Vol.271-2 これからの自治会活動のヒント


公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 渡邉たま緒

はじめに

 筆者はこれまで自治会活動の今後に向けて考察を続けてきた。昨年初め以降、新型コロナウイルス感染症により、自治会活動を縮小させた地域も多く、その結果として、「活動を縮小させても、不都合がなかった」、「今まで無駄な会合をしていたことがよく分かった」などの声が聞こえる一方で、「地域のつながりがなくなってしまう」といった危惧の声や、「集まれないのは何となく寂しい」といった意見もある。
 「自治会は今後、どうあるべきか」-。このテーマで書いてきたレポートで、全国から様々な相談や意見をいただき、多少の違いこそあれ、自治会には「担い手不足」、「維持困難」、「多様化する日常とのギャップ」、「行政との関係」などの課題が全国共通に存在することが浮き彫りとなった。
 これらの課題解決には、残念ながら特効薬はない。しかし、現状を多少でも打開するヒントは見つけた。
 今回のレポートは、そのヒントについて紹介するとともに、筆者が昨年度、甲府市内の全自治会516に対して実施したアンケートを改めて分析しながら、自治会の目指す今後のいくつかの方向性を探っていく。

 

これまでの考察の振り返り

 これまでの自治会に関する取組では、主に山梨県甲府市をモデルに考察を行ってきた。同市は、高齢化率が約30%と高く、また、自治会の加入世帯が年々減少している自治体である。この甲府市内を市で設定している日常生活圏域(5地域)で見ると、高齢化率が約40%に至る地域も存在し、この地域で超高齢化が進行するひとつの自治会では2年前、「解散」という決断を下した。
 一方、山梨県東部に位置する都留市では、自治会運営が困難になりつつある現状を受け、その実態を探り、今後の方向性を検討する資料とするべく平成31年に初めてアンケートを実施し、今後の在り方を探っている。また、埼玉県越谷市の自治会連合会では、市が連合会や支部(地区の連合会)に、加入促進のための補助金50万円を用意、各自治会がそれぞれ知恵をしぼり、自治会加入者が商店街での買い物で優遇される「優待カード」をつくり、自治会加入のインセンティブを付与するなどの取組をしている。
 そのほか、長野県の中山間地域で組織見直し検討委員会を立ち上げるといった動きや、これまで自治会に協力依頼してきた配付物をアウトソーシング(民間事業者等に委託)するなどの対策を始めている行政が増えている実態等についても確認をしてきた。
 解散、改革―。それぞれの方向に向かって歩み始めている自治会だが、今後、何をゴールとすればよいのか、その進むべき方向は定まっていない。また、多様な課題があるなか、そのゴールは自治会によって違ってくるだろう。

 

自治会の役割とは

 今後の方向性を探るために、まず、自治会の役割について確認しておきたい。市町村によって多少の違いがあるものの、基本的にはⅠ相互扶助的機能、Ⅱ環境美化的機能、Ⅲ親睦機能、Ⅳ地域歴史・文化継承機能、Ⅴその他(組織運営)に分けられる。このうちⅣの地域歴史・文化継承機能以外は全てなにかしらの行政への協力を伴う位置づけとなっている(図表1)。

 

図表1 自治会の活動と行政への協力内容

 

甲府市の自治会アンケート詳細分析

 次に、今後の活動のヒントを探るべく、昨年、筆者が甲府市の全自治会に対して行ったアンケートの詳細分析を行った。なお、アンケートについては、配付数516自治会のうち、380自治会からの回答があり、回収率は73.6%。詳細分析を行うにあたり、無回答等は除いて集計した。
 分析では、自治会アンケートで挙げられたいくつかの課題が、他の設問とどう関連しているかを確認するために多変量解析を行い、「自治会全体が高齢化して、活動に支障が出ているか」の回答と、区域や報酬の有無、他の課題がどう関係しているかを確認した。その結果、「自治会区域」、「役員手当(会長)の有無」、「行事、活動等の参加者が少ない」および「役員の担い手が少ない」について強い相関が、また、「自治会規模(世帯数)」、「活動がマンネリ化している」、「自治会内の意見の調整が難しい」については弱い相関がみられた(図表2)。
 一方で、「役員の負担が大きい」、「役員の活動日数」、「新しく越してきた若い人たちが加入しない(未加入世帯が増加している)」、「自治会活動に関する必要な情報が得られない」、「予算が足りない」、「行政からの依頼が多い」については、活動への支障との相関はみられなかった。

