Vol.273-1 シミックグループによる山梨県での新型コロナウイルス感染症ワクチン接種体制整備への支援について
シミックホールディングス株式会社 代表取締役会長 CEO 中村和男
1.はじめに
新型コロナウイルス感染症の勢いは止まらず、高齢者へのワクチン接種もようやく端緒についたばかりです(2021年4月現在)。山梨県は2020年2月、日本人が初めて新型コロナウイルス感染症を身近なものとして意識したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で確認された新型コロナウイルス感染患者の県内病院での受け入れに始まり、感染拡大防止対策の検討・実施などを早い段階から行ってきました。幸いなことに山梨県は東京に隣接する自治体の中では感染者数がかなり少なく、感染拡大防止対策の実施など、上手に管理されている自治体と言えます。そんな山梨県においても、少しでも早く、県民の皆様にワクチン接種を実施することが求められています。
さて、新型コロナワクチン接種は、「世界ですべての人々を対象に、同じ時期に新しいワクチンの接種を実施」という前例のないビッグプロジェクトです。山梨県とシミックグループは、かなり早い段階から円滑なワクチン接種体制の構築・実施などについて協議を重ねてきました。今回のワクチン接種は、「取り扱いが非常に難しいワクチン製剤が国から地方自治体に供給され、各地の接種会場で全住民になるべく迅速に接種を行う」という従来のサプライチェーンとは異なる方法で行われることや同時期に集団へのワクチン接種を実施することなど、さまざまな課題があります。
<新型コロナワクチン接種における主な課題>
① ワクチン接種情報の管理
ワクチン接種においては、いつ・誰が・どのワクチンを打ったか(製造番号)などの情報を管理することが非常に重要です。今後、複数のワクチン製剤が実用化された場合、同じ種類のワクチンを決められた接種回数・間隔で接種する必要があるだけでなく、製剤ごとに接種回数・間隔が異なる可能性もあります。また、これまで使われたことのない新しい種類のワクチン製剤ですから、副反応へのフォローアップは必須です。つまり、安全・安心なワクチン接種を実施するには、個人へのワクチン接種情報をいかに迅速かつ正確に、最小限の負担で記録していくかが重要なのです。山梨県との協議の中で、こうした個々人のデータ管理の重要性をご理解いただき、弊社のデジタル情報管理システム「harmo(ハルモ)ワクチンケアwithコロナ」を山梨県内のいくつかの自治体で導入していただいています。
② ワクチン接種体制の構築
住民へのワクチン接種体制を構築するには、個々の自治体の状況により解決すべき課題やニーズは異なります。その上で、各自治体が全住民への迅速かつ適正な接種を行うには、状況に合わせたシミュレーションを実施しながら、独自の体制を構築していくことが必要です。
③ 継続的なフォローアップ
ワクチンは接種した後が「はじまり」でもあります。今後は、変異株に対してもワクチンを接種し続ける、という想定も必要です。ワクチンとコロナ治療薬との併用、という状況もあるかもしれません。将来を見据え、継続的なフォローアップが可能なシステム導入も重要です。
残念ながら、現在も国内におけるコロナ感染者の増加傾向は続いています。世界各国の情報を取り入れながら先手を打って対策を行うことが大変重要です。山梨県では、長崎知事のリーダーシップの下、現状の課題や対応策などが情報開示され、県民の方々にご理解いただいている環境の中で、シミックグループが支援させていただける状況を大変光栄に思います。シミックグループは、自治体や医療機関では対応が難しい課題に対し、これまでの医薬品開発で培った経験やノウハウを生かし、安全で効率的な接種体制構築の支援を行っています。
2.シミックグループについて
シミック(CMIC)は、1992年に日本で初めてCRO(医薬品開発支援)事業を開始しました。今では、CROの枠を超えて医薬品開発に関わる全ての業務においてサービスを提供する体制を整え、開発から製造、営業・マーケティングまでの医薬品に関する総合的な支援業務を提供しており、世界中に7,000人を超える従業員と25支社・関連会社を擁しています。現在、シミックグループは、日本で最大級のCROであると同時に、医薬品開発、SMO(治験施設支援)、医薬品製造、薬事コンサルティング、そして営業およびマーケティングソリューション等における包括的なサービスを提供しています。また、製薬・バイオテクノロジー・医療機器の企業の日本市場参入や、アジアでの臨床試験実施、米国と日本における医薬品開発および製造のサポートなども積極的に行っております。
