Vol.263-1 地方創生の一助となる「体験型婚活」の可能性について


婚活de八ヶ岳推進委員会ファシリテーター
五味五感企画主宰
帝京学園短期大学非常勤講師 五味 愛美

1.はじめに

 時代ごとに社会情勢が変わり、社会課題も変わっていきます。2019年の年末から世界中に広まった新型コロナウイルス感染も、我々の社会に大きな課題を投げつけました。令和時代は「人口減」「少子化」「高齢化」「格差社会」「貧困」「環境問題」「エネルギー問題」「雇用問題」「女性活躍推進」「教育問題」などなど、社会課題は多岐に渡っています。すべての社会課題で言えることは、一つの問題や課題は一つの原因から成り立っていない、ということです。さまざまな現象がもつれた糸のように絡まって、大きなうねりを作っています。
 私の専門分野は環境教育です。環境教育の分野は、まさにこのさまざまな原因と価値観のうねりの中から、社会課題への糸口をつかんでいく仕事です。身近な課題から取り組みをしていくことで、ひとつずつ課題がほぐれていくことを願って活動をしています。幸せや生きがいを感じて生活する山梨県であってほしい、そして、今あらためて「Think Globally, Act Locally(地球規模で考えて、地域で行動しよう)」の精神が必要だと感じています。

 

2.山梨における人口推移

 山梨県の総人口は1999年にピークを記録しましたが、その後は減少に転じてきています。これは、本県に限らず、多くの県で同じことが言えます。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によると、2043(令和25)年には、日本の総人口が1億人を割り込むことも予想されています。そして、山梨県においては人口流出、いわゆる人口の社会減も課題になっています。地方から大都市への人口流出が現状のまま続いた場合、40年には、2039歳の若年女性人口が50%以上減少する市区町村が896(全体の49.8%)にのぼるとの推測もあります。合計特殊出生率を見てみると、19年に全国では1.36。山梨県では1.44と、全国平均を上回ってはいるものの、18年の1.53と比べて0.09㌽低下しています。少子化と同時に高齢化も進んでいます。
 こうした、人口減少、少子高齢化は、これからの経済活動、年金、医療、介護、社会保障に大きな影響を与えることは、想像に難くないことです。それを支える生産世代の減少は大きな痛手であることは言うまでもないでしょう。
 私は、人口が減ることは暗いことばかりとは考えていません。柔軟に人口規模に社会を合わせていけばいいと思っています。ただし一つだけ「怖い」と思っていることがあります。それは「県民の幸福感の低下」です。幸福感を得るための軸はいくつか研究報告がされています。生きがい、パートナー家族の存在、家計、雇用、趣味、地域とのつながり、自己肯定感、などの要因が幸福感向上のためには必要ですが、すべての県民の幸福感が今後低下しないようにいち早く取り組むべきだと思うのです。

 

3.婚活de八ヶ岳推進委員会の活動

 「婚活」という言葉が生まれたのは、08年に出版された「『婚活』時代」(山田昌弘・白河桃子共著、ディスカヴァー携書)です。婚活de八ヶ岳推進委員会は10年に設立された任意団体で、名のスタッフ体制で運営しています。山梨県を中心に体験型婚活を年30回程度イベント開催しています。

 

婚活de八ヶ岳推進委員会のメンバー。(左から)多賀純夫さん、五味愛美さん、増田由香子さん、佐野美涼さん

 

 婚活イベントは少人数制で男性12名、女性12名の24名。ファシリテーターと呼ばれる司会進行役が、参加者の心の動きを捉えながら、会を進行していきます。参加者は、県内から55%、県外から45%です。山梨に住みたいと思う人を増やしていくことが目的の一つで、「地域のファンを作ろう」というキーワードで交流人口を増加させる一面があります。参加理由としては「本気で結婚相手を見つけたい」というものから「山梨県に移住をしたい」「田舎暮らしをしたい」「実家が山梨県で、Uターンをしたい」などがあります。現在200組ほどご成婚の報告があります。
 体験型婚活の運営方法、企画のコツ、ファシリテーターの養成などの研修会も全国各地に講師としてお伺いし、そのノウハウを提供しています。「地域創生」「幸せ創生」のために活動をしています。

山梨で開催している体験型婚活の運営方法などについてのノウハウを提供した石川県主催のセミナー。受講者は同県内の自治体職員=金沢市の石川県地場産業振興センター(2019年9月)

「『地方創生』と『幸せ創生』の体験型婚活イベントとは」をテーマに講演。山梨の体験型婚活は全国的に注目され、県外からの講演依頼も少なくない=金沢市の石川県地場産業振興センター(2019年9月)