図表2:「自治会全体が高齢化して、活動に支障が出ているか」の回答との関連数値

※カイ二乗値:(((観測度数-期待度数)の2乗)÷期待度数)の総和
※p値:実際に観測された分布が理論的に予想される分布にどれだけ近づいているかを表す確率。一般にこの値が5%未満(p < 0.05)の場合にデータには「統計学的に有意な差がある」とされる。
※カイ二乗検定:何かが発生する頻度(度数)について偏りがあるかどうかを調べる手法。理論的に予想されるデータの分布と実際に観測されたデータの分布がほぼ同じかどうかをカイ二乗値とp値から検証する。ここでは、*が2つ以上で高度に有意であることを示す。

 

 なお、自治会区域で、活動に支障が出ていると関連があった「甲府市北部」と「甲府市中央部」の高齢化率を確認すると約40%となっていた。前述した自治会解散を決めた地域も「甲府市中央部」に位置する。一方で、「支障が出ていない」と相関がある甲府市東部と甲府市南部は高齢化率が30%未満(2018年現在)であることから考えると、高齢化率が高い地域では、今後の自治会運営に関して、合併や解散を含めた何らかの対策が必要であると推測される。
 今後の自治体運営を検討する際に重要となってくるのは、該当自治会について先ほど示した5つの機能(Ⅰ相互扶助的機能、Ⅱ環境美化的機能、Ⅲ親睦機能、Ⅳ地域歴史・文化継承機能、Ⅴその他(組織運営))のうち、どの機能を優先させるかという視点であろう。ちなみに、2年前に解散した自治会では、「Ⅰ相互扶助的機能」を重視し、防災に特化した“地縁の会”を再結成して活動している。
 もうひとつの分析として、アンケートの自由意見について自然言語処理「テキストマイニング」を行い、語句と語句のつながりを見る「共起ネットワーク」で確認したところ、事業の廃止を求める内容や、甲府市自治会連合会と行政との関係を考えていかなければいけないとする意見や、配付物が多い傾向、河川・側溝清掃が負担となっている姿などが浮かびあがった(図表3)。
 また、「このアンケートが自治会の、そして上部団体の意識改革につながることを期待しています」と言った声も寄せられ、行政や各自治会を束ねる上部団体である自治会連合会が、各自治会が機能不全に陥っていることを黙認し、従来通りのやり方を通していることに弊害があることが示唆されたり、「行政は上部団体、あるいは自治会長に話して了承を得られれば、安易にそれが住民の総意だ、とすることに恐怖さえ覚える」といった意見も見られた。

 

図表3:自由意見のテキストマイニング
(ユーザーローカルテキストマイニングツール(https://textmining.userlocal.jp/))

 


 共起回数(一緒に出現した回数)が多かったものから、“自治会改革”の優先順位を考えると、①時代に合った甲府市と連合会の関係性を考えること、②負担を伴う事業の廃止を検討すること、自治会の下部組織である「組」の長(組長)が高齢化していることを考えること、自治会内で問題を抱えていること、配布物が多い現状を考えること、③手伝って、ふれあって頂いており、団体の協力はありがたいが継続性がないと(行事自体が)できなくなること、自治会の市民の中で(暴言を吐いたり、自分勝手な)老人がおり、支障をきたしていて困ること、の順番に取り組む必要がありそうである。

 

NPO団体、大学生へのヒアリング

 一方、実施したアンケート調査において、伊勢自治会から「NPOからの協力を得て助かっている」との内容のコメントを寄せていただいたため、NPOとの連携ができないか検討するとともに、近年、大学生が“まちづくり”の活動をするケースが多くなっていることを踏まえ、自治会と団体、学生が連携することで自治会の負担軽減や自治会機能の存続ができないか確認するべくヒアリングを行った。