シミックグループは、「画期的なソリューションを通してヘルスケアに新たな価値を創造し、必要とされる医療やケアシステムを1日でも早く届けます」をミッションとし、世界中の誰もがより健康でその人らしい生活を送るため、ヘルスケアの革新に貢献しています。
3.Healthcare Revolution 2.0
激変の製薬・医療業界において、ヘルスケアという観点に立たないとビジネスは立ちいかなくなるのではないか、と危惧しています。そのような背景の中、2020年7月より「Healthcare Revolution 2.0」としてプロジェクトを発足し、ヘルスケア事業に注力してまいりました。

(1)従来のファーマ(製薬)モデルから、Innovative Healthcare Pharma Modelに変換
シミックグループでは電子お薬手帳を基盤としたPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)システム「harmo(ハルモ)」を活用し、製薬会社のバリューチェーン・サプライチェーンの変革やマーケットアクセスのスピード最大化に焦点を当て、注力していきます。
(2)ヘルスケアシステムの改革
「患者様中心の医療」の実現を目指し、データ利活用による健康管理や未病・予防・疾病管理等を行う「ヘルスケアステーション」の創設を検討中です。「ヘルスケアステーション」を薬局内に設け、ヘルスケアに関するコンサルティングの実施やサービスの提供を目指し、実証実験を実施しています。日本初のCROを始めた当初からの想いであり、シミックのDNAである「CMIC’S CREED(https://www.cmicgroup.com/corporate/creed?cl=navi)」をもとに製薬企業・医療機関・患者様など誰もがその人らしくまっとうしていくために、ヘルスケア分野に革新をもたらすべく、尽力してまいります。
(3)ヘルスケア事業における人材バリューの創出
シミックグループは、大きく変化するヘルスケア市場に対し、柔軟に対応可能な人財育成に注力しています。2021年2月より、国内グループ会社において「ヘルスケアプロフェッショナル認定制度」を開始しました。本認定制度は、研修やワークショップ等でヘルスケアに関する知識を習得した従業員を認定し、ヘルスケア領域にも活躍の場を拡大する制度です。新型コロナウイルス感染症の蔓延する環境下や地震・災害など有事の際にも、ヘルスケア関連企業として貢献し、急速に変化する市場において柔軟かつ迅速に対応できる人財を擁した企業となるべく、本認定制度を創設しました。
シミックグループは、“画期的なソリューションを通してヘルスケアに新たな価値を創造し、必要とされる医療やケアシステムを1日でも早く届けます”をミッションとしています。「ヘルスケアプロフェッショナル認定制度」は、シミックグループの全従業員がこのミッションを遂行するため、個々の社員が有する医療・ヘルスケア領域で培ったスキルや経験を活かし、大きく変貌し続けるヘルスケア領域において求められる新たな役割に挑戦し柔軟に対応できる人財を育成する施策です。
4.山梨県とのかかわり
私自身が甲府市出身であることに加え、山梨県内に研究機関であるグループ会社「シミックファーマサイエンス株式会社」の本社を置いており、生命科学に携わる産業として、県民の生命と健康を守るため協力してまいりました。
これまで、山梨県におけるヘルスケアおよび保健体制強化および地域住民の方々の健康増進の実現を目指して、以下の通り連携協定の締結やさまざまな取り組みを行ってまいりました。
2018年10月24日:甲府市とヘルスケア分野の課題解決を目的にした連携協定を締結
地域の特長を活かしたヘルスケアの課題の解決や、甲府市民の健康づくりを産官学民で連携し、健康課題の解決を目指すことを目的としています。
また、本連携協定の締結に併せて、甲府市の地域課題の解決を目的としたヘルスケアコンソーシアム「甲府IKIGAIコンソーシアム」を設立しました。このコンソーシアムでは、卓越した技術や優れたサービスを持つ企業を結集し、革新的な製品・サービスの創出を目指しています。
2018年11月26日:国立大学法人山梨大学との研究等連携協定を締結
