Vol.264-2 SDGsの推進による持続可能なまちづくり
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 伊藤 賢造
1.はじめに
SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された国際目標である。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すため、現在、世界中で取り組みが活発に進められている。
SDGsには、持続可能な開発のため、17のゴール(目標)と169のターゲットを掲げており、17のゴールが一つでも欠けると、その国やひいては世界全体の持続が危うくなることを意味している。
SDGsは経済、社会、環境という三つの側面がバランスよく成立した社会が持続可能な社会であるということを大きな思想としており、折しも、世界的に拡大が続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、持続可能な世界のためには、国境や部門、世代を越えた協力が必要であることを再認識させられたところである。
SDGsにおける17のゴール
2.取り組み状況
(1)国における取り組み
我が国では、2015年にSDGsが採択された後、2016年に政府がSDGs推進本部を設置した。推進本部では、取り組みの指針となる「SDGs実施指針」や「アクションプラン」等を決定し、その後、さらなる推進のため、適宜、改定や更新を行っている。
この実施指針は、「持続可能で強靱、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」というビジョンにもとづいて策定されており、こうしたビジョンを達成するための取り組みの柱として、八つの優先課題を掲げている。
国におけるSDGs推進の主要原則と優先課題
また、国では取り組みの普及を図るべく、SDGs達成に資する優れた取り組みを行っている企業・団体等を表彰する「ジャパンSDGsアワード」を創設したほか、自治体に対しては、達成に向けて優れた取り組みを提案した都市を選定して支援する「SDGs未来都市」、特に先導的な取り組みを行っている事業を選定して支援する「自治体SDGsモデル事業」をそれぞれ募集し、取り組みの推進を後押ししている。
さらに、推進本部では、人口減少を克服し地域経済の活性化を目指す「地方創生」において、自治体のSDGs推進が地方創生の実現に資することから「SDGsを原動力とした地方創生」を提唱し、主に2020年から計画期間が始まった第2期の「地方版まち・ひと・しごと創生総合戦略」の策定において、達成に向けた取り組みを盛り込むよう促している。
(2)企業における取り組み
SDGsでは、国連サミットに参加して採択を行った国家レベルだけではなく、自治体、NPO・NGO、地域社会といった公益を目的とする団体及び営利を目的とする企業も含めて、すべての人たちが課題解決に向けて主体的に取り組むことを求めている。
特に、企業は環境、社会、経済への影響力が大きく、業務体制の変革やイノベーションを通じて幅広く貢献できることから、主要な実施主体の一つとして位置付けられている。
企業側にとってもSDGsに取り組むことはメリットがあると言われている。世界全体の持続可能な開発のために、自分たちがどう貢献できるのかを考え、事業を通じて実現していくことは、企業価値を高め、業績の向上につながるからである。
世界的に活躍する企業では、企業イメージが業績に与える影響は増大しており、世界全体がSDGsの達成を目指す中、これを無視して事業活動を行うことは企業の持続可能性を揺るがす「リスク」をもたらすことから、企業の存続基盤を強固なものにし、巨大な市場を獲得するため、ビジネスを通じて積極的な取り組みが行われている。
一方、中小企業では、SDGsの取り組みは遅れていると言える。2018年12月に関東経済産業局及び一般財団法人日本立地センターが、本社が関東に所在し民間調査会社にモニター登録されている中小企業に対してWEBアンケートを実施した結果、「SDGsについて全く知らない」が実に84.2%を占めた。中小企業への浸透は限定的となっており、正しい認識を促すことが課題となっている。
(3)自治体における取り組み
自治体では、国の方針も相まって、SDGs達成に向けた取り組みの推進状況は大きな向上をみせている。
また、SDGsが目的とする「持続可能な開発」は、多くの自治体で直面している課題と共通している事項が多いため、自治体においても積極的な取り組みの推進につながっているととらえることもできる。
自治体SDGs推進評価・調査検討会(内閣府設置)が実施した「SDGsに関する全国アンケート調査」では、2018年の調査では約5割となっていた「推進しておらず今後推進していく予定もない」との回答が、1年後の2019年には14.7%まで減少しており、取り組みの浸透が進んでいることがわかる。
2019年1月に『日経グローカル』が全国815市区を対象に調査し発表したSDGs先進度ランキングによると、1位京都市、2位北九州市、3位宇都宮市となるなど、政令指定都市や県庁所在地、東京都特別区などの大都市が上位となっており、いわゆる「消滅可能性都市」からは遠くに位置している都市が上位となっている。1位となった京都市では「歩いて楽しいまち・京都」を掲げ、道路の車線を減らして歩道を拡幅するなど、市内を車が走りにくいエリアにすることにより公共交通へのシフトを進めていることなどが評価された。なお山梨県内では10市が対象となったが、甲府市の129位が最上位となった。
SDGs達成に向けた自治体の取り組み推進状況
(4)本県の取り組み
本県では、2019年度採択分までで、SDGs未来都市やSDGs自治体モデル事業の採択を受けた自治体はなく、ジャパンSDGsアワードに表彰された県内に活動拠点を置く団体も今のところ表れてはいないが、活動活発化の兆候はいくつかみられる。
