Vol.265-2 PPP/PFI事業の普及に向けた取り組みについて
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 小澤 陽介
1.はじめに
現在、日本では高度経済成長期に建築された施設を中心に、公共施設の老朽化が進んでいる。各自治体においては、公共施設の老朽化への対応が喫緊の課題であることは十分理解されているが、施設更新のための財政対応は極めて厳しい状況にある。あわせて少子高齢化による人口減少社会において、更新前と同規模の施設が果たして必要なのかという問題にも頭を悩ませている。
こうした問題に対応するため、現在内閣府を中心に政府ではPPP/PFI事業を推進している。PPP/PFI事業とは簡単に説明すると、官民が連携し、民間の知識を活用し、公共施設の建設や運営等を行うことだ。民間の建設や運営等のノウハウを活用することで、今までと同様の水準の公共サービスをコストを下げて提供することが狙いであり、日本全国の自治体が抱えている公共施設維持の悩みを解決するため、政府主導で急速に事業化が進められている。
政府は2019年度に改定されたPPP/PFIアクションプランにおいて、2013年度から22年度までの10年間で21兆円のPPP/PFI事業による事業規模目標を設定し、全国の自治体に対し、事業化のバックアップを進めていることから、今後PPP/PFI方式の事業は全国の自治体で広がりを見せる可能性が高い。
本稿では、PPP/PFI事業の詳細を整理し、日本の先進地での取り組みや、山梨県の状況を調査する中、PPP/PFI事業の今後の展望や可能性について考察する。
2.PPP/PFIとは
PPPの正式な表記は、Public Private Partnership(官民連携事業)である。官民連携事業の総称であり、次に説明するPFI以外にも指定管理者制度の導入、包括的民間委託、民間事業者への公有地の貸し出しなどの手段がある。
PFIの正式な表記は、Private Finance Initiative(民間資金等活用事業)である。庁舎や公営住宅、学校、上下水道等の整備等にあたって、従来のように公共団体が設計・建設・運営等の方法を決め、バラバラに発注するのではなく、どのような設計・建設・運営を行えば最も効率的かについて、民間事業者に提案競争させ、最も優れた民間事業者を選定し、設計から運営までを行わせ、資金調達も自ら行ってもらう制度である。
図1 従来型公共事業とPFI事業の違い

図1の通り、従来型の公共事業では公共が設計や建設、維持管理等を別々に年度毎発注するケースが中心であったが、PFI事業では一括で複数年度まとめて発注するため、コストや負担の大きな軽減につながる。
またPFIでは図2のような体系的な計画(スキーム)を適用し、メリットとして以下のものが挙げられる。
- 公共施設等が利用者から収入を得られるものである場合、より公共の負担が少なくなる可能性がある。
- 民間事業者に、公共施設等の整備や運営だけでなく、オフィス・売店等の収益施設を併設させ営業させれば、民間事業者がより収益を上げやすくなり、インセンティブ(報奨)となる。
図2 PFI事業のスキーム例

さらに図3のように公共施設等の運営権(公共が所有する公共施設等の運営を行い、当該施設の利用料金を自らの収入として収受する権利。コンセッションともいう。)を譲渡するコンセッション方式を用いた場合、民間事業者が長期に安定して公共施設等の運営・維持管理を行うことが可能となり、より民間の創意工夫が発揮できるようになる。
図3 コンセッション事業スキームイメージ

このように、PPP/PFI事業は、公共施設を有効に活用し民間活力により新たな事業を生み出していくという点で、官民の両者にとって非常に大きいメリットがある制度である。
しかしながら、PPP/PFI事業を行うためには、留意しなければならない以下の点がある。
- 選定事業者に一定のルールや要求水準を守らせるため、しっかりした実施方針(PFI法第5条)、要求水準書、事業契約(同法第14条)を作り、事業開始後もモニタリングすること。
- 官民の役割分担を明確にすること。
- 地元事業者等が出資した特別目的会社(SPC)や財務の安定した民間事業者に発注するなど、選定事業者の倒産リスクにも配慮すること。
- コンサルティングや出融資を行える官民ファンドの活用も検討すること。
などが推奨されている。PPP/PFI事業は長期契約のケースが多いことから、さまざまな視点からのリスクに備えておく必要が求められる。
まとめるにPPP/PFI事業は官民の連携により、従来型の公共事業と比べリスクはあるものの、両者にとって大きなメリットがあり、今後積極的な導入を検討すべき手法と言える。
3.PPP/PFIが求められる背景
(1)国の動向
1999年に成立したPFI法は、実施される事業を通し、試行錯誤を繰り返す中、法改正が行われた。直近では2018年に行われた法改正により、ワンストップ窓口、助言等の機能の強化、コンセッション形式や水道事業分野におけるPFI事業の導入をしやすいよう改正が行われた。特に助言等の機能の強化においては、詳細は後述とするが、内閣府を中心として、地域の関係者が主体となるPPP/PFIの推進を一層促進するため、地域の産官学金が集まって、PPP/PFI事業のノウハウ取得や官民対話を含めた情報交換等を行うPPP/PFI地域プラットフォーム制度が導入された。また冒頭でも述べた通り、PPP/PFIアクションプランが2019年度に改定された(図4)。改正PFI法に基づき、一部都市部を中心に実施されてきたPPP/PFI事業を地方部等でも積極的に取り組み、基本的にはすべての自治体で事業の検討が行える体制の支援も進められている。
図4 PPP/PFIアクションプラン(令和元年度改定版)概要

