キャンペーンのその先へ


毎日新聞No.573 【令和2年9月20日発行】

 コロナ禍により、8月の訪日外国人数(インバウンド)は前年同月比99.7%減の8,700人となった(日本政府観光局(JNTO)推計値)。99%以上の減少は4か月連続であり、観光業界へのダメージの大きさは想像に難くない。
 個人消費にも大きな影を落とす。総務省統計局の家計調査(7月)によると、「食事代」、「飲酒代」、「パック旅行代」などが前年比大幅減となっている。
 政府や各地方自治体は「Go Toトラベル」や地域共通クーポンなどで、消費の喚起を図っている。甲府市の「甲府に泊まろう」「がんばろう甲府!最大30%戻ってくる」等のキャンペーン、富士河口湖町の「富士河口湖割引クーポン」等のクーポン発行など、県内各市町村でも小売、観光業への支援に懸命だ。
 それに伴う消費が一過性で終わるのか、リピーター化できるのかは店舗、施設の腕の見せどころだ。明暗を分けるのはファンをどれだけつくれるか、ではないだろうか。一度の宿泊、数分の買い物でファンをつくれというのは酷だが、人間の第一印象のように、案外、一瞬で今後、その店で買い物をするかどうかが決まるのかもしれない。

 観光業では、国内に顧客がいた(インバウンド頼みではなかった)業者、飲食・小売業では地域に顧客がいた業者は致命的なダメージは受けていないといわれている。懇意にする店や宿泊施設を救おうと、積極的に利用したりクラウドファンディングに参加したりするケースも目立つ。
 筆者も甲府市のキャンペーンを機に訪れたことのない店で買い物をした一人だ。私見を述べると、初めて買い物をした個人店4店のうち、再訪したいと思ったのは3店舗。決め手は①新しい工夫・努力が垣間見える②店と店主の雰囲気がよくまた話したいと思わせる③購入商品の内容が期待以上に良い―だった。
 要は、一度ファンになれば、経営者と同じ目線になって顧客も店を盛り上げるために何かしらの行動を起こすということだ。筆者には20年以上にわたりお付き合いさせてもらっているアパレル店があるが、「馴染みの店」の存在は暮らしを豊かにしてくれることさえある。

 観光ではソーシャル・ディスタンシングとの両立が求められる中、「数」から「質」へのシフトを余儀なくされている。具体的には客単価を上げ、リピート回数を増やすことが必要だ。そのためにはITを駆使しながらも、観光客の五感に訴え心をつかむ方策が求められる。
 割引キャンペーン終了後にも行きたくなるような「おもてなし」が、今まで以上に試されている。

(山梨総合研究所 主任研究員 渡辺たま緒