 

4.山梨県における結婚支援の歴史と現在

 山梨県内27市町村のうち、15市町村に「結婚相談員制度」があります。この活動は、自治体で任命された相談員が登録者のプロフィルを元にお見合いを斡旋する制度です。1対1のお見合いの機会を設けているほか、婚活パーティーなども開催しています。
 山梨県では、13年から男女参画課で取り組みを開始しました。19年から子育て政策課担当になり、現在は「やまなし出会いサポートセンター」「結婚応援企業」「出会いサポーター」「縁結びサポーター」等の取り組みをしています。山梨県が管理するホームページ「婚活やまなし」は県内の婚活情報のポータルサイトの役目を果たし、同じく婚活やまなしが発行しているメーリングリストは、県内の独身者への結婚支援の情報を提供しています。
 13年に山梨県で結婚支援を始めた際には、県内で活動している婚活サポーターの交流や情報交換、スキルアップの機会がなく、13年度から3年間「婚活イベント企画セミナー」を県主催で開きました。その際に、当会がメイン講師を担当しました。15年には会員制の対1のお見合い「やまなし出会いサポートセンター」が開設され、成果を上げています。

 

5.教育手法としてのワークショップのあり方とファシリテーターの歴史

 一方で、民間でもさまざまな活動があります。婚活de八ヶ岳推進委員会では、体験型婚活を中心に事業を展開しています。我々がワークショップの手法を取り入れている理由は2点あります。近年「ワークショップ」という言葉があちこちで使われるようになってきましたが、本来ワークショップの定義は「講義などの一方的な知識伝達のスタイルではなく、参加者が自ら参加・体験して共同で何かを学びあったり創り出したりする学びと創造のスタイルである」(『ワークショップー新しい学びと創造の場』中野民生著、2001年、岩波新書)とされています。単に体験活動を与えるだけではなく、そこから、共同で発見があるような学びを促し、創造する場がある手法です。参加者が自発的に作業や発言をおこなえる環境が整った場を作り出し、ファシリテーターが場を進行していきます。
 ワークショップは住民参加型のまちづくりや、人材育成のための企業研修などで取り入れられる場合が多い手法です。10年から、婚活de八ヶ岳推進委員会ではワークショップを「婚活」という場で取り入れ始めました。ワークショップを取り入れている理由は3点あります。

(1)参加者の自己肯定感のアップ

 通常、婚活イベントに参加し、マッチングしなかった場合、「なぜ自分は選ばれなかったのか」と激しく自己肯定感が下がる傾向があります。心療内科では「婚活疲労症候群」という婚活うつの病名がついているほどです。ワークショップの手法を取り入れながら進めていくことで、参加者同士のやりとりで、前向きな気持ちになれる工夫があります。「何事にも挑戦することが大事だと思いました。勇気を出せた自分に拍手」「自分は人見知りだと思っていたのにコミュニケーション能力を褒められて自信がついた」など参加者のアンケート結果にも表れています。自分自身へ肯定感が生まれていることが分かります。

(2)地域の魅力再発見

 地域のポテンシャルを取り入れながらの婚活イベントを企画することで、地域の魅力を再発見します。県外から、山梨県内に移住を考えている人にとっては、山梨の魅力を知り、移住する機会になります。そして、県外からの参加者のポジティブな言葉は、山梨在住の参加者にとって自信につながります。「地域を知ること、関わること」は幸福度を上げるための一要因であることは知られています。なるべく多くの地域の方にもご協力をいただく工夫をしています。

(3)新たな価値観との遭遇

 そして、さまざまな生き方に触れる機会を多く作ることで、自分にはない価値観に触れる機会が生まれます。参加者の視野が広がり、豊かな人間性にもつながっていきます。「今まで興味がなかった縄文土器に触れて、学芸員の方のホンモノの話が刺激になりました」「手作りの丁寧な暮らし。自分の目指したい未来が見えました」などの感想が参加者アンケートに書かれています。

 

日本遺産に登録された北杜市明野町の梅之木遺跡での縄文体験の婚活イベント(2019年11月)

 

6.一般的な婚活パーティーとの差異と具体的なワークショップの流れ

 では、一般的な婚活パーティーと、ワークショップを取り入れた「体験型婚活」との差異はどこにあるのでしょうか。

(1)本物体験を提供します

 「地方にこそ、本物あり」と強く感じています。山梨にある本物の体験、本物の素材、本物の人物を絡めながら、企画をたてます。本物に触れることで感性が刺激され、人生の豊さにもつながっていきます。