昨年9月にはSDGsの普及に取り組むNPO団体が創設され活躍している。今年に入ってからは、県内新聞の読者投稿コーナーにSDGsに関する甲府工業高校の生徒からの記事が連日掲載され、FMラジオの番組ではSDGsに取り組む県内企業が複数回紹介された。県内地銀では、達成を目指した「SDGs宣言」を発表している。
自治体でも、第2期地方版総合戦略において、多くの団体がSDGsの推進に言及している。甲府市、山梨市、北杜市、上野原市、甲州市、鳴沢村などでは、各目標や施策等がSDGsの17の目標のうち具体的にどれに結び付くのかを明示しており、いずれの自治体もSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」への意識が高くなっている。
3.本県におけるさらなる推進のために
人口減少問題や高齢化問題を抱える県内自治体では、SDGsが目指す「持続可能」に向けた取り組みを、今後、より強く推進していくことが期待されるところだが、自治体ではどのような手順で取り組んでいったらよいのか。
国土交通省の支援の下、一般財団法人建築環境・省エネルギー機構内に設置された「自治体SDGs検討小委員会」では、自治体がSDGsに取り組むためのガイドライン「私たちのまちにとってのSDGs(持続可能な開発目標)-導入のためのガイドライン-」を取りまとめている。その中では、取り組みのステップを、SDGsの理解から始まり、取組体制の構築、目標と指標の設定、アクションプログラムの策定、フォローアップと、5段階でまとめている。
ステップ1:SDGsを理解する
はじめに、SDGsについて知り、なぜ自治体において活動する必要があるのか、求められる役割は何かを把握する。
ステップ2:SDGs達成に向けた取り組み体制の構築
ローカルな課題とグローバルな課題の双方に取り組む上で、自治体の参加は欠かせず、その際、どのような主体とどのような連携の形が有効か検討し、目指すべき体制を構築していく。
ステップ3:優先的に取り組む目標・ターゲットの検討と指標の設定
持続可能なまちづくりの上で、自治体によって直面している課題は異なるため、各自治体が優先的に取り組むべき課題を明らかにし、達成すべき指標を設定しながら、取り組みの重点化を図っていく。
ステップ4:アクションプログラムの策定と実施
総合計画や個別計画へのSDGsの反映、あるいはSDGsに関する取り組みにかかる独自の計画の策定など、自治体ごとにSDGs達成のための政策目標、達成目標及び指標を組み込んだ具体的なプロセスを計画して実施していく。
ステップ5:進捗状況のフォローアップ
PDCAサイクルのようなフォローアップの仕組みを構築し、社会情勢に応じた見直しや、指標を用いた進捗状況の評価、考察を行い、目標や指標の修正を行う。
自治体がSDGsに取り組む際の手順
今後、県内自治体におけるSDGsのさらなる推進のためには、まずはSDGsを正しく理解する必要がある。SDGsとは何か、ゴールは何か、ゴールに向けて課題となっていることは何か、を理解すれば、現在、自治体が取り組んでいる多くの施策は、SDGsと密接に関連していることがわかるのではないだろうか。SDGsのために何か新しい事業を打ち出していかなければならないというわけではないことが見えてくるはずである。
そして、このガイドラインでは、自治体の最も大きな役割の一つとして、ステークホルダーを集めて、互いに連携を促し、円滑にプロジェクトが進むようマネジメントすることを挙げている。
「ステークホルダー」とは、関わりのある主体のことで、具体的には国、企業、各種団体、一般市民などが含まれる。地域におけるSDGsは、自治体だけで達成できるものではなく、自治体内の企業や住民一人ひとりが当事者意識を持ちながら、連携して取り組む必要がある。
県内で見られ始めた、SDGs推進の動きをより確かなものにするには、自治体が現在進めている政策を見つめ直し、どのようなステークホルダーが関係しているかを確認していくことが大切であると思われる。
SDGsの考え方の浸透が進めば、新しい連携やより深い連携が生まれることが期待される。その際、必ずしも地方自治体が中心になる必要はなく、地域でSDGsを推進するクラスターの一部を構成する役割でも構わない。
ステークホルダーの全員に「自分事」として当事者意識を持ってもらうことは容易ではないと思うが、時にはSDGsに積極的に取り組む主体にうまく巻き込まれながら、その推進を図ることが求められる。
4.終わりに
SDGs達成のための取り組みは、自治体ではすでに行っていることが多いとなると、明確にSDGsを打ち出して取り組む意義は何だろうか。
企業では、SDGsへ取り組むことは企業イメージにつながり、ひいては業績にまで影響することから、盛んな取り組みが行われているということは前述した。
一方、多くの自治体では「持続的発展」のため戦略やビジョンの策定に知恵を絞っているところであるが、SDGsの達成について考えることにより、持続可能に必要な目標とそれに対する課題を把握することにつなげることができ、「課題発掘と共有ツール」として活用できる。
例えば、行政のような大きな組織において、所属ごとの目的は何なのか、解決しないとならない課題は何なのかということについて意思統一を図ることは、施策の推進において非常に重要である。
そうした目的のためにも、まずはSDGsを利用して、自組織の目的や解決すべき課題を明確にして、組織内の意思統一を図るところから始めてはどうだろうか。そうすることでSDGsへの理解が深まるきっかけとなることが期待できる。
またこのことは、組織外への働きかけに関しても有用である。SDGsという世界共通のツールを用いることにより、自治体内の住民や企業、団体などに、どのようなゴールやターゲットを目指しているかを明確に示すことができ、このような情報へのアクセスを容易にすることで、取り組みへの参加を促すことができる。
SDGsについて難しくとらえる必要はない。ツールの一つとして積極的に利用し、持続可能なまちづくりの推進につなげていくことを期待したい。