(2)なぜPPP/PFI事業に取り組むのか
冒頭でも述べた通り、日本のほとんどの自治体では、公共施設の老朽化が進む一方で、更新の財源を確保できない状態となっている。また自治体の人材という観点からも、高度化、専門化が進む社会課題に対応するには、常にマンパワーが不足している状態にある。こういった状況から、自治体における限られた財政や人材といった資源では、良好な公共サービスの維持・提供は困難となっている。
一方民間においては、特に建設業を中心に公共工事の減少や競争入札の普及により利益を確保できない状況となっている。また突出したサービスを提供している事業者もなかなか有効な事業機会に巡り合えず、事業の展開がうまくいっていないケースも見られる状況にある。
PPP/PFI事業は自治体にとっては財政負担の軽減、良好なサービスの維持提供、民間にとっては価格だけによらないサービス内容を重視した事業機会の確保といった「三方よし」の官民のお互いの課題をお互いに補える有効な制度である。特に東日本大震災や台風等により甚大な被害が立て続けに発生している近年では、避難拠点となる公共施設の重要性が極めて高まっており、PPP/PFI事業の活用による老朽化した公共施設の再整備が非常に注目されている。
4.各地のPPP/PFI動向
ここでは、PPP/PFI事業を以前から積極的に取り入れている自治体の先進的な取り組みを紹介する。
(1)福岡市の取り組み
日本におけるPPP/PFI事業の先進地の一つが福岡市ではないだろうか。1999年にPFI法がスタートすると2001年の7月には福岡市PFIガイドラインを策定し、PPPへの積極的な取り組みをスタートさせた。福岡市のホームページに掲載されている事業実績も15件と約1年に一つ事業を実施してきたことになる。
このように活発に事業が実施できる理由としては二つ考えられる。
一つは先ほど述べたガイドラインの制定といった制度の整備が挙げられる。ガイドライン以外にも2012年にはPPPへの取り組み方針を策定し、実務者向けガイドのPFIガイドブックや、民間事業者からの提案を積極的に受け入れるため、福岡市の対応方針(受付体制や対応方針、手続き等)を定めたPPP/PFI民間提案ガイドブックを制定している。こうした方針等をしっかり公表することで、民間事業者が安心し、積極的に事業提案が行える体制が整備されている。またこうした方針が制定されていることで、市も事業ごとに方針がぶれることなく、事業を進めることができるのではないだろうか。
二つ目としてPPPロングリスト・PPPショートリストについて触れておく。今後PFIを始めとしたPPPによる事業化の可能性がある事業を「PPPロングリスト」に、PPPによる事業化の可能性がある事業の内、事業手法検討業務委託や、事業化手続き業務委託を行うための予算が確定した事業を「PPPショートリスト」に掲載し、市のホームページに公表している(表1、表2抜粋)。
表1 PPPロングリスト その他施設