NPO法人 山梨ダルクデイケアセンター>

 まず、伊勢自治会で活動協力を行っているNPO法人山梨ダルクデイケアセンターに話を伺った(写真1)。薬物依存症に苦しむ人たちの回復支援を行うNPO法人山梨ダルクデイケアセンターが自治会の活動に協力をしているのは、同団体の上部組織にあたる一般財団法人山梨ダルクの施設が甲府市の伊勢地区で開設された当初からである。施設として自治会に加入し、活動を行うことを基本としたのだという。

写真1:NPO団体へのヒアリング

 自治会活動を行うことを開設当初から決めていたのには理由がある。全国に活動拠点がある「ダルク」であるが、全国での開設に当たっては、地元からの反対運動が起こることが多い。「山梨ダルクは開設にあたって反対運動が起こらなかった唯一の地ともいえる」のだそうである。活動を熱心に行うのは、「受け入れてくれた地域への恩返し」と、山梨ダルクと地域をつなげる橋渡し役である元警察官で地域生活アドバイザーの深澤幸二氏は語る。
 また、同法人の理事で、山梨ダルクデイケアセンター施設長である小林郷志氏は、「薬物、アルコール依存症からの更生を行うためには、社会に入っていくことが必要。依存症になってしまうのは、社会との関わりを知らなかったケースが多く、自治会活動で人と関わることで、社会性を身に付けるとともに、受け入れてもらうことで自己肯定感を高める狙いもある」としたうえで、「地域の中でも、この施設をよく思わない人ももちろんいる。それも受け留めつつ、信頼を得るために、自治会活動のほか、警察とのソフトボール大会を行ったり、地域外や甲府市以外の甲斐市や山梨市でも祭りなどの手伝いを続けている。高齢化により独居老人が多くなっている中で、河川清掃などを手伝うことにより、同じ市民として声をかけてくれるようになる」と、地域と向き合う姿を話してくれた。時には『いつもありがとう』と野菜をもらったりといった触れ合いや、『うちの娘と結婚してずっとこの地域に居て』と請われることもあるそうだが、「そうやって人間関係が構築できることが何よりもありがたい。信頼関係ができるということは、施設入居者の回復にもつながる」と、今後、地域の人々に、災害での一時避難施設としての利用や、入居者に学歴が高い人が多いことを活かした地域の子供への学習補助も計画する。一方で、社会との関わりを閉ざさず、また、薬物の危険を正確に伝えるために、「薬物防止」についての講師としての活動を続け、「ありのままの自分」を地域で受け入れてもらう取組を続けていく考えだ。

地元在住の大学生へのヒアリング>

 自治会の高齢化が進む中、今後、活動の担い手として期待される若者は、自治会をどのように考えているか、山梨学院大学の2年生を中心に約20人にヒアリングを行った。なお、新型コロナウイルス感染拡大防止の関係から、オンラインによるヒアリングとした(写真2)。

写真2:大学生へのヒアリング

 

 まず、自治会についての印象を聞いたところ、「自治会自体が分からない」、「何をやっているのか分からない」、「両親が何か活動していたが面倒そうだった」、「どう考えながら地域のことをやっているのか、大人の“地域への想い”が分からない」といった意見が相次いだ。また、自治会との関わりについては、ほぼ全員が「小さいころは子どもクラブや運動会、お祭りに参加していたが、中学・高校生くらいになったころから部活などが忙しくなり参加しなくなった」とした。
 次に今後、自治会活動への参加の可能性について聞いたところ、「イベントの手伝い等はやってもいい」という声が圧倒的に多く、理由としては、「暇だから」、「面白そうだから」、「触れ合うことが楽しい」、「地域が好きだから」であった。しかしその際には「同じ年代の人がいれば」、「ゼミとして活動できれば」といった条件を提示する学生が多く、「自治会は高齢者ばかりで気が引ける」と、若者が活動しやすい環境づくりが必要であることがうかがえた。
 さらに、「強制されなければ」、「手伝った分だけお金をもらえたら」、「(有価物回収などを手伝って得たお金を使って)自分たちで企画・実施できたら」など、参加への自由度のほか、協力の対価や具体的な成果を求める学生も多く見られた。

 このNPO団体、大学生のヒアリングから得られたポイントとしては、次が挙げられる。

 

アンケート詳細分析とヒアリング結果から考える自治会と団体・学生との連携

 では、前述のアンケートの詳細分析とヒアリングの結果から得られたポイントを照らし合わせ、今後の活動における連携について考えてみたい。

 