(2)プログラムの流れに工夫があります

 イベントを開始する前から、工夫があります。事前案内メールでの工夫。受付時の工夫。心ほぐしのためのアイスブレイクの工夫。体験活動を自己紹介するタイミングの工夫。最終段階では、ふりかえりの工夫など、随所に人となりが伝わる工夫を取り入れています。そのため企画準備が重要になります。

(3)ファシリテーターの存在があります

 ワークショップを進めていくには、ファシリテーターの存在が重要です。当会のファシリテーターは、教育現場で20年経験を積んだスタッフが関わっています。全国の婚活ファシリテーター育成のために、司会進行役としてのコツなどを伝える研修会などを開催しています。

 

7.ワークショップと婚活の融合の可能性「体験型婚活」の誕生

 2010年から、300回ほど「体験型婚活イベント」を開催してきて感じることは、地方だからこそ、出会いの場の提供だけでなく、地域の良さや本物体験を組み込んだイベント開催が有効であるということです。体験型婚活イベントは朝から夕方まで約時間かかります。婚活パーティーは通常時間程度です。体験型婚活は時間だけを比較すると非効率に感じますが、人となりを知ることができること、郷土愛が育まれ自身の幸福感が上がること、自分再発見でさらに自己肯定感が高まることなどを考えると、決して非効率とは感じられません。
 地方創生のツールとしても体験型婚活はおすすめです。交流人口は確実に増加します。山梨県で開催している体験型婚活の有効性を何度も他県に紹介していますが、お話しすればするほど「今後は地方の時代」だと感じています。

 

登山de婚活はすぐ定員いっぱいになる人気のイベントの一つ。北杜市高根町清里の丘の公園に集まって長野県南牧村の飯盛山を目指す(2019年5月)
登山de婚活でのお弁当の時間も至福のひととき=長野県南牧村の飯盛山周辺(2019年5月)

 

8.さいごに、withコロナ時代と婚活支援

 新型コロナウイルス感染拡大防止のために、緊急事態宣言等、各種自粛要請が今年春からありました。この期間、山梨県内の婚活イベントも激減しました。お見合いやイベント等もマスクを着用しての対面となります。この期間に注目を集めたものがオンライン婚活、オンラインお見合いです。オンラインお見合いでは、通常の対面お見合いに比べて仮交際に発展する割合が20%高い(株式会社IBJ調べ)という報告もありました。コロナ禍においても、婚活を希望する独身者の割合は減ることはなく、婚活支援側の体制が追いついていない状況も見受けられました。
 さらに、パートナー探しの場として、お相手の方が激動の社会変化をどのように生き抜くのかを知る良い機会にもなっているようです。参加者アンケートでは「コロナは、一生に一度だと思うようなこの事態。ピンチをチャンスに変えていきたい。自分を見つめ直すいい機会だと感じた。日々、気をつけることは気をつけながら、どう楽しむか?を考えている。この時期に好きなものを見つけたいし、追求したい。」「人間性がすごく出るなぁと感じている。前向きな人、後ろ向きの人、Zoomなどの新しいものに、チャレンジする人としない人。いろんな人間性が見えやすい。」「日頃が大事だと改めて感じた。歴史が示していると思っている。神様が今の私たちに生き方を問うているような気がしてならない。ご縁があって、今の時代に生きていて、生かされている。便利な世の中から少し考え直したい。」などの言葉がありました。結婚生活は、パートナーと共にさまざまな局面を乗り越えていくことになります。コロナ禍はある意味では、お相手の性格の一端を知る機会になっているのかもしれません。
 「withコロナ時代」がやってきます。リモートワークが増え、通常のイベントやお祭りなども少なくなるでしょう。飲食店もソーシャルディスタンスを考え、隣の人と知り合いになる機会も減ってくると思われます。日常生活において、ますます出会いの機会が少なくなります。結婚支援の場でも新型コロナ以前と同様の対面お見合いや対面イベントなどは開催が難しくなると考えています。必ずマスクの着用やソーシャルディスタンスを保ちながらの開催となるでしょう。しかし、独身者の幸せを求める姿勢に変わりはありません。結婚支援をする側が多様な選択肢を用意し、出会いの機会を減らさない努力が求められていると感じています。
 日本人の幸福感向上のために、まずは山梨県からできることをやっていきたいと思うのです。激動の時代を共に生きる山梨県民として、異業種のみなさんと知恵を出し合いながら、幸せに向かって活動をしていきたいと願ってやみません。