Vol.273-2 スポーツ少年団の現状と活性化への取り組み
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 鷹野 裕之
1.はじめに
山梨県内のスポーツ少年団の活動はどう移り変わってきただろうか。県スポーツ協会によると、団員登録数が最も多かったのは、1985(昭和60)年度(1986年3月)の1万8,716人であった。山梨でかいじ国体が開かれた年で、当時は県内64市町村のうち55市町村に580団のスポーツ少年団があった。
では、2020(令和2)年度はどうか。新型コロナウイルス感染症拡大の影響が大きく、2019(令和元)年度の9,049人から1,133人(12.5%)減り、7,916人の登録だった。24市町村に480団があるが、この35年間で山梨県内では団員数にして1万800人、団数で100団が減ったことになる。2020(令和2)年度の1,133人減は特別な例ではあるが、団員が減少傾向にあり、ここ数年は平均200人前後減少していた。県スポーツ協会はワクチン接種などコロナ対策が少しずつ進めば、団員数が再び増加に転じる可能性はあると期待する一方で、2019(令和元)年度の9,000人台にまで戻すのはかなり難しいという見方を示している。
登録団員数の減少の理由としては、少子化が指摘されているが、スポーツ種目や習い事の多様化、スポーツ少年団組織に属さないクラブチームの増加なども挙げられている。団員減少は全国的な傾向でもあり、日本スポーツ協会は幼児まで登録枠を拡大し、「幼児期からのアクティブ・チャイルド・プログラム」普及に努めるなどの増加策を取っているが、成果が表れるのはしばらく先になりそうである。県スポーツ協会や各市町村スポーツ協会(体育協会)なども危機感を強め、指導者の資質向上や円滑な団運営への支援にもこれまで以上に力を入れると同時に、団員の増加を促すためにホームページを活用してPRのお手伝いをしたり、体験会や競技の枠を超えた団員の交流の機会を創出したりするなど、増加・定着策を打っている。課題は何か、効果的な団員増加策にはどんなものがあるのか、考えてみたい。
2.スポーツ少年団とは
スポーツ少年団とはどのような組織か。公益財団法人日本スポーツ協会の「スポーツ少年団育成(事業)報告書(スポーツ少年団年鑑)」や協会ホームページ資料などを基に紹介したい。
スポーツ少年団は1962(昭和37年)に創設され、全国で22団、中学生を中心とした団員753人から出発した。以来、「一人でも多くの青少年にスポーツの歓びを提供する」「スポーツを通して青少年のこころとからだを育てる」「スポーツで人々をつなぎ、地域づくりに貢献する」という理念を掲げて地道な活動を続けている。
日本スポーツ協会のホームページには、「子どもたちはスポーツを楽しむだけでなく、学習活動、野外活動、レクリエーション活動、社会活動、文化活動などを通じて協調性や創造性を養い、社会のルールや思いやりの心を学びます」とある。
また、大会や、スポーツ少年団間の交流会、総会などの際に、団員や指導者が唱和する綱領は次のようになっている。
【日本スポーツ少年団団員綱領】
1.わたくしたちは、スポーツをとおして健康なからだと心を養います。
1.わたくしたちは、ルールを守り、他人に迷惑をかけない、りっぱな人間になります。
1.わたくしたちは、スポーツによって、自分の力を伸ばす努力をします。
1.わたくしたちは、スポーツのよろこびを学び、友情と協力を大切にします。
1.わたくしたちは、スポーツをとおして世界中の友だちと力をあわせ、平和な世界をつくります。
【日本スポーツ少年団指導者綱領】
1.わたくしたちは、次の時代を担う子どもたちの健全育成のために努力します。
1.わたくしたちは、スポーツのもつ教育的役割を果たすために努力します。
1.わたくしたちは、子どもたちのもつ無限の可能性を開発するために努力します。
1.わたくしたちは、つねに愛情と英知をもって子どもたちと行動するよう努力します。
1.わたくしたちは、スポーツを愛する仲間とともに世界の平和を築くために努力します。
各団体は「単位団」と呼ばれる。子どもたちが自主的にメンバーとして参加し、「自由時間に、地域社会で、スポーツを中心としたグループ活動を行う団体」として位置付けられ、団員のほか、リーダー、指導者・役員・スタッフ、育成母集団等により構成されている。団員が活動を通じて歓びや楽しさを体験し、仲間との連帯や友情、協調性や創造性などを育み、良き社会人として成長することを目的に活動している。
3.山梨では1985(昭和60)年度をピークに登録団員数は減少
日本スポーツ協会の資料によると、国内のスポーツ少年団の団員数が最も多かったのは1986(昭和61)年度の112万1,875人で、団数も3万348団を数えた。
山梨の団員が最多だったのは1985(昭和60)年度で、580団(全国比0.020%)、1万8,716人(同0.017%)が登録していた。
一方、直近の数字をみると、2019年度は全国で3万1,302団、団員数64万9,228人、指導者数18万6,410人の登録と減少傾向をたどっており、県内も514団(全国比0.016%)、9,049人(同0.014%)、指導者2,710人(同0.015%)と減少が続いている。
少年団員数ピークの1985(昭和60)年度は当時の県内小中学生総数11万1,256人に対し、団員数は1万8,716人で、加入比率は16.82%だった。一方、2019(令和元)年度のスポーツ少年団員登録数9,049人は県内の小中学生数に対して14.72%にあたり、新型コロナウイルスの影響を直接受けた2020(令和2)年度は7,916人とさらに落ち込んだことから、登録割合も13.12%とさらに下がっている。このため、チームスポーツなどを中心に、団員減少によって団体が活動縮小や停止を余儀なくされることで、団員減少が一層進む悪循環も生じている。
これは、少子化をはじめスポーツや習い事の多様化が進み、スポーツ少年団に属さないクラブチームが増えていることや、電子ゲームの普及によるスポーツ離れが団員減少の理由として指摘されている。
県内の競技別内訳を見ると、1985(昭和60)年度は、サッカーが最多で5,372人、次いで野球(軟式・硬式)4,255人、3位バスケットボール2,598人、4位剣道(居合道含む)2,519人、5位バレーボール1,628人となっており、6位以下は柔道836人、7位野外活動525人、8位空手道454人、9位水泳452人、10位スケート426人、11位庭球(硬式・軟式)258人、12位卓球175人などとなっていた。
一方、2019(令和元)年度は、サッカーが最多で1,972人、次いでバスケットボール1,409人、3位軟式野球1373人、4位剣道(居合道含む)802人、5位バレーボール662人、6位空手道537人、7位ソフトテニス276人、8位柔道245人、9位水泳150人、10位陸上119人、11位バドミントン111人、12位卓球109人などとなっている。
上位種目では軟式野球の順位下降と団員数の落ち込みが目立つが、顔触れはほぼ同じである。武道では、空手道が柔道を抜いて躍進しており、剣道に次ぐ武道2番手の位置を確実なものにしている。
4.団員増加への取り組み
スポーツ少年団人口の減少に危機感を持った日本スポーツ協会は、2016(平成28)年度までは小学生以上の登録に限っていた団員登録年齢を、2017(平成29)年度登録から3歳以上に引き下げた。「幼児期からのアクティブ・チャイルド・プログラム」普及に努めるなどの増加策を取っている。
また、山梨県は2019(令和元)年6月、山梨県の実情に即した地方スポーツの推進を目指し、「県民誰もが、いつでも、どこでも、スポーツに親しめる元気なやまなしをつくる」ことを基本理念とする、「山梨県スポーツ推進計画」を策定した。
このほか、県スポーツ協会も2020(令和2)年4月に「第2期スポーツ推進計画」をまとめた。その中で目標については、少子化でスポーツ少年団人口が減ることはやむを得ない面もあるとして、人数から比率に置き換え、県内の小中学生人口に対する登録スポーツ少年団員の比率を15%に高めることにしている。スポーツ少年団の普及には、指導者の資質の向上も重要なことから、山梨県スポーツ協会は市町村協会と連携しながら、各種講習会の充実に努めている。
県内の各市町村でも、さまざまな取り組みを実施している。
南アルプス市では、市スポーツ協会少年団本部が2016(平成28)年度から秋の体験まつりを開いて、幼児や小学生にスポーツ少年団に興味を持ってもらう機会をつくっている。それまで団員相互の交流会を開いていたが、団員減少に伴い交流会の参加者も減少してきたことから、体験まつりに切り替えたという。また、地域のCATVと連携して、各団体のビデオを作成して体験まつりで映像を紹介したり、CATVで放映してもらったりするなどの取り組みをしている。2019(令和元)年9月に櫛形総合体育館で開かれたまつりには、市内で活動するスポーツ少年団10団体が参加し、未加入の子どもたちがバスケットボールや剣道、バレーボール、空手道、少林寺拳法の5競技を体験した。特に剣道の面につけた風船を竹刀で割る風船割りは人気が高く、順番を待つ行列ができたという。
甲斐市では教育委員会が各団から提出を受けた資料を各小中学校に提供し、スポーツ少年団員募集のチラシを配布しているほか、甲斐市ホームページ上に各団を紹介するページを設け、PRに努めている。秋には競技・種目の枠を超えた市全体のスポーツ少年団員の交流会を開き、400人前後が参加している。また、毎年4月から5月にかけて市スポーツ協会が剣道体験教室を甲斐市剣道連盟主管のもとで開いており、幼児から中学生まで剣道を体験する機会を提供している。
山梨県スポーツ協会は今年4月10日に小瀬スポーツ公園武道館で、県スポーツ少年団フェスティバルを開いた。昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止しており、2年ぶりの開催となった。
競技の枠を超えた団員の交流や、指導者として活躍するリーダーズクラブ(小学6年生から22歳まで)が運営することで、その存在を知ってもらう機会として2008(平成20)年度に始まったイベントである。以前は500~600人が参加する人気の催しだったが、一昨年の参加は160人台と減少していた。
小瀬武道館の利用人数制限も考慮して今年の定員を160人に設定して募集したものの、コロナ禍で申し込みは思うように伸びず、当日参加したのはサッカー、バレーボール、剣道など9団体の93人であった。それでも参加したマスク姿の団員たちは「○×クイズ」や鬼ごっこなどのレクリエーションで競技の枠を超えて交流し、「友達ができた」「楽しかった」などとうれしそうに話していた。
参加者数が減っていても、こうした催しを続けることが、団員の増加や定着につながると思われる。
5.「鬼滅の刃」人気をきっかけとした剣道人気再燃の兆し
スポーツ少年団の活動については、団員数が減っているという暗い話ばかりではない。剣道を例にとってみると、昨年、一大ブームとなった「鬼滅の刃」や、剣道シーンが数多く出てくる「半沢直樹」の人気もあって、剣道に興味を持つ子どもが急増している。ある峡中地区の剣道スポーツ少年団指導者からは、この3月だけで13人もの子どもが入団したという話を聞いた。
剣道は国際剣道連盟が3年に一度の世界選手権は開催しているものの、日本の伝統文化として伝わる武道の姿を継承するため、あえて五輪への参加を希望しない独自路線を歩んでいることもあって、発信力が課題となっている。全日本剣道連盟が定めた剣道の理念が「剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である」としているように競技本位の道を選んでいない。五輪種目である柔道、空手道に比べてマスコミへの露出回数は極端に少ないが、全国的に見ると、それでいて武道の中では40年以上も前から一貫して団員数トップを保っている。
1980(昭和55)年度以降の県内を見ると、剣道は1981(昭和56)年度(2,613人)、1982(昭和57)年度(2,571人)と2年連続で野球に次いで2位の登録団員数があり、1983(昭和58)年度には順位は野球(4,263人)、サッカー(3,444人)に次いで3位ながらも、過去最多の3,093人が登録していた。県内に74団があるなど剣道花盛りのころで、「100人前後の団員が所属している団体がいくつもあった」と当時を懐かしむ関係者は少なくない。
筆者自身も関係する、甲斐市スポーツ協会が毎年4~5月に市内の幼児から中学生を対象に開いている剣道体験教室(市剣道連盟主管)は例年、小学生~中学生を中心に20人前後が参加していたが、今年は広報「かい」3月号に教室のお知らせが掲載されると同時に、例年とは明らかに違う素早い反応があった。教育委員会の担当者からも「『鬼滅の刃』の影響でしょうか、毎日のように申し込みの電話があった」と話す。
剣道の対人稽古ガイドラインはコロナ対策として、マスクの着用を義務付け、剣道具(用具)の貸し借りは極力しないことなどを求めている。例年は貸し出していた竹刀を参加者専用のものにする必要があったため、幼児や小学生を中心に34人の申し込みがあった時点で締め切り、今回は中学生の参加は遠慮してもらった。
幼少年の剣道人気が高まっていることを受けて、例年の平日夜の1時間30分の教室から、土曜夕方1時間の教室に設定を変更したことも、「申し込みやすかった」と歓迎してもらえた理由である。主管する側も、もっと参加者の目線で教室を開催しなければいけなかったことに今さらながら気づき、反省している。
4月に全5回のうち3回の教室を消化したが、参加者と一緒に見学に訪れたきょうだいから「わたしもやってみたい」という声が上がり、結果的には36人が参加し、毎回の参加率も90%以上という高さを保っている。子どもたちから「剣道は怖いイメージがあったが、楽しかった」などの感想が聞かれる。
幼児は、スポーツ少年団入団に直結しないかもしれないが、剣道を始めとする武道やスポーツに興味を持つきっかけになってくれたらうれしいと思う。指導する側は甲斐市剣道連盟に所属する会社員や教員らで、生涯スポーツをさらに盛んにするお手伝いをしようという心意気で、ボランティアとして参加してくれている。
6.おわりに
山梨県は2018(平成30)年6月、定例県議会で2031(令和13)年の国民体育大会を招致する方針を示した。それを受けて県内の室内競技の協会、連盟の9団体が大規模屋内施設「アリーナ」新設の要望書を提出した。
昨年、新型コロナウイルスの影響で年内実施を断念した鹿児島県の国民体育大会について2023(令和5)年に延期して実施することを日本スポーツ協会が決定したため、国体が1年順送りになることになり、山梨は2032(令和14)年以降の招致が可能となる見通しとなった。
山梨県においてスポーツ少年団人口が過去最多となった年がかいじ国体が開かれた1986年(昭和61年=年度は1985年度)だったことを振り返ると、今回も2032(令和14)年ごろ招致見通しの「次期山梨国体」に向けて選手強化の構想が早晩、本格化することが予想される。11年後に少年の部(高校生)の主力になるのは現在、5~7歳の幼児~小学1年生の世代と予想されるが、特定の世代にだけ選手強化が偏るのは好ましいこととは言えず、今のうちから無理のない、しなやかな強化策をとる必要があると考える。
また、小さいころから特定の競技に専念するのではなく、総合型スポーツクラブの取り組みのように、むしろ球技や武道などいろいろな競技・種目に子どもたちが触れる機会があることが望ましい。最も大切なことは生涯スポーツの底辺拡大であり、幼いころからスポーツや遊びに興味を持って体を動かす環境があることである。
その一つのきっかけとして、スポーツを愛する一人一人がスポーツ少年団の活動についてもっと多くの人に興味・関心を持ってもらえるような行動をしていくことが肝要だろう。
参考文献・参考資料
・財団法人日本体育協会(公益財団法人日本スポーツ協会)日本スポーツ少年団『スポーツ少年団育成(事業)報告書』(1980年度~2019年度)
・山梨県『山梨県スポーツ推進計画』(2019年6月策定)
・公益財団法人山梨県スポーツ協会『第2期スポーツ推進計画』(2020年4月策定)
・公益財団法人日本スポーツ協会ホームページ