Vol.269-2 ウィズコロナ時代の企業戦略 ~9月実施のアンケートから~


公益財団法人 山梨総合研究所
専務理事 村田 俊也

 新型コロナウイルスが発見されてから1年が過ぎた。わが国では、第3波といわれる感染拡大期にある。
 緊急事態宣言による休業要請や新型コロナウイルス対策融資、持続化給付金等の資金支援、GoToキャンペーンをはじめとする需要喚起策など、経済を巡ってはさまざまな動きがみられたが、事業活動には多大な影響が生じている。
 こうした中で、弊財団では、9月に、甲府商工会議所、富士吉田商工会議所、やまなし産業支援機構、やまなし観光推進機構と共同で、今後の事業経営や政策展開、自治体経営の参考としていただくことを目的として、事業者の方に、感染拡大に伴う影響・対応策とともに、今後の事業戦略、山梨県が目指すべき地域づくりの姿など、事業、地域の将来に関するご意見・想いをうかがうアンケートを実施した。ここでは、その概要を報告するとともに、厳しい状況にありながらも積極経営を模索する事業者の視点・戦略を探ってみる。
※今回の発表は、弊財団伊藤賢造主任研究員、鷹野裕之主任研究員、清水洋介研究員との共同研究を紹介するものである。

【調査の概要】

■調査対象
 山梨県内に所在する企業のうち、甲府商工会議所、富士吉田商工会議所、やまなし産業支援機構、やまなし観光推進機構のいずれかに所属している企業(団体)

■調査方法
 WEBアンケートによる

■回答数
 258(製造業71社、卸売・小売業59社、宿泊業39社、飲食・サービス業17社等)

■調査期間
 令和2年9月4日~令和2年10月2日

注)グラフ内のnは、回答者数を表します。

  

1.コロナ感染拡大の影響

 まず、スポットではあるが、前年同月と比べた令和27月の売上高について尋ねたところ、「50%以上減少」が29.4%と最も多く、次いで「2050%未満減少」が28.6%となり、半数を超える事業者が感染拡大により大きなマイナス影響を受けている結果となった。一方、増加と回答した事業者も、9.4%あった(5%未満の増加については「横ばい」とみなし除外)
 同様に、前年同月と比べた令和2年7月の営業利益について尋ねたところ、「黒字から赤字になった」が37.1%と最も多く、次いで「赤字が増加した」が22.9%となった。
 また、「黒字から赤字になった」、「赤字のまま横ばい」、「赤字のままだが、赤字の幅が減少した」、「赤字が増加した」を合わせた赤字68.2%となった一方で、「黒字が増加した」、「黒字は減少したが、黒字を維持している」、「黒字のまま横ばい」、「赤字から黒字になった」を合わせた“黒字”については、31.8%となった。
 なお、「黒字が増加した」、「赤字から黒字になった」、「赤字のままだが、赤字の幅が減少した」を合わせた改善方向7.3%みられた。
 こうしてみると、多くの事業者でマイナスの影響が生じたものの、特需の発生などもみられたことから、製造業や情報通信業などでは増収や増益となった事業者も散見されている。

 

 

 

2.動きだす事業者

 こうした中、事業者は、今後どのように社会の動きを予想し、事業を展開しようとしているのか。
 新型コロナウイルスの収束時期については、「2022年度(今後2年以内)」が32.6%、「2021年度後半」が29.1%と、まだ12年先との見方が6割を超えるものの、事業(経営)方針について、32.6%の事業者は「既に見直しをして(始めて)」おり、今後(3~5年)における事業展開については、「現状維持」が47.7%と半数弱を占めつつ、「拡大する」事業者も28.7%存在する。

 

 3.事業拡大を図る事業者の視点

 こうした、時代の動きを素早く見定め、事業(経営)方針を柔軟に変更し、事業の存続のみならず拡大を図る事業者は、どこに注目しているのだろうか。
 ここからは、「事業を拡大する」事業者(以下、「拡大事業者」という)の回答を、「事業を縮小する、事業譲渡・廃業を検討する」事業者(同「縮小事業者」)と比較し、事業経営のヒントを探ってみる。

