
 なお、アンケート調査は、91自治会の自治会長を対象に平成31年1月16日~2月18日までの期間で実施された。
 以下にアンケート結果を抜粋する。

 

【加入率】

 平成30年末現在の平均加入率は約70%で、最も高い地域は81%、低い地域は53%と、加入率に地域差があることが分かる。
 市の担当者に確認したところ、加入率が低い地域は高齢化の進んでいる地域だという。

加入率

【加入者増に向けて】

 「加入者を増やすためには何をするべきか」の問いについては、「自治会役員の負担を軽減する」が最も多く、また「特に何もする必要はない」は最も少なく、昔なら当然のように加入していた自治会も、近年は加入者獲得のために、何かしらの方策をしなければ増やせないと考えていることがうかがえる。

加入者を増やすためには何をするべきか

【課題】

 「自治会活動の中で、特に困っていること」は、多い順に「役員のなり手が少ない」、「行事、活動等の参加者が少ない」、「高齢化により活動に支障をきたしている」などとなっている。

自治会活動の中で、特に困っていること

【近隣自治会との合併について】

 人口減少社会を見据えた「近隣自治会との合併を協議する必要性」については、「感じていない」が圧倒的に多く、また「既に近隣自治会との協議を行っている」自治会はないことから、役員のなり手が少なく、行事の参加者不足、高齢化による活動の支障などがあっても、近隣との合併には否定的で、合併による役員創出や負担減、行事への参加者増は見込めないことが分かる。

近隣自治会との合併を協議する必要性

【行事の頻度について】

 市役所からの協力依頼と地域独自の行事等の頻度について、都留市と前述の甲府市でのアンケートで比較したところ、甲府市より都留市のほうが「市役所からの協力依頼の方が多い」がやや多くなっている。

 

自治会の現状3(越谷市自治会連合会との意見交換会より)

 高齢化等による自治会の担い手不足や行事への参加率の低さといった課題は、山梨県に限ったことではない。
 令和2123日、人口約33万人の埼玉県越谷市の自治会連合会と意見交換会をしたところ、各地区ともに市街地、山間地等の地域性に違いはあるものの、それぞれが住民の自治会離れによる加入率の低下を課題として挙げた。
 また、山間地での高齢化問題のほか、市街地の若者が多い地域では都心に仕事に出るため、日中に地域に残るのは地域の小学校等に通う子どもと高齢者のみであり、大規模災害等における住民自治なども課題となっているという。山間地と市街地により課題を分けて今後の方向性を考えるべきではないか、といった意見もあった。

 

意見交換した越谷市自治会連合会

自治会の現状(まとめ)

 3つの自治体の実態を見ると、行政からの業務だけでなく、住民同士のコミュニケーションや防災を意識した主体的な活動にも取り組んでいるものの、役員のなり手はなく、高齢化により活動も思うように進んでいないのが実情である。
 また、越谷市のように自治会離れを問題視しているが、その対策は見えていないのと同時に、子どもの見守りや防災などの地縁に依存する内容での不安があることが見えてくる。
 アンケート、ヒアリング、意見交換から「自治会の帰属意識/依存度」、「自治会活動を担う体力」、「自治会活動を行う時間」を年齢別に表したのが図表6から図表8である。
 この図は、若者は時間と体力はあるものの自分たちの住む街への帰属意識や依存度は低く、高める取組が必要であり(図表6)、高齢者は帰属意識や依存度は高く、時間もあるが、活動を担う体力がなく、補完する取組が必要であり(図表7)、働き盛り世代は自治会活動を担う時間がなく、補完する取組が必要である(図表8)ことを示している。

 

図表6 年齢と帰属意識/依存度の関係

図表7 年齢と地域活動を担う体力の関係

 

表8 年齢と自治会活動を担う時間

アンケート、ヒアリング、意見交換から筆者作成

 

対策に乗り出した自治体・自治会

 自治会を取り巻く様々な問題の解決に向けて、いくつかの自治体や自治会では対策に乗り出している。
 前述の都留市ではアンケート結果を受け、自治会役員の負担を軽減するために手引書を作成した。
 また、行政からの協力依頼が多いことを重視し、行政からの会議の役職等を減らす検討を始めているほか、アンケート結果を共有し、自治会と意見交換を行い今後の取り組みについて方向性を考えていくという。
 自治体による自治会についての検討は、全国的にも行われている。京都府京都市では、「京都市地域コミュニティ活性化推進条例」に基づき、地域住民主体の取り組みを支援していこうと平成30年9月~12月の3か月間にわたり、アンケート調査を実施した。

アンケート結果を確認する都留市の担当者

 前述の意見交換をした越谷市では、令和元年度から連合会や支部(地区の連合会)に、加入促進のための補助金50万円をつけた。各自治会がそれぞれ知恵をしぼり、チラシの刷新やホームページの拡充、のぼり旗の作成を行った。自治会加入者が商店街での買い物で優遇される「優待カード」を作った地区もある。

 

加入促進のために作成した越谷市なんこし自治会の優待カード


 また、長野県の中山間地域にある人口2,300人程度の長野市鬼無里では、構成される20自治会のうち最小は4世帯9人であり、消滅の可能性も危惧し組織見直し検討委員会を立ち上げた。自治会住民の負担を減らすために、行政が出す配付物を減らしたり、郵送などに切り替えたりするなどの対策もしているという。
 なお、すべてを確認し切れているわけではないが、市町村広報等、行政からの配付物を個別にポスティングや、新聞折込を取り入れるなど、いわゆるアウトソーシングに切り替える自治体も増えている。また、前述のとおり、近年は家庭のごみについても、集積場での回収から家庭の前での個別回収にする自治体も出てきている。
 行政や自治会の新たな取り組みは、住民に対する自治会の役割や関係性を見直すことにつながっている。
 そうすると、次の「住みたい街」につながりやすくなると思われる。

