VOL.123 「100年」
5年に1度の国勢調査が9月14日始まった。今回の国勢調査は21回目で、大正9(1920)年に第1回が実施されてから、100年目の節目となる。実は、その起源が山梨県と関わりがあることをご存じだろうか。
国勢調査が行われるようになるまで、日本において全国民を対象とした人口調査は実施されておらず、人口の統計資料としては、戸籍を基礎とした、死亡・出生等の届け出による推計人口のみであった。そのような中、「日本近代統計の祖」と称される杉亨二が「日本が一等国となるために、政府が国民のことを把握しなければならない」と人口調査の重要性を主張し、調査の手法や問題点を探るための予備調査として、明治12(1879)年に当時の甲斐国、現在の山梨県において、「甲斐国現在人別調(かいのくにげんざいにんべつしらべ)」という人口調査が実施されたのである。この調査は現在の国勢調査と同じく、調査員が各世帯を調査する形式で、これが国勢調査の先駆けとなったという。ちなみに、調査の結果としては人口が397,416人で、現在の山梨県の半分程度であった。
予備調査として実施された「甲斐国現在人別調」であったが、最初の国勢調査が実現したのはそれからおよそ40年後のことで、それまでに長い時間を要することとなった。しかし、国勢調査が行われるようになってからは、現在まで100年もの間、唯一調査が中止された昭和20(1945)年を除き、国の最も重要な調査として連綿と続けられてきたのである。これは杉亨二が説いた人口調査の重要性が理解された結果なのだろう。
統計資料というのは地味であまり目立たない存在かもしれないが、行政の政策立案や、企業のビジネス展開において必要不可欠なものである。特に国勢調査のデータに関しては、どの自治体の総合計画を見ても最初に分析がされており、各自治体が国勢調査を重要な基礎資料として捉えていることが分かる。私自身、業務で統計資料を数多く見るようになり、その重要性を強く感じているところだ。
しかし、近年のプライバシー意識の高まりから、国勢調査の未回収率は増加傾向にあり、その信頼性の低下が懸念されている。平成12(2000)年調査時の未回収率が1.7%だったのに対し、前回の平成27(2015)年調査時は13.1%と、10ポイント以上も増加した。また、今回は新型コロナウイルスの影響により、調査員との対人接触を避けようと考える人が増え、さらに未回収率が上がるという声もある。総務省では前回から本格的に始まったオンライン回答について、割合の引き上げを図るなどの対策を行っているそうだが、回収率の改善につながるかは不透明だ。
今年はコロナ禍の中での国勢調査となり、人口動向にも大きな影響があるだろう。8月に公表された7月の人口移動報告では、集計に外国人を加えた2013年7月以来初めて、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)から他の道府県への転出が、転入を上回る「転出超過」となったというデータもあり、今回の国勢調査の結果は、ウィズコロナ・アフターコロナ時代への転換を象徴する一つの指標になると考えられる。回収率を改善し、調査結果の信頼性を担保するためにも、かつて杉亨二が説いたように、回答する国民がその重要性をあらためて認識することが必要なのではないだろうか。
山梨総合研究所 研究員 清水 洋介