山梨就職のすすめ


毎日新聞No.570 【令和2年8月9日発行】

 4月に地元新聞社から山梨総合研究所に出向した。若き日の夢でもあった毎日新聞に、寄稿の機会をいただき感慨深い。
 バブル景気の32年前、都内の大学に通いながら東京と山梨で就職活動を経験した。新聞記者は当時まだ人気職種で、競争倍率50倍も珍しくなかったが、運よく毎日新聞社と地元新聞社という国内最長の歴史を持つ2社から内定を受けた。
 「全国を駆け巡って記事を書きたい」という思い。「農家の長男だからいつかは戻らなければならない」という事情。悩み抜いた末に地元を選んだ。ワーク・ライフ・バランスは人それぞれ違うが、今も変わらぬテーマだろう。

 若者の東京圏流出を抑制するため、地域の研究・教育拠点を強化して県内進学者を増やす考え方がある。教育拠点の充実は歓迎だが、県外への進学を抑制する目的はいかがなものか。県内大学新卒者の県内就職内定率が3割であることを考えれば、それほど単純な図式にならないことは想像がつく。
 わが家の例で恐縮だが、2人の娘は都内の大学を卒業し、山梨で就職した。「大学時代は外へ出て広い視野を養うこと。学んだことを山梨に還元しよう」という親の願いに応えようとしてくれている。
 新型コロナ禍ではあるが、本人が希望し、家庭環境や経済的事情が許すなら、学生にはむしろ県外に出ることを勧めたい、と私は思う。都会であれ地方であれ、県外で生活することによって、山梨の良いところ、改善した方が良い点など見えてくるものがあるからだ。
 次女は2年前、有楽町のふるさと回帰支援センターを何度も訪れ、相談員の方々から情報を提供していただいたことが回帰の決め手になった。
 長女は「山梨では満員電車に乗らなくて済むし、何よりこの自然の豊かさが心地よい」と風土の良さが実感できるようになった。「子どものうちから山梨の自然に触れる機会を増やせば、大人になってもここで暮らしたい人は増えると思う」という。

 「魅力的な企業が少ない」ことを県外就職の理由に挙げる学生は多いが、先進的な取り組みをしている県内企業は少なくない。企業がもっと魅力を発信し、互いが歩み寄れば若者の県内就職率と活気は着実に高まるはずだ。

(山梨総合研究所 主任研究員 鷹野裕之