山梨大学とシミックの産学連携により、ヘルスケア分野における研究開発、教育・研修、人材育成・交流等に関して相互に協力し、豊かで活力ある地域社会の形成と地域の振興を図り、相互の発展を目指しています。
2020年6月12日:山梨県と県内における新しい防疫体制構築を目的とした連携協定を締結
国内最大級の非臨床CROであるシミックファーマサイエンス株式会社(本社:北杜市)において、非常時には研究施設「シミックバイオリサーチセンター(北杜市小淵沢町)」にて迅速な検査体制拡充に協力しています。2020年6月に山梨県と締結した連携協定により、県からPCR測定機器購入の補助を受け、検査体制を整えてきました。平時は機器の運転、点検、精度管理を行い、非常時には県の要請により検査施設として稼働しようというものです。また、学生時代等にPCR測定器を扱った経験はあるものの、現在の通常業務では使用していない対象者に対し、非常時に稼働できるよう、トレーニングを行っています。
5.山梨県におけるシミックグループによる新型コロナウイルスワクチン接種への支援
2021年4月12日より、65歳以上の高齢者およそ3600万人を対象に新型コロナウイルスワクチン接種が開始され、順次接種が行われ始めています。
各自治体においては、接種開始前の事前準備として、接種会場や業務に携わる人材の確保、地域住民への個別通知(予診票、接種券)の手配、そしてワクチン接種や手続等に関する相談対応などの課題に対する迅速な対応が必要とされていました。
さらにワクチン接種開始後の対応として、接種後のデータ管理や副反応への対応・継続的なフォローの実施など住民の方々の不安軽減への取り組みに加え、接種に携わる医療従事者の手配や管理も求められています。
2021年2月1日、山梨県とシミックHDは山梨県内における新型コロナウイルス感染症ワクチン集団接種の体制整備を目的とした包括連携協定を締結しました。本協定により、新型コロナウイルス感染症ワクチン接種体制の構築にあたって、次の三つの柱で相互連携を行っています。
① ワクチン接種体制の構築支援(専門的相談対応サポート、ワクチン接種に関する県と市町村との調整等)
② ワクチン接種会場の円滑な運営に関するサポート
③ デジタル情報管理システム導入を含めた長期的な副反応フォローアップ
上記③のデジタル情報管理システムについては、シミックグループが保有する独自システム「harmo(ハルモ)ワクチンケアwithコロナ」を活用した予防接種管理の仕組みを用いることにより、接種したワクチンの種類(ロット含む)、接種日時等がクラウド上でデータ管理可能になるなど、山梨県民のワクチン接種時および接種後の長期フォローアップを実現します。
「harmo(ハルモ)ワクチンケアwithコロナ」は、小児ワクチン接種の誤接種を防ぐために開発したharmoを使ったワクチンケアのシステムを応用し、誰でも簡易な操作で使用でき、接種会場での効率的なフロー構築や入力ミスを防ぐことが可能なシステムです。接種券に記載されるバーコードをスキャンで読込み、対象者を登録、ワクチン(製品)についているGS-1コード(製品情報を保持するバーコード)を同様にスキャンで読込み、いつ・誰が・どのワクチンを打ったかを記録します。このデータをもとにすれば、接種間隔や種類が異なるワクチン接種の間違いを防ぎ、さらにはワクチンの品質に問題が生じた際は対象者へ連絡が可能になるなど、継続的なフォローアップが可能となります。なお、本システムは個人を容易に特定できる情報とは分離して健康情報を管理する革新的なテクノロジーを基盤としています。
6.最後に
今後は、ワクチンを接種しながら新型コロナウイルス感染症をマネジメントする段階に入ることになるでしょう。接種するワクチンが不足している現在は、まだ「いかにワクチン接種を円滑に実施するか」に注目が当てられがちですが、シミックグループでは、これから確実に必要となる長期的なフォローアップやアフターケア(副反応情報等の個人へのフィードバック等)にも着目しています。
医薬品開発に携わる者の使命として、多くの方々へ安心安全を届けられるよう、これからも貢献していきたいと思います。
出典:平成29年10月24日 厚生労働省健康局健康課「予防接種の間違いの防止について」
ご参考:デジタル情報管理システム「harmo(ハルモ)ワクチンケアwithコロナ」https://youtu.be/-UgYFN9emkM