「しなやか」な自治体


毎日新聞No.577 【令和2年11月15日発行】

 今年9月にスタートした菅政権は、早速様々な規制改革に取り組んでいる。先日行われた初の所信表明演説での「縦割り打破」の言葉にもその意気込みがうかがえる。それは、これまでの分野別に細分化された目標設定や施策では、もはや多様化複雑化する社会のニーズに応えることが難しくなってきたことの表れでもあろう。

 例えば、毎年全国各地で大規模な自然災害が発生する中で、日常生活や社会経済活動への大きな打撃、さらには私たちの生命に危険を及ぼすような「最悪の事態」を回避することを目的として、国では各自治体による「国土強靱化地域計画」の策定を推進してきた。この計画は防災という一分野ではなく、自治体において関連する様々な計画等の指針となる「アンブレラ計画」、つまり傘のように計画全体を包含するものとして位置づけられている。
 この「強靱化」という聞き慣れない言葉は、復元力や回復力、弾力を意味する英語の「レジリエンス」に由来する。身体に例えるならば、分野別の施策という個々の筋肉を鍛えることに加え,それらを相互に連携しながら、不測の事態に柔軟に対応できる体幹を鍛えることである。人口減少や少子高齢化などによる地域コミュニティの弱体化が進む中、自治体には限られた財源で個々の筋肉を強化するだけではなく、住民や民間事業者などの多様な主体と連携しながら、そのニーズに合わせて行政という身体全体を使いこなす「しなやかさ」が求められている。
 今年度、我々もいくつかの自治体でこの計画策定に携わっているが、各担当部署は個々の筋肉を鍛えることには慣れていても、「最悪の事態」をイメージしそれを回避するための方策を個々の分野から考えることには苦戦しているようである。また、個々の分野を超えた計画の推進体制を整備することも今後の課題のひとつである。

 縦割りを打破することは決して目的ではなく、社会のニーズや変化に柔軟に応える「しなやかさ」を得るための手段の一つに過ぎない。むしろ、これからの自治体に求められるのは、従来の縦割りのしくみを最大限に活かしながら、それらを編み物のように横に紡いでいく新たなしくみづくりなのである。

(山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤 文昭)