 

(1)人々の価値観や行動の変化

 まずは、「今回の新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、人々の価値観や行動はどう変わっていくか」ということである。
 これについて、上位3項目をみると、拡大事業者は「衛生・安全に対する関心が高まる」、「健康志向が高まる」、「地方での生活に対する関心が高まる」の順となっているのに対して、縮小事業者は「衛生・安全に対する関心が高まる」、「対面によるコミュニケーションを避けるようになる」、「家族や自分一人で過ごす時間を大事にするようになる」の順と、1位は同項目となっている。
 拡大事業者と縮小事業者の比率において10ポイント以上差がある項目をみると、拡大事業者は、「衛生・安全に対する関心が高まる」、「地方での生活に対する関心が高まる」、「健康志向が高まる」といった項目で比率が高く、縮小事業者は、「対面によるコミュニケーションを避けるようになる」、「外出を控えるようになる」といった項目で比率が高い。
 これをみると、拡大事業者は、「〇〇が高まる」という「ニーズが発生する、増える向きの“攻め」の表現を選び、縮小事業者は「避ける」、「控える」というどちらかというと「消極的な“守り」の言葉を選択しているように思える。

 

 

(2)社会の変化

 次に、「今回の新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、社会はどう変わっていくか」という項目を尋ねた。
 これについて、上位3項目をみると、拡大事業者は「オンラインストア・ネット通販の需要が拡大する」、「キャッシュレス化が進む」、「ペーパーレス化が進む」の順となっているのに対して、縮小事業者は「オンラインストア・ネット通販の需要が拡大する」、「キャッシュレス化が進む」、「都市部から地方へ人口の分散が進む」の順と、1位、2位は同項目となっている。
 拡大事業者と縮小事業者の比率において10ポイント以上差がある項目をみると、拡大事業者は、「オンラインストア・ネット通販の需要が拡大する」、「在宅勤務やワーケーションなど場所に縛られない勤務形態が進む」、「ペーパーレス化が進む」、「感染予防コストの増大により、国や自治体財政がさらにひっ迫する」、「VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用したサービスが拡大する」などで比率が高くなっている。一方、縮小事業者は、「失業者の増加により、社会不安が高まる」、「人が大勢集まるようなイベントが行われなくなる」、「実店舗の無人化が進む」、「兼業・副業が一般化する」などで比率が高くなっている。
 これをみると、拡大事業者は、IT技術の発達に伴う新たな取り組みに注目し、コロナ禍を契機とした社会の変化は後戻りしない、との見方もできよう。一方、縮小事業者の多くが選択した項目は、人の動きや雇用に焦点が感じられる。

  

(3)拡大が予想される市場分野

 次は、「今後、どのような分野が拡大していく(拡大スピードが速まる)と思うか」という設問である。
 これについて、上位3項目をみると、拡大事業者は「オンラインストア・EC(電子商取引)サイト」、「ビデオ会議などのオンラインコミュニケーション」、「公衆衛生の向上に寄与する商品・サービス」の順となっているのに対して、縮小事業者は「ビデオ会議などのオンラインコミュニケーション」、「オンラインストア・EC(電子商取引)サイト」、「宅配などデリバリーサービス」・「公衆衛生の向上に寄与する商品・サービス」・「ファクトリーオートメーション・産業ロボット」(3位は同率)の順となっており、順位の違いはあるものの、同様の項目が並んでいる。
 拡大事業者と縮小事業者の比率において10ポイント以上差がある項目をみると、拡大事業者は、「オンラインストア・EC(電子商取引)サイト」、「公衆衛生の向上に寄与する商品・サービス」、「アウトドアレジャー」、「VR(仮想現実)、映像配信を利用したイベント・スポーツ観戦」などで比率が高くなっている。一方、縮小事業者は、「ファクトリーオートメーション・産業ロボット」、「運転支援・自動運転」などで比率が高くなっている。
 これをみると、拡大事業者と縮小事業者における回答傾向に大きな違いが見つけにくいが、一つの側面として、拡大事業者は、新たな消費市場の拡大に関する項目での比率が、縮小事業者は、コスト削減や採用難等を背景とした雇用課題の解決に向けた項目での比率が高いと言うことができるのではないだろうか。