図表4:アンケートとヒアリングから得られたポイントによる関連整理

 

 図表4で示した通り、自治会役員であれ、活動への協力者であれ、自治会での“報酬”を考えることが一つの要素となるだろう。また、活動についての今後の方向性を整理する必要がある。その際、「互いに認め合い、尊重し合う関係」、「自由度」、「同年代での活動」、「内容」の4つのポイントが押さえられれば、外部との連携といった可能性も広がる。外部と連携するということは、各々の自治会が外部とつながってまで残したいものを確認する機会となるだろう。これは各自治会が自地域の自治会活動の意義を見つめなおす行為であり、それによって、役員の真の仕事が整理されるとともに、自治会の意義や価値が住民同士で共有されることで地域の意向を理解し推進していく新たな担い手の確保につながると考えられる。
 なお、自治会の意義や価値を見つめなおす際には、前述のⅠ~Ⅳの自治会の主たる機能のうち、何を重視するのかを皆で協議・決定することが必要となるだろう。

 

自治会活動の存続に向けて

 明治時代から始まったとされる自治会。戦後には国の政令により、一度はすべて解散させられたものの、生活や安全面等の維持などのために行政も住民協力が必要であったために、解散後も時を待たずに多くの自治会が再建されたという日本独特のシステムは、地縁による人とのつながりを大切にしてきた日本人の姿を代弁しているようである。東京商工リサーチの調査によると、2017年時点で、明治創業の企業で現存しているのは全国で1%に満たない。一方で、自治会はある意味、当然の組織として、現在でも全国の多くの地域で続いている。「時代に合わない」として切り捨てる安易な行為はあまりに悲しい。
 しかし、前述のアンケートの自由意見からも見えたように、行政や上部団体は、従来のような機能を期待するのは難しいと考えるべきだと思われる。
 大半の自治会組織は、従来の日本の企業形態同様、上からの命令を実行する「トップダウン型」、「ピラミッド型」の組織である。

 

図表5:トップダウン型とボトムアップ型

 

 しかし、企業は現代の様々なライフスタイル、多様な価値観などに対応するため、下からの意見を吸い上げて実行する「ボトムアップ型」あるいは「フラット型」が必要だとして組織改革が迫られている(図表5)。また、この改革を推進するためには、従来の価値観に固執せず、柔軟な考え方を取り入れる意識改革をすることが必要である。これは、自治会という組織にも同様に当てはまるとともに、ヒアリングで確認されたポイントとも一致する。
 一方で、ボトムアップ型やフラット型の組織を作るためには、対等の立場で話し合える仕組みづくりが必要である。以前のレポート(Vol.261-2)で触れた都留市では、市で実施したアンケート結果を受けて自治会連合会長と話合いの場を設け、図表6の通り、積極的に対応を進めている。

 

図表6:都留市での課題と取組内容

 

 なお、甲府市協働支援センターでは、今後、行政、団体、住民や学生がフラットに話し合える仕組みづくりを検討していく予定となっている。始めに各団体や人をつなぐ「核」となる人の養成に着手することとしており、、筆者も一緒に仕組みづくりに携わるつもりである。

 

終わりに

 自治会の役割は、その地域性に加え、構成する年齢層、世帯規模などによって、課題が様々に異なる。今回は、その1つの事例として甲府市を例に確認をしてきたが、都留市のように行政からの依頼が多いことが大きな課題になっているケースもあるだろう。
 自治会活動の活性化に特効薬はない。ただ、今回は、「手当」がなく、「役員のなり手」がなく、「行事、活動等の参加者」が少ない場合に「活動に支障が出る」ケースが多いことが分かり、一方で、団体や学生は、やり方によっては連携・協力できる可能性が見えてきた。
 筆者はそれぞれの活動内容を確認しながら、従来のやり方について意識改革を促す方策を検討するとともに、新たな活動に向けた「仕組みづくり」という、「免疫強化」を考えていきたい。


協力:NPO法人山梨ダルクデイケアセンター、山梨学院大学、甲府市自治会連合会、甲府市協働支援センター、都留市地域環境課
参考:東京商工リサーチ「全国『明治創業企業』調査」(2017年)