表2 PPPショートリスト

こういったかたちで市が具体的に時間軸を示してくれるのも民間事業者にとってはとてもありがたい話だ。今後長期的にどういった事業が出てくるのか、短期的に公募されそうな事業が何か目星がつくだけで民間事業者はどういった準備をしていけばいいか見えてくるので、準備の時間を十分にとることができる。ここまでの取り組みをしているのは日本の自治体でも非常に数が少ないが、こうした取り組みが活発な事業化につながっていると考えられる。
(2)横浜市の取り組み
福岡市と同様の取り組みを積極的に進めているのが横浜市だ。2003年にPFIのガイドラインを策定し、事業化を進めてきた。ホームページで確認される実施中および終了した事業は14件を数える。
横浜市では政策局共創推進室共創推進課において「共創フロント」と呼ばれる民間事業者からのPPP/PFI事業を含めた公民連携に関する相談・提案をいただく専用窓口を設置している。この窓口を通して実施された事業は数々の好事例を生んでおり、横浜市の賑わいを生む重要な役割を果たしている。2014年からみなとみらいで行われた「ピカチュウ大量発生チュウ!」というイベントがある。こちらのイベントは株式会社ポケモンと横浜市が提携を結び実現したイベントであり、大きなインバウンド効果を生んだ。こういったイベントは建物の建築が伴うわけではないが、官民が連携し、大きな効果を発生させているという点でPPPのひとつとも考えられるのではないだろうか。
5.山梨県の現状と取り組み
(1)県内の事業例
ここではまず山梨県での事業例を確認する。山梨県のホームページによると、山梨県で行われたPPP/PFI事業の例として、山梨県立中央病院駐車場整備運営事業と山梨県防災新館整備等事業が挙げられている。
① 山梨県立中央病院駐車場整備運営事業
こちらの事業は発注者を山梨県とし、初めて山梨県で実施されたPFI事業である。事業概要は図5の通りであるが、県立中央病院の整備とあわせて実施され、病院の慢性的な課題であった駐車場不足の対応に大きく貢献している。またPFI・BTO方式[1]を導入することで、財政負担を約3割縮減することもできた。
図5 山梨県立中央病院駐車場整備運営事業概要

② 山梨県防災新館整備等事業
こちらも①の事例同様、山梨県を発注者として実施された事業であり、詳細は図6の通りとなっている。山梨県の防災の拠点として建設され、中には警察本部や山梨県の災害対策部署等のオフィスや山梨の食材等を使用したオープンカフェが併設されている。PFI・BTO方式で実施され、山梨県の公表した資料によると財政負担を約35%縮減することができた。
図6 山梨県防災新館整備事業概要

山梨県が発注者となって実施された事業は上記の2件であり、先ほど紹介した福岡市や横浜市に比べると低調な実施状況となっている。これには以下のような理由が考えられる。
- 山梨県の自治体はPPP/PFI事業の経験が少なく、積極的に取り組めない。
- 事例の選定事業者を見ると大手ゼネコングループとなっており、ノウハウの乏しい地元事業者が参入するにはハードルが高い。
今後PPP/PFI事業を普及させていくためにはこういった課題に取り組んでいく必要がある。
(2)やまなしPPP/PFI地域プラットフォーム
こういったPPP/PFI事業拡大に向けた課題解決に取り組むため、山梨県と地域金融機関である山梨中央銀行は内閣府の支援を受け、2019年「やまなしPPP/PFI地域プラットフォーム」を設立した。山梨県内の地方公共団体における公共施設等の整備・維持管理・運営等に関し、地域の産官学間の連携の強化、地方公共団体及び民間事業者の能力の向上を図り、PPP/PFI事業の導入を促進することにより、効率的かつ効果的な公共施設の整備・運営及び良好なサービスの提供を確保し、もって地域経済の成長に寄与することを目的としている。19年には連携手法を学ぶセミナーを開催し、20年には山梨県で初めて公開サウンディング型調査[2]を実施した。山梨県内の自治体が積極的にPPP/PFI事業を実施できる体制整備を支援し、民間事業者のPPP/PFI事業への関心の向上に努めている。
6.終わりに
本稿では、今後積極的な事業化が進むと想定されるPPP/PFI事業について整理を行い、先進地域での取り組み、山梨県の現状や取り組みについて調査を行ってきた。今後は、老朽化が進む公共施設を多数抱える県内自治体においては、PPP/PFI事業への取り組みが不可欠である。しかし事例数の少ない山梨においては、自治体のノウハウも限られており、積極的な取り組みが難しいと考えられる。今後は、「やまなしPPP/PFI地域プラットフォーム」が主体となり、県内自治体がPPP/PFI事業に取り組みやすい支援の体制を整備し、通常の業務としてPPP/PFIの事業化が進められるよう、各機関が連携を深めることをぜひ期待したい。
〈 参考・引用資料 〉
「PPP/PFIの概要」内閣府
「PPP/PFI推進アクションプラン(令和元年度改定版)概要」内閣府
「PPPロングリスト」「PPPショートリスト」福岡市
「ポケモン事例」横浜市
「PFI事業情報事業詳細(山梨県)」内閣府
「山梨県防災新館整備等事業(PFI事業)」山梨県
[1] BTO方式…PFIの事業方式の一つで、民間事業者が自らの資金で対象施設を建設し(Build)、完成後すぐに公共に所有権を移転するが(Transfer)、維持運営は民間で行う(Operate)形式のこと。
[2] サウンディング型調査…市有地などの有効活用に向けた検討にあたって、活用方法について民間事業者から広く意見、提案を求め、「対話」を通じて市場性等を把握する調査