Go to ご近所散歩
毎日新聞No.585【令和3年3月7日発行】
先日、ある自治体の介護保険事業の今後について考える会議に出席させていただいた。会議には65歳以上の高齢者が多く出席しており、普段、自分の両親以外の高齢者と話をする機会がほとんどないため、高齢者の声を直接聴く貴重な機会となった。
高齢者がコロナ禍により直面している課題として、外出の機会が減っているという声が最も多く挙がっていた。昨今、不要不急の外出を控えることが求められているため、まだまだ元気な高齢者であっても家に閉じこもっていることが多くなっているとのことだった。
高齢者が家に閉じこもることは、歩行機会の減少による筋肉の量や質の低下を招くほか、気分も落ち込み、介護が必要となる一歩手前の状態を指す「フレイル」につながってしまう。これに加えて、仲間と集まれないことによるコミュニティの希薄化や、保育園等における高齢者との触れ合い行事の中止などによる生きがいの低下も懸念される。
高齢者に限らず、運動不足に陥っている者が今まで以上に多くなっていると言われており、山梨県では簡単にできる運動を紹介する動画を作成して配信を行うなど、運動不足解消に工夫して取り組んでいるところである。新型コロナウイルスの影響で多くの死者が出ているアメリカでは平均寿命が1歳短くなったとの報告があったが、日本一を誇る山梨県の健康寿命への影響も危惧される。
筆者が出席したその会議では、こうした課題に対して、歩くことや散歩の大切さを訴える意見が多く挙がった。散歩の意味を辞書で調べると「気晴らしや健康のために、ぶらぶら歩くこと」とある。適度に体を動かしながら気分転換にもつなげられる散歩は、密を避けなければならないこのご時世において、うってつけの活動と言えるのではないか。さらに、散歩を近所で行えば、ご近所さんと顔を合わす機会ができ、希薄化が一層懸念される地域のコミュニティづくりにも役立つだろう。
つい先ごろ、二十四節気の啓蟄を迎え、日を増すごとに暖かさを感じられる季節となった。虫が冬眠から目覚め活動を始めるように、私たちも近所の散歩を始めてはいかがだろうか。
(山梨総合研究所 主任研究員 伊藤賢造)