「住みたい街」、「住みたくない街」と自治会

 「地域を下支え」しているとも言われる自治会は、「住みたい街」、「住みたくない街」と評される地域で、どのような活動をしているのか、「住みたいまち」と「住みたくない街」では、活動に差があるのかに着目してみる。
 ここで、民間調査会社が発表している「住みたい街ランキング」(2020年関東版)の1位~3位となった「横浜」、「恵比寿」、「吉祥寺」と自治会活動について確認してみたい。
 横浜市は、全国の自治会(町内会)活動と大きな差異は見られないものの、横浜市のホームページを確認すると、他の自治会(町内会)ではあまり対処されていない、「自治会町内会における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた情報提供について」の項目が設けられたり、定期総会等を書面開催する場合の書式がダウンロードできたりするような配慮がなされている。また、3、4年に1度、アンケートを行い、自治会活動について検討している姿が見えてくる。
 盆踊りが有名な恵比寿であるが、この盆踊りについても、ある1人の住民が、他の地域ではやめてしまった盆踊りを継承するべく、若者が反応・参加しやすい形へと試行錯誤した様子がうかがえる。また、恵比寿のある渋谷区では、住む人、働く人、学ぶ人たちが自分たち自身で地域交流・地域活動の場を企画し、交流することを目的とした「渋谷おとなりサンデー」を2017年より実施している。
 吉祥寺のある武蔵野市は、戦後、全国の市町村で復活した自治会(町内会)が復活しなかった珍しい市である。農村共同体的でない新しいつながりや連帯感を創成し、「新しいふるさと」意識が芽生える地域づくりを行うコミュニティ構想を立ち上げており、市民参加、市民自治の実現や、自立した個人がつくる「新しい近隣感覚」に基づくつながりを目指している。
 コミュニティは自主参加、自主企画、自主運営が基本原則であり、市は、要望に基づき活動費等を支出するものの、補助金の交付は受けても行政の支配は受けない自由なコミュニティ活動を保障する。地区ごとにコミュニティづくりの拠点としてコミュニティーセンターを設置して活動しているが、参加は自由で強制力はなく、また会費も設けていない。さらに市の広報は平成19年4月から個別配付に切り替え、回覧板も廃止している。ごみ収集についてもステーション収集から各戸収集に変更し、自治会を通して行われる行政サービスの提供については、直接市民個人へ行われている。
 一方で、口コミサイトで住みたくない街ランキングを確認したところ、首都圏版しかなかったので直接の比較はできないが、住みたくない街の理由で共通するものとして、「治安が悪い」、「街が汚い」があった。自治会活動については、地域単位のHPを作って、コロナウイルス感染に関する情報を流したり、総会延期のお知らせを発信したりする自治会が1か所あったが、そこ以外は、型通りの自治会の説明がある街のほか、10年以上、自治会に関する更新のないところなど様々であった。
 以上の結果から、住みよい街、住みたくない街と自治会活動が関係するとまでは言えないものの、住みたい街の上位3位の街では、行政あるいは住民がなんらかの「取り組み」を行っている感覚を受け、一方で、住みたくない街では、街を衛生面からも環境面からも守る住民意識による美化の目、監視の目がないように感じる。


 つまり、自治会の有無にかかわらず、住みよい街となるのは、住民や行政がわが街のことをどこまで本気で考えられるか、なのではないだろうか。

あらためて自治会とは

 自治会は日本特有のシステムであり、これまでの街づくりに一定の成果を出してきた社会資源であることは疑いの余地はない。また、行政とのパイプ役、行政サービスの一端を担い、行政の効率性も図ってきた。しかし、社会構造が大きく変わっている現在、全国一律的な自治会活動では、立ちいかなくなっているのは事実であるが、今回のアンケートやヒアリングによってそこが見えてきた。
 高齢化による負担増加、高齢世代とそれ以外の世代との意識や使える機器の差、行政サービス補助として担う自治会機能の限界等について、改革しなければ、自治会という社会資源自体が機能しなくなるところまで来ている。
 前述のとおり、対策に乗り出している自治会も現れてきた。アウトソーシングや不要なものを精査し、負担増を減らすのは、前述の自治会活動にかける体力と時間に配慮したものであり、優待カードといった加入者へのインセンティブは地域に目を向ける「導入」となるだろう。
 今後は、若者が帰属意識を高め、自治会に依存できるような「街」をつくることへの取り組みについて目を向ける必要と、高齢者がこれまでの自治会活動の慣習にとらわれない補完策を素直に受け入れる必要があるのではないか。
 結局のところ重要なのは、「器」としての自治会ではなく、地域を考える「人」の存在であり、それを育む新しい仕組みづくりだということではないだろうか。


参考文献等

「大都市直下型震災時における被災地域住民行動実態調査」 神戸都市問題研究所(1995年)
どこまでやるか、町内会  紙屋 高雪(著) (ポプラ新書)
市町村と地域自治会 (「第三層の政府」のガバナンス) 日高 昭夫 (著) (山梨ふるさと文庫)
京都市HP、越谷市HP、武蔵野市HP、横浜市HP、日野市HP

協力

甲府市自治会連合会、都留市地域環境課、越谷市自治会連合会