  

(4)事業(経営)方針の見直し

 次は、「事業(経営)方針の見直し」についての設問である。
 今後(3~5年)における事業(経営)方針について、「既に見直しをしている(始めている)」が32.6%、「見直しをする予定がある」が28.3%と、全体の60.9%が事業(経営)方針の見直しを既に実施ないしは実施を予定しているが、どんな内容であるか、尋ねてみた。
 これについて、上位3項目をみると、拡大事業者は「新たな顧客ニーズを探るため、マーケティング機能を拡充する」、「既存事業と関連する事業(類似分野)に参入する」、「人との接触を減らす設備投資を積極化する」・「短時間勤務や副業など働き方の多様化を進める」(3位は同率)の順となっているのに対して、縮小事業者は「事業分野は変えないものの、メインターゲットを変更する」、「省人化・合理化投資を進める」・「既存事業の一部を取りやめる」(2位は同率)の順と、まったく違う項目になっている。
 拡大事業者と縮小事業者の比率において10ポイント以上差がある項目をみると、拡大事業者は、「新たな顧客ニーズを探るため、マーケティング機能を拡充する」、「事業分野は変えないものの、非接触対応などの感染対策を進める」、「IT(情報技術)関連部門を強化する」、「人との接触を減らす設備投資を積極化する」、「短時間勤務や副業など働き方の多様化を進める」、「既存事業とは全く違う新たな事業分野に参入する」、「従業員のメンタルケア対策を強化する」、「ICT(情報通信技術)を活用した遠隔での事業・生産活動を推進する」、「在宅勤務を推進する」、「リスク対策の観点から、サプライチェーンの見直しを進める」といった多くの分野で比率が高くなっている。一方、縮小事業者は、「事業分野は変えないものの、メインターゲットを変更する」、「既存事業の一部を取りやめる」といった項目で比率が高くなっているほか、「販売拠点を整理する」も8.9ポイント差と比較的高くなっている。
 これをみると、拡大事業者では、雇用対策、リスク対策を進める中で、マーケット調査を十分に行い、新たな事業分野への参入や新たな技術、考え方を積極的に導入しようとする姿勢がうかがえる。これに対して縮小事業者は、当然ではあるが、現行市場から撤退する方向の選択が多くなっている。

 

(5)行政に期待する対応

 最後に、「新型コロナウイルス感染症に関して、国や県等の行政に期待する対応はあるか」という設問である。
 これについて、上位3項目をみると、拡大事業者は「減税措置」、「検査体制・医療体制の強化」、「設備投資に関する支援」の順となっているのに対して、縮小事業者は「減税措置」、「検査体制・医療体制の強化」、「雇用維持に関する支援」の順と、1位、2位は同項目となっている。
 拡大事業者と縮小事業者の比率において10ポイント以上差がある項目をみると、拡大事業者はなく、「設備投資に関する支援」で9.2ポイント差と比較的比率が高くなっている程度である。一方、縮小事業者は、「運転資金に関する支援」、「マスク・消毒液等の感染予防品の支援」で比率が高くなっているほか、「特にない」、「その他」を除く全選択肢8項目のうち「減税措置」、「検査体制・医療体制の強化」、「雇用維持に関する支援」、「家賃等賃料の支払いに関する支援」、「失業者等に対する手当等の支援」を含めた実に7項目で拡大事業者、現状維持事業者の比率を上回っている。
 また、1事業者あたりの選択項目数は拡大事業者が3.7項目であるのに対して、縮小事業者は4.2項目となっているほか、「特にない」の選択は、拡大事業者に少数ながらみられるものの、縮小事業者にはない。
 こうしてみると、拡大事業者は行政支援について相対的に多くを望んでおらず、設備投資に対する支援が中心と、前向き・積極姿勢を反映した内容となっている。

 

 4.事業拡大を狙う経営者像

 以上の設問について、拡大事業者と縮小事業者の回答状況を整理すると、次のようになる。

  拡大事業者の特徴をまとめてみると、「拡大事業者は、人々の価値観や行動の変化について『ニーズが発生する、増える向きの“攻め』の視点から観察し、社会の変化について『コロナ禍を契機とした社会の変化は後戻りしない』という考えのもとで、『IT技術の発達に伴う新たな取り組み』に関心を示している。また、今後、拡大が予想される市場分野として『消費市場』に注目し、行政支援については『相対的に多くを望まず前向きな資金支援』程度で、『雇用対策、リスク対策を進める中で、マーケット調査を十分に行い、新たな事業分野への参入や新たな技術、考え方を積極的に導入』する方向で事業(経営)方針の見直しを進めている」。一つの見方ではあるが、今回のアンケートから、積極的に事業拡大を狙う経営者像は、このようにまとめることができよう。

  

5.おわりに(私見)

 以上、事業拡大を狙う経営者が、ウィズコロナ時代に、どのような企業戦略を考えているのか、アンケートからうかがえる姿を追ってみた。新型コロナウイルスの感染拡大に収束が見えず、実際に事業を営んでいる方々のご苦労は私どもでは到底想像できないレベルだと感じており、地域の調査研究機関ができることは限られているが、今回の報告が事業経営における何らかのヒントになれば、ありがたいと感じる。

 事業経営は、新型コロナウイルスの感染拡大の収束時期を考慮すると、まだまだ厳しい状況が続くと想定される。一方、多くの自治体で財政状況が近年ひっ迫する中で、来年度は税収が大幅に落ち込み、給付金の支給をはじめ今年度のような事業者への支援、雇用者への支援は期待できないかもしれない。しかし、このまま支援がないと、事業の清算・倒産の多発と失業者の大量発生といった事態が現実味を帯びてくる。こうした状況の中で、事業継続に必要な資金支援のための何か新しい取り組みが私たちにはできないだろうか。
 たとえば、であるが、こうした厳しい状況でも、増収増益の事業者がいれば、所得の減少に苦しんでいない労働者(家計)も存在する。こうした方々に協力を求め、永久債(もしくは、50年、100年程度の超々長期債)の形で、使用目的を特定した「コロナ支援債」のような商品の発行が検討できないだろうか。
 税務署を含めた行政機関や民間調査機関にご協力いただき、「比較的困っていない事業者や労働者の方々」に強力に働き掛け、こうした債券を事業者であれば余剰金から、家計であれば預貯金から購入していただく(本来債券の購入として使われない資金で買っていただく)。債券は自治体で発行し、超々長期債の場合は保証機関として地元有力機関も参加し、地域としてリスク(新型コロナウイルス感染拡大で受けた痛み)を分散・共有する。「コロナ支援債」で集まった資金は事業者への給付金(補助金)に充当し、債券の利息については行政が負担する。また、利息以外の「地域での優待」(たとえば希少商品・サービスの優先購入権など)を、地域の事業者が協力する形で付与する。行政の当面の負担は利息のみであり、財政資金による直接的な給付と比べてより多くの給付を行うことができる。債券の償還原資は長期で分割して毎年確保し、一部償還を実施する。なお、流通市場を立ち上げ、中途換金も可能とする。 

 あくまで私見であり、法令上の制約から現実的ではないかもしれないが、国難とも囁かれる状況の中、皆で知恵を出し合って、総力を挙げて地域経済の維持、地域社会の存続を図っていくという機運が高まることを望みたい。