「鬼退治」舞台の明暗は?
毎日新聞No.579 【令和2年12月13日発行】
「鬼滅の刃」の快進撃が止まらない。11月30日に発表された「オリコン年間コミックランキング 2020 作品別」で2年連続の第1位になったほか、アニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は公開から52日間で興行収入が288億4888万円と、洋画を含めた興収ランキング(興行通信社調べ)で歴代2位となった。流行語大賞へのランクイン、コラボ商品の発売、全国紙への登場人物別の全面広告掲載と、まさに破竹の勢いである。
「鬼滅の刃」は大正時代を舞台に、鬼に家族を殺された少年が、人間を鬼から守るために、また、鬼にされてしまった妹を人間に戻すため剣士となって戦う物語。「週刊少年ジャンプ」の連載漫画が2016年に始まり、2019年のテレビアニメ放送で人気に拍車をかけた。家族愛や友情を軸にしながらも、鬼退治の勧善懲悪だけで終わらない。アニメや漫画の中では、鬼が灰と散る際に(鬼になる以前の)自分が人間だったころを走馬灯のように思い起こす場面が登場する。あるきっかけで鬼の道へと進んでしまった哀情が丁寧に描かれている部分が、子どもだけでなく大人たちの共感を呼んでいるのではないだろうか。
主人公・竈門炭治郎と妹・禰豆子の故郷は、山梨県丹波山村と東京都、埼玉県にまたがる雲取山(標高2017㍍)とされる。炭治郎が家族と炭焼きをして暮らす場面は、かつて炭焼きが盛んだった丹波山村と重なる。少子高齢化が進む中、ジビエ料理やキノコ栽培など、今あるモノ・コトを組み合わせながら新たな境地を模索している村に、「聖地巡礼」で訪れる人が少しでも増えることを期待したい。
さて、鬼退治といえば、桃太郎伝説のある大月市では心配な話題がある。物語の舞台、鬼のすみかである岩殿山(標高634㍍)は、富士山の眺望が美しい初心者向けの山として年間4万人超の登山客を集めていたが、「鏡岩」と呼ばれる大岩壁の剥落により、昨年8月から主要ルートの通行止めが続く。報道によれば、安全対策の工事には数億円かかる見通しで、復旧のめどは立っていないという。
地元にとっては首都圏からの登山客を受け入れる貴重な観光資源であり、コロナ禍で自然、登山といった場所、モノ、コトに人々の関心が高まっている中、どうすればこの苦境を乗り越えられるか、「全集中」で最善の策が導かれることを願ってやまない。
(山梨総合研究所 主任研究員 渡辺 たま緒)