VOL.125 2,604万本
「あつ森」をご存じだろうか。任天堂株式会社から発売されているゲームソフト「どうぶつの森」シリーズの最新作で、今年の3月に発売された「あつまれ どうぶつの森」の略称である。今月公表された2021年3月第2四半期決算説明資料によると、新型コロナウイルスによる巣ごもり需要も後押しし、累計販売本数は全世界で2,604万本のヒット作となっている。ゲーム内容は、手付かずの無人島で生活をスタートし、島内での暮らしを自分が形作り、そこに集まる動物たちと関わり合いながら、賑わいのある島での生活を過ごす。プレイヤー次第で変わる様々な島ライフは子どもから大人まで楽しめる内容となっており、我が家の娘もこの島づくりに熱中している。
「何もないから、なんでもできる」というこのゲームのキャッチコピーのもと、多様な島ライフを楽しむとともに、現実世界を巻き込んだ様々な可能性を提供している。その1つとして、自分がデザインした衣装などをオンライン上で他のプレイヤーに公開できる機能がある。その機能を利用して様々な企業などが自らデザインした作品を配付し、自社の製品のPRに活用している。また、ニューヨークのメトロポリタン美術館ではデジタル化した収蔵作品について「あつ森」へのシェア機能を導入している。さらに、東京消防庁では「あつ森」の中で「ボウサイ島」と名付けた島をつくり、その島生活の中で災害に対する備えなどについてSNSで発信するなど、防災活動の啓発にも活用されている。
これまでもゲーム内で企業等が宣伝活動をすることは多々見られてきたが、これほど多くの人がプレイするゲームにおいて、多様な業種が自由にそして簡単にゲーム世界で宣伝活動に参入することはなかったのではないだろうか。いずれにしても全世界で2,604万本を売り上げている「あつ森」の情報発信力は侮ることができないものとなっている。
そのような中で、イ草の生産量日本一で知られる熊本県八代市では、市町村で初めて「あつ森」をPRに活用し、若手職員が「やつしろたたみ島」をつくり、イ草や市内の観光名所を紹介している。担当者に問い合わせたところ他の自治体からの問い合わせも複数寄せられているとのことであり、今後さらに「あつ森」を利用した自治体のPR活動が増えてくるかもしれない。
過去においては、何か情報発信したい場合は、新聞やテレビ・ラジオ・雑誌などの限られた媒体が主流となっていたが、現在では多種多様な方法があふれ、その趨勢も激しさを増している。多くの人の目にとまり、興味を抱いてもらうための情報発信をしていくことがますます難しくなる中で、常に世間の動きを見て、新しい発想で情報を発信していく姿勢が、今後さらに必要となっていくであろう。
山梨総合研究所 主任研究員 河野彰夫