メンタルヘルスの処方箋


毎日新聞No.593【令和3年6月27日発行】

 テニスの大坂なおみ選手がうつに悩まされてきたことを告白し、全仏オープンを棄権したのは先日のこと。芸能界では、深田恭子さんが適応障害の治療のため活動を休止するなど、著名人のメンタルヘルス(心の健康)に関する報道が相次いだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、うつ病・うつ状態の人の割合は増えている。経済協力開発機構(OECD)のメンタルヘルスに関する国際調査では、日本国内のうつ病・うつ状態の人の割合は、2013年調査では7.9%だったのに対し、新型コロナ流行後の20年には17.3%と2.2倍になった。米国では19年調査の6.6%から23.5%に、英国も9.7%から19.2%と増加している。
 パンデミックで家族を失った人もいるだろう。様々な制限による心的負担が増えた結果とも考えられる。かくいう筆者も数カ月、心の不調に苦しんだ1人だ。気軽に友人と出かけられない、楽しみにしていた旅行の中止、家族の感染症対策に神経質になるなど、少しずつ積み重なった抑圧が響いたのかもしれない。
 周囲から聞いた克服法を実践し一時的には回復しても気分が晴れない。ネットショッピングで気を紛らわし、ランニングで無心になり、インスタグラムで名言を集め、本を読みあさり、サブスクリプションで映画鑑賞し、パワーストーンを買い込み、何種類ものサプリメントに頼っても変化がなく、いよいよ医者に頼るべきか、と悩み始めたところで意外な救世主が現れた。YouTubeだ。
 ポジティブな応援で有名な方のコメントを集めたYouTube動画 のシャワーを朝晩浴び続けたところ、突然、それまでが嘘のように心が軽くなった。
 「大丈夫だ」、「君はそんなもんじゃないだろ」、「できる」、「沈んでも昇れ」-。単純な言葉なのだが、常に耳元で鼓舞され続けたことが私には効いたようだ。

 人は誰でも承認欲求を持っている。コロナ禍で人に会うことが少なくなる中、友人、知人、同僚で認め合うことが少なくなっているのは事実だ。今回、こうした言葉が胸に響いたのは、YouTubeというこれまでと違う手法を通じて自分を受け入れることができたからだと感じる。
 様々な手段がある中、自分の不調の原因とざっくばらんに向き合い、気晴らし、気分転換、気づきにつながる方策をいろいろ試してみるのも今時の処方箋なのかもしれない。

(山梨総合研究所 主任研究員 渡辺 たま緒