弱みと向き合う強さを


毎日新聞No.589【令和3年5月2日発行】

 新年度を迎えて早1か月。季節はあわただしく駆けていき、気がつけば新緑のまぶしい季節である。年度末に人事異動があった組織では、変化した環境にほんの少し、慣れてきた頃だろうか。

 当財団でも新しい仲間を迎え、卒業していった仲間から受け取ったバトン(地域づくりへの想い)をしっかり繋げていけるよう、年度当初に「どういう組織でありたいか」を研究員全員で議論したところである。当財団は1998年の設立以来、「地域から未来が見える」をテーマに掲げ、計画策定支援や自主研究などを通じて、地域社会が抱える諸課題の解決に向けて調査・研究を進めてきた。そのような使命と歴史があるにもかかわらず、「地域社会」や「諸課題」、「解決」といったキーワードで語り出したとたんに、無意識に「他人事」で「表層的」な思考回路になっていないだろうか、という気づきが議論の中で生まれた。
 そこで、「地域の課題が解決しないのはなぜか?」について、各研究員が地域で生活する当事者として「なぜ」を繰り返していった結果、意外にも「弱み」とでもいうべき個人の気持ちに行き着くこととなった。例えば、失敗することで、自分の評価が下がることや必要とされなくなることへの不安や恐れである。通常、このような気持ちは個人の奥深くに閉ざされ、他人がうかがい知ることはない。しかし、これらの「弱み」こそが課題解決のネックになっているとすれば、遠回りのようでも、この弱みに向き合うことなしに、根本的な解決を導くことは難しい。
 「SNS映え」や「マウンティング」などの言葉が次々に生まれるほど、強く、華やかに、素敵に見せること・見えることがもてはやされる風潮がある。しかしながら、強くあろうとし続けることはある意味いびつであり、いくら取り繕った強さを見せても、実のところ充たされることはない。

 哲学者ラルフ・ワルド・エマーソン曰く、「私たちの強さは弱さから生まれる」のである。

(山梨総合研究所 主任研